1.A社の社長は会長が保有するA社株式の買い取りを検討しています。
2.取引価額は個人間の取引であるので贈与税の課税が生じなければよい
ということで相続税評価額によることと社長は考えております。
3.手順としては、まず会長の成年後見人に申し出ることだと考えますがいかかでしょうか。
そして、会長のことについてその成年後見人とやりとりするのは社長の兄なので、
兄が仲介役をしていただけるならばお願いしたほうがよいのではと考えますがいかかでしょうか。
4.取引価額を相続税評価額によるので良いかということも確認しておく
べきと考えますがいかがでしょうか。
5.もしも、相続税評価額ではだめと言われた場合は話し合いになるでしょ
うが、成年後見人が相手でも実際は親である会長との取引であり、よっ
て同族間取引なので、決定した価額によって税務上の問題が生じうると
考えますが。
6.社長は当事務所(私)に株式の評価を依頼するつもりであると思いますが
このことも成年後見人にそれでよいか確認する必要があると考えますが
いかかでしょうか。
7.契約書についてですが、類似業種比準価額を評価の中で使う場合、その
計算のための必要要素が公表されるのは課税時期の月の数か月後になる
ためとりあえず銘柄と株式数を記載し、金額は空白にしておいて決定し
たら記載するという方法でよいものでしょうか。
ちなみに、数年前に現相談役から現社長への株式の譲渡が行われたこと
がありその時の契約書等はお客様が作成しましたが、上記の方法であり、
それと譲渡代金の支払い期限を設け記載してありました。申告は依頼され
たのでその写しを頂き添付して申告しましたがなにも問題なく終わりました。
8.成年後見人が会社法上の正式な手続きを要求してくるかはわかりませんが、
一応備えておく必要はあるかと考えますので、このことについてもお教え
いただきたく思います。
なお、今、気づいたのですがA社株式が譲渡制限株式か否かの確認をしてい
ません。
もしも、この質問の回答については上記のことを確認してからにしてほしい
ということでありましら、その旨をご指摘いただきましたら、確認してから
この8にある質問だけ単独であらためて投稿するようにいたします。
上記のことにかんしてご意見、ご指摘等をいただきたく思いますのでよろしく
お願い致します。
1 ご質問①
>3.手順としては、まず会長の成年後見人に申し出ることだと考えますが
> いかかでしょうか。
> そして、会長のことについてその成年後見人とやりとりするのは社長
> の兄なので、兄が仲介役をしていただけるならばお願いしたほうがよ
> いのではと考えますがいかかでしょうか。
A社株式の買取りは取引行為なので、
会長の法定代理人である成年後見人と交渉が必要になります。
おっしゃるとおり、まずは、会長の成年後見人に、
買取りの申出を行うことから始めてください。
交渉をするに際して、社長の兄が仲介に入った方が
よいかどうかは事情によりますが、
一般の方が仲介に入ると、当事者間の認識に齟齬が
生じる可能性がありますので、
社長と成年後見人で直接交渉された方がよいのではないかと思われます。
ファーストコンタクトだけ社長の兄に取り次いでもらって、
その後は、社長と成年後見人で直接やりとりをする
というのはいかがでしょうか。
2 ご質問②
>4.取引価額を相続税評価額によるので良いかということも確認しておく
> べきと考えますがいかがでしょうか。
>5.もしも、相続税評価額ではだめと言われた場合は話し合いになるでしょ
> うが、成年後見人が相手でも実際は親である会長との取引であり、よっ
> て同族間取引なので、決定した価額によって税務上の問題が生じうると
> 考えますが。
>6.社長は当事務所(私)に株式の評価を依頼するつもりであると思いますが
> このことも成年後見人にそれでよいか確認する必要があると考えますが
> いかかでしょうか。
取引価格については、相手方が納得するのであれば、
民事上は特に制限はありません。
相続税評価額でもよいですし、その他の算定方法でもよいでしょう。
ここはもう金額交渉のレベルの話ですので、
税務上問題が生じない範囲で
自由に交渉してもらえればよいです。
株式の評価を先生に依頼することについてまで
成年後見人の了承をとっておく必要はないですが、
評価を出した結果、これでは応じられないということは
あるでしょう。
(事前に先生が評価を出すことについて、承諾をとっておいても
あまり結果は変わらないように思います。)
要は、成年後見人として納得のできる金額でしか交渉は
まとまらないので、税務上問題とならない範囲内で、
こちらから提示して説得する
ということになろうかと思います。
3 ご質問③
>7.契約書についてですが、類似業種比準価額を評価の中で使う場合、その
> 計算のための必要要素が公表されるのは課税時期の月の数か月後になる
> ためとりあえず銘柄と株式数を記載し、金額は空白にしておいて決定し
> たら記載するという方法でよいものでしょうか。
契約書について、代金額の算定方法が決まってはいるが、
具体的な金額が確定していないので空欄にしておくということも、
成年後見人がこれを許容するのであれば、問題は生じないと考えます。
なお、この場合には、代金額の欄に必ず算定方法を記載しておき、
金額が確定したら追記するという明示もしておいた方が良いでしょう。
4 ご質問④
>8.成年後見人が会社法上の正式な手続きを要求してくるかはわかりませんが、
> 一応備えておく必要はあるかと考えますので、このことについてもお教え
> いただきたく思います。
以下長くなりますが、
株式に譲渡制限がついている前提で回答します。
譲渡制限がついていない場合には、以下のうち
「(1)株式譲渡の承認手続き」が不要になります。
なお、以下のうち、会長が行うべき行為は、
すべて法定代理人である成年後見人に行ってもらうことになります。
(1)株式譲渡の承認手続き
ア A社に対する株式の譲渡承認請求
以下の2つ(①または②)のうちのどちらかを行う必要があります。
①株式譲渡前の承認請求
株式を譲渡する予定の人(会長→後見人)が、A社に対して、
株式譲渡を承認するよう請求します(136条1項)。
その際には、以下の事項を記載する必要があります(138条1号)。
・譲渡する株式の数
・株式を譲り受ける者の氏名
・会社が譲渡承認をしない場合において、会社または会社の指定する人が株式を買い取ることを請求するときはその旨
②株式譲渡後の承認請求
株式譲渡を受けた人(社長)が、A社に対して、
株式譲渡を承認するよう請求します(137条1項)。
なお、この場合は、株式の譲渡人(会長→後見人)と
共同して請求する必要があります(137条2項)。
その際には、上記①と同様の事項を記載する必要があります(138条2号)。
イ A社での譲渡承認決議
譲渡承認決議を行う機関は、A社定款で特に指定されていない限り、
・A社が取締役会設置会社であれば取締役会
・A社が取締役会非設置会社であれば株主総会
となります(139条1項)。
ウ A社からの譲渡承認決定の通知
A社から譲渡承認請求をした者に対して、
譲渡承認を決定した旨の通知を行います(139条2項)。
これで、譲渡承認の手続は完了です。
なお、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮することも可能)
以内に通知をしなかったときは、会社は譲渡の承認の
決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
(2)株主名簿の書換え手続
ア 株主名簿書換請求
株式の譲受人(社長)は、A社に対し、
株主名簿の名義書換を請求します(会社法133条1項)。
この請求も、原則として、
株主名簿に記載されている者(譲渡人である会長→後見人)と
共同して行う必要があります(会社法133条2項)。
イ A社による株主名簿の書換え
A社において、株主名簿の名義を会長から社長に書き換えます。
なお、名義書換えの方は、会社側からそのリスクで
書換えることも可能です。詳細は、以下も
ご参考になさってください。
会社法上の手続は以上です。
よろしくお願い申し上げます。