民法 税理士法

会社に対する会長の貸付金の社長への贈与及び同貸付金の放棄に関して

以下のことに関してご指導をいただきたく思いますのでお願いいたします。

(前提)
1.A社に対する会長からの借入金が2,900万円ある。
2.会長に8月23日付で成年後見人がついたという連絡を社長は兄から受けた。
本当は、成年後見人がついているために場合によって面倒なことが生じうる
可能性もあり得るのではということで後見人をつけることはしたくなかったが、
会長の自宅部分の約3分の1が道路拡張で買い取られるため、意思表示の問
題でつけざるをえなくなったということである。
3.社長から会長に成年後見人がついたという旨の電話連絡があり、そして以下の
ようにしようと考えているといわれた。
①上記会長の会社に対する貸付金のうち2,500万の贈与を受けたことにし、相続
時精算課税を適用し申告をする。
②残り400万は会長が債権放棄をしたことにする。
③上記①②は8月22日以前に行われた形にする。
4.成年後見人は被後見人の財産を守る立場にあるという観点から上記3のことを実行
するのは難しいのではと申したところ、裁判所に提出してある財産目録には上記
会社に対する債権は全く記載されていないことを確認済みであるという返事を受け
た。
そのため、上記3にあることを実行をする方向であると伝えられた。
5.会計データの入力は当事務所が請け負っております。

(質問等)
1.贈与契約書と債権放棄通知書には、まず記名で、印については実印を後見人が既に
管理しているならば、認印を押しておくしかないと考えます。
2.書類の作成に関しては、そもそも実体としてはいずれも会長側の承諾はない形のことであるので、
私が作成するのは避けるべきと考えております。
また、会長の意思にはよらないので法的には成立していないことを成立したという
ことにする行為であるということは指摘しておくべきではと考えております。
3.もし、書類作成を依頼された場合は、職業倫理上できませんと申し上げようと考え
ております。(もっと本音の部分はリスク回避の観点からですが)
4.それでもなぜやってくれないのかというような様子でしたら、税理士法上の観点か
ら本来的には法に反している要素がある行為なのではということにはたずさわること
はきませんと述べようと考えております。
5.私の立場としては、会社から上記贈与及び債権放棄がなされたことを示されたので
その会計データの追加入力をしたにすぎないということにしてもらうことにすると考え
ております。
6.書類の作成についてアドバイスを求められましたら、債権放棄通知書については口
頭で答え、贈与契約書についても原則は口頭で答え、場合によっては雛形を与えるとい
うことにしようと考えております。その場合でも上記5のことは強調します。

上記のことについてご教示をいただきたく思いますのでよろしくお願い致します。

回答の便宜上、以下質問ごとに回答いたします。

1 ご質問①
>1.贈与契約書と債権放棄通知書には、まず記名で、印については実印を後見人が既に
>管理しているならば、認印を押しておくしかないと考えます。

このような状況で贈与契約書と債権放棄通知書を作成するのであれば、
認め印を押印しておくしかないと思います。
ただ、以下の回答のとおり、作成自体が、犯罪になり得る行為です。

2 ご質問②
>2.書類の作成に関しては、そもそも実体としてはいずれも会長側の承諾はない形のこ
>とであるので、私が作成するのは避けるべきと考えております。
>また、会長の意思にはよらないので法的には成立していないことを成立したという
> こと
> にする行為であるということは指摘しておくべきではと考えております。

ご指摘のとおり、実体としては会長の意思表示はないので、
法的には、贈与契約の成立もないですし、債権放棄の効果も生じません。

また、会長の承諾がないのに会長の名義を用いて
贈与契約書や債権放棄通知書を無断で作成することは、
私文書偽造罪(刑法159条)にも該当する行為です。

ですので、難しいところですが、
社長にやめるようアドバイスされた方がよいと考えます。

3 ご質問③
> 3.もし、書類作成を依頼された場合は、職業倫理上できませんと申し上げようと考え
> ております。(もっと本音の部分はリスク回避の観点からですが)
> 4.それでもなぜやってくれないのかというような様子でしたら、税理士法上の観点か
> ら本来的には法に反している要素がある行為なのではということにはたずさわること
> はできませんと述べようと考えております。

おっしゃるとおりでよいと思います。
社長が行おうとしている行為は、
法的には無効なものであって、
また処罰されるかどうかは別にしても、
刑法にも触れる可能性のある行為です。

先生がこれに関与されることは
避けられた方が良いでしょう。

4 ご質問④
> 5.私の立場としては、会社から上記贈与及び債権放棄がなされたことを示されたので
> その会計データの追加入力をしたにすぎないということにしてもらうことにすると考
> えております。

サービスとの関係で、
難しいところではありますが、本来であれば、
贈与や債権放棄があったこととして、
会計データ入力を行うことも、
税理士さんの倫理規定上、避けられた方が
よいと考えます。

先生としても、事情を知ってしまっている以上は、
「会計データの追加入力をしたにすぎない」
というのは難しいと思われます。

5 ご質問⑤
> 6.書類の作成についてアドバイスを求められましたら、債権放棄通知書については口
> 頭で答え、贈与契約書についても原則は口頭で答え、場合によっては雛形を与えるとい
> うことにしようと考えております。その場合でも上記5のことは強調します。

アドバイスをする、または、ひな形を渡すということは、
社長の行為に積極的に加担することになりますので、
避けられた方がよいです。

先生のスタンスとしては、
贈与契約書・債権放棄書の作成は、
犯罪になる可能性があるのでやめた方がよい、
少なくとも、税理士としてこれに加担するような
行為を行うことはできない、
ということになされた方が良いかと思います。

今回のケースですとただ契約書の日程を
バックデートするということとは異なり、
作成自体が犯罪の幇助になってしまうおそれがあります。

よろしくお願い申し上げます。