代表弁護士 永吉 啓一郎様
いつもお世話になっております。
ご質問がありますので、ご回答をお願い致します。
顧問先に税務調査が行われた。税務署から社長宛てに質疑応答書を取りたいので税務署に出向くようにとの要請がありました。社長は応じたくないので拒否する予定ですが、応じなければならないでしよか。根拠を含めてご教授くださいませ。
恐れ入りますがどうぞよろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>顧問先に税務調査が行われた。税務署から社長宛てに質疑応答書を取りたいので
>税務署に出向くようにとの要請がありました。
>社長は応じたくないので拒否する予定ですが、応じなければならないでしよか。
>根拠を含めてご教授くださいませ。
2 回答
(1)法的な根拠
まず、法的な根拠についてからですが、
最終的に質問検査権行使に対する拒否等が
違法となるとされるのは、国税通則法128条2号により、
質問検査権の行使に対して、
「質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、
又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、
妨げ、若しくは忌避した者」
に該当すると刑事罰の対象となるからです。
(実務上発動されることはほとんどありませんが)
一方で、質問検査権の行使といっても、無制限に
認められるものではなく、
「調査について必要があるとき」は行使することが
できるとされています。つまりは、課税要件事実の
有無を判断するのにその質問等の必要性がある場合
ということになります。
整理しますと、税務署の行為を拒否して違法となる
場合とは、
①調査について必要があると評価できる質問検査権の行使であること
②①を満たした前提で、その質問等に対して、答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、
又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、
妨げ、若しくは忌避した者
という2つの条件を満たした場合となります。
2 今回について
(1)税務署に赴くことを拒否すること
まず、社長が拒否したいことが、
「税務署に赴くこと自体」ということであれば、
税務署が質疑応答記録書を作成したいという
ことであれば、税務署から赴くように伝え、
税務署に赴くこと自体を拒否しても、
実施自体を拒否しているわけではないため、
国税通則法128条2号に該当する可能性は
ほとんどないでしょう。
ほとんどというのは、例えば、社長の会社などに
質疑・応答ができるスペースがなく、税務署で
行わざる負えないような状況であれば、
別途判断が必要だからです。
(2)質疑・応答記録書を作る機会すら拒否すること
社長の拒否したいことが、そもそも
場所を問わず、質疑・応答記録書を作る機会すら
拒否したいということですと、
調査の必要がある質問検査権を拒否している
というケースでは、上記②は満たしてしまうため、
①の調査の必要があると評価できないものである
ということを法的には主張する必要があります。
この必要性は、実際のこれまでの調査経緯などからの
認定になりますが、
一般論としては
質問応答記録書の作成の機会自体は、課税要件事実認定の
証拠保全として、必要性がある認められる可能性が高いです。
こちらの主張としてあり得るものとしては、
これまでの調査で、すでに回答しており、
必要性がないというものでしょう。
なお、仮に質問応答記録書の作成の機会を
提供したとしても、社長が署名・押印する必要が
あるかは、全く別の話ですので、当然拒否することができます。
よろしくお願い申し上げます。