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コロナと税務調査の日程調整

弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士 永吉 啓一郎様

いつもお世話になっております。
ご質問がありますので、ご回答をお願い致します。
税務署との税務調査の日程調整に関する法的対応についてご相談をお願いいたします。
①<背景>
・当事務所は山形県に位置しており、クライアントは名古屋にあるため管轄税務署は
名古屋税務署です。
・名古屋税務署より、税務調査の連絡があり、8月中旬に実施する旨連絡があり、実
施することで現状進んでおります。
・その後、8月1日の全国知事会にて、原則として都道府県堺をまたいだ移動を中止・
延期とする提言がまとめられております。
当事務所が所在している山形県でも県をまたがる移動は自粛するように呼びかけら
れている状況です。

②<当事務所のアクションと税務署の対応>
上記、全国知事会での提言内容をもとに、名古屋税務署に対し、日程変更の依頼をお
願いしておりますが、日程変更は拒否をされている状況です。

③<相談事項>
上記のとおり、県外からの移動自粛が要請されているにも関わらず、税務署が税務調
査の日程変更を承諾しない法的根拠について、ご教示のほどお願いいたします。

また、合わせて、日程変更を税務署に対し交渉するにあたって資する法的対応方法に
ついてもご教示いただけますと幸甚です。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜事前日程の調整の法的な性質について

>上記のとおり、県外からの移動自粛が要請されているにも関わらず、税務署が税務調
>査の日程変更を承諾しない法的根拠について、ご教示のほどお願いいたします。

納税者と税務署(国)の法律関係において(ご質問②の記載を除く)は、
本来、日程の事前調整は事実行為であって、日程変更を承諾しないこと自体に
法的根拠が必要なわけではありません。
国税通則法74条の9第2項で協議するよう「努力する」義務が
あるのみであり、納税者側から変更を法的に請求できる等のものではありません。

法的な建付を整理をすると以下となります。

① 税務署側は、日程を事前通知する

②税務調査は強制調査(捜索・差押えなど)ではないので、
当日に調査官が訪問したとしても、納税者は臨場を拒否することは可能
(無理やり調査できるわけではないという意味)。

③その拒否が128条2号の調査拒否による罰則規定に当たるのかという問題となります。
(解釈上、その拒否に「正当な理由」があるのかないのかという問題となります。)

つまり、事前の日程変更に応じないことで税務署の事前通知及び
訪問自体が納税者との関係で違法となるわけではなく、
その日時による調査を納税者が拒否した場合に、
納税者側のリスクで「正当な理由」があるのかを判断する必要がある
というのが法の建付となります(間接強制と言われる所以です。)。

事前の日程調整が行われるのは、法的にはそうであるとしても、
②で拒否された場合、税務署も無駄足になりますし、国への信頼を
維持することがマクロ的に、適正な調査実務実現に重要なので、
調整しているということになります。
法的に納税者に対して、事前調整をする義務がある等の話ではありません。

倫理的な問題などは別として、
本件の事案で、裁判となった場合(刑事事件で訴追された場合)に、
この「正当な理由」が認められるのかというと
県外の顧問税理士さんと契約をしているというのは、
納税者様側の選択によるものですので、裁判所が
「正当な理由」ありと判断するかというとなかなか
難しいかとは思います。

ただ、現実論としては、先生のご認識のとおり、
現在このような状況な上、実際に刑事訴追される可能性自体は
ほとんどないと思います。

2 ご質問②〜対応等について

>また、合わせて、日程変更を税務署に対し交渉するにあたって資する法的対応方法に
>ついてもご教示いただけますと幸甚です。

納税者との関係の話は上記のとおりなのですが、
現実的な日程変更の交渉にあたって、法的な要素を交えて交渉すると
すると、以下の事務運営指針を利用するというものがあるかと思います。

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm
上記U R Lの「第2章ー2ー(2)」の部分です。

こちらの注意書きには、「税務代理人の事情」についても、
変更の適否を判断するとされています。

この判断が適切になされていない(国から税務署員に対する
命令違反がある)ということで、
国家公務員法98条違反があると主張することです。

本来、国家公務員法98条は、国と公務員の法律関係を
定めたものですので、事務運営指針に違反しているとしても、
納税者との関係で、違法性を帯びるものではないのですが、
事実上の交渉としては利用できるかと考えます。

なお、その他、事務運営指針違反を憲法上の平等原則違反等の
土俵に乗せて納税者の主張できるものとするという構成も
行政法解釈上ありますが、今回のケースでは難しいでしょう。

交渉としては、上記のような国家公務員法違反だということと、
その日に調査にきたとしても、税務代理人が立ち会えない
状況という正当な理由があるため、拒否するだけで
ある旨を伝えることかと思います。

もちろん、それでも日程の変更がない場合、
臨場を拒否した場合の罰則規定の適用に関しては、
事実上は起こらないものとしても、納税者様に
説明して判断を求める他ないと思います。

よろしくお願い申し上げます。