役員報酬 会社法

取締役の役員報酬の減額と解任

弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士 永吉 啓一郎様

いつもお世話になっております。
ご質問がありますので、ご回答をお願い致します。

質問
株式会社で、A(代表、常勤、60%株所有、月給50万円)B(取締役、非常勤=年一の株主総会のみ出席、月給20万円)の2名で会社を運営している。現下のコロナ禍の中、業績が悪化していることからBの役員報酬の引き下げ(できるならゼロに)を本人に伝えたが、合意にならない状況にある。そこでBは70才を過ぎていることもあり経営には関与していないことから解任したいと考えているが、解任できるかと、その場合の手続きと留意点をご教示下さい。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>株式会社で、A(代表、常勤、60%株所有、月給50万円)B(取締役、非常
>勤=年一の株主総会のみ出席、月給20万円)の2名で会社を運営している。
>現下のコロナ禍の中、業績が悪化していることからBの役員報酬の引き下げ
>(できるならゼロに)を本人に伝えたが、合意にならない状況にある。
>そこでBは70才を過ぎていることもあり経営には関与していない
>ことから解任したいと考えているが、解任できるかと、
>その場合の手続きと留意点をご教示下さい。

2 回答

(1) 解任の可否について

取締役の解任については、
株主総会の普通決議で可能です(会社法339条)ので、
Aの議決権の行使により、解任することが可能です。

(2) 留意点について

取締役の一方的な解任については、「正当な理由」が
ある場合を除き、解任された取締役は、会社に対して
損害賠償請求をできるとされています。

なお、この損害ですが、わかりやすいところでいうと、
残存任期の役員報酬相当額ということがよく
書籍等では記載されています。
ただし、これは2年の任期を前提にしているように
思われますし、非公開会社で、10年任期と
されているようなケースで、任期を基準に判断するのは
相当でないと個人的には考えておりますし、
書籍や明確な判例等の記載はありません(判例等がないので、
誰も明確には書かないということだと思います)が、
実務では、必ずしも通用するものではないです。
具体的な個別事情によるかと存じます。

一方では、本件では、解任に「正当な理由」がある
ことを基礎付ける証拠をしっかりと残しておくことが
肝要かと思います。

Bは、実態としては、株式会社の業務を行っているわけでは
ないでしょうから、この点は「正当な理由」が認められやすい一方で、
これまでも同様の実態で役員報酬を受け取っていたことからすると、
それが会社と取締役の合意内容であったとされる理由にもなって
しまいます。

そこで、今回は、状況に変化があり、止むを得ずの措置であったことを
基礎付ける証拠を残しておくことがポイントかと存じます。

○具体的には、コロナの影響で、実態に業績が悪化している
こと(この辺りは、会計書類があるでしょうから、問題ないと思います。)

○上記のような状況で、役員報酬の引き下げを要求しているにも
関わらず、拒否され続けていること(これは、いきなり解任という
手段を取ったのではなく、役員報酬の減額の要請にも応じず、
やむなく解任をしたということの証拠という意味です。)

例えば、メール、書面等で、要求している証拠が残せれば
ベストではありますが、例えば、株主総会において、
解任の理由として、減額の要求をしたが、拒否され、現状の会社の
状況ではやむを得ず行うものであることを説明し、
その旨を議事録に残しておくという方法でも良いと思います。

実際にBは、会社の業務を何ら行っていない(年1回の
株主総会の出席のみ)という前提であれば、
コロナの影響から業績が悪化し、減額の要求にも応じないとすると、
「正当な理由」が認められる可能性が高いと存じます。

その他、このようなケースでは特に株主総会の招集通知等
会社法の手続きはしっかりと履践されてください。

よろしくお願い申し上げます。