いつもお世話になっております。
税理士の●●です。
早速ですが、現在顧問契約締結中の法人から、非常勤取締役に就任してほしい旨の依頼がありました。
①顧問税理士と比較して非常勤取締役に就任する場合の、法的観点からのメリット・デメリット
②非常勤取締役に就任する場合の業務(顧問税理士業務と非常勤取締役業務)の区分の仕方と報酬の取り扱い
③上記にかかる注意点
をご教示ください。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①
>早速ですが、現在顧問契約締結中の法人から、非常勤取締役に就任してほしい旨の
>依頼がありました。
>①顧問税理士と比較して非常勤取締役に就任する場合の、
>法的観点からのメリット・デメリット
(1)メリットについて
法的な意味(リスクという側面)でメリットはないのですが、
事実上のメリットとしては、非常勤取締役としての
取締役の報酬を受け取ることができることや
その顧問先様の内部の事情をより知ることができることになります。
なお、取締役として取締役会等で議決権を行使できる
(代表取締役への監督機能を強めることができる)
ということを、メリットと捉えるのであれば法的なメリットと
いえなくはありません。
(2)デメリットについて
上場及び上場を目指していない会社
を前提とすると、具現化する可能性自体は
比較的低いと考えられますが、以下の法的な
デメリットがあります。
ア 取締役の責任
非常勤取締役に就任した場合には、
当該法人が抱える事業のリスクが顕在化した場合に、
それに対し、直接、事実上又は法律上の責任を負うことになる
可能性があります(会社法423条、429条等)。
特に代表者が違法行為や明らかな私的な利益を
満たす行為などを行い、それを放置していた場合、
法的には、株主や債権者等から、連帯して責任を
追求される可能性があります。
このリスクのヘッジ方法としては、
就任に際して、法人と責任限定契約を締結する方法がありますが、
責任が限定されるのは、
善意(当該行為を知らない)かつ重大な過失がない
場合に限られますので、知っていたにも関わらず、
放置した場合には、責任限定契約では、回避することが
難しいでしょう。
過失の程度や有無などについては、当該取締役が
何を知っていたのか、知りうる状況にあるのか
などが重要な事実になりますが、
税理士さんの場合、お金の流れ等を抑えるポジション
にいるため、それらの事情から税務的には問題
ない行為であったとしても、不正行為などを
知りうる状況にあったにも関わらず、確認しなかった
等で責任は重くなる傾向には一応なると思われます。
その他、D&O保険に加入するという方法もあるでしょう。
イ 利益相反取引等
税理士の先生が法人とも契約をしつつ、
その法人の取締役に就任する場合には、
会社法上の「利益相反取引」に該当します。
したがって、
顧問契約について、
株主総会(取締役設置会社ではない場合)
または、取締役会の承認が必要となるでしょう。
仮に、承認があったとしても、利益相反行為に
より、会社に損害が生じれば、取締役としての忠実義務違反
として、法的には損害賠償の対象となりえますが、
ご質問②に関連しますが、税理士業務と取締役の
業務執行の対価として報酬が明確に区分されており、
税理士業務の対価が不相当に高額である等が
なければ、通常は問題とならないでしょう。
なお、上場企業や上場審査段階の企業の場合は、
利害関係者取引であり、コンプライアンス上、問題があるものとして、
許されないケースがほとんどです。
また、税理士の業務は最終的には、
代表者の意思決定に従い業務を行うことが必要
な側面(税理士法違反行為は除く)がある一方で、
取締役の業務は代表取締役を監督する
というものですので、その役割に違いがあるため、
潜在的な利益相反になりえます。
税理士としての説明義務を果たせば
良いだけではなく、場合によっては、
代表取締役の行為自体を止めるための積極的
行為まで要求される場合があるということです。
ウ 退任できないリスク
取締役であれば、辞任をすれば
原則として、いつでも退任可能です。
ただし、例えば、取締役会設置会社において、
取締役は会社法上最低3名以上必要とされている
ところ(定款でそれ以上の人数を定めていた場合その人数)は、
辞任をすれば3名以下となる場合、
取締役は、次の取締役が選任されるまで、
取締役の権利義務を引き続き負うことなります(会社法346条1項)。
つまり、辞任しても上記の義務等を
負い続けるというケースもあり得るということです。
会社が社外取締役を求める理由として、
取締役会を設置したい等の要望から生じる
こともあり得るので、ありえない話では
ないかと思い記載しました。
(3)まとめ
上記は、リスクとしてあげられるものをあげましたが、
中小企業の場合、顕在化する可能性は低いとして、
就任されている税理士さんも現実論としてはいらっしゃる
と思いますし、リスクを理解した上でのそのような意思決定
をすることもありえる選択です。
私、個人の士業としての方針でいえば、
弁護士というのもありますが、
顧問契約を継続しつつ、社外取締役にも就任
するということはありません。
(契約だけの話ではなく、実際の業務レベルでもです。)
リスクというよりは、両者は求められる役割が異なる地位
であり、しっかり仕事ができなくなる可能性が含まれるため、
どちらかで選択します。
この辺りは、各自方針があると思いますので、
私の方針が必ずしも良い等ではなく、あくまでも
参考情報としてお受け取りいただければと幸いです。
2 ご質問②
>②非常勤取締役に就任する場合の業務(顧問税理士業務と非常勤取締役業務)の
>区分の仕方と報酬の取り扱い
業務と報酬については、契約等で明確に区分
する必要があります。
顧問料は顧問料でもらい、役員報酬は役員報酬で
もらう等、適正に各業務の対価としてもらう必要があります。
(念のためいずれも株主総会などの承認を得ておくことが安全ではあります。)
ただし、業務の区分といっても、
同じ人が行う以上、実態としての区分が明確にできる
わけではありません。
どちらかにおける業務は、上記の過失の認定などについて、
事実認定・評価の問題として、影響を及ぼしあいます。
例えば、税賠でも、取締役の法的な権利を行使すれば、
知ることでできた等の認定もありえるため、
過失等の認定は、一般論としては、税理士に厳しくなるものと思います。
よろしくお願い申し上げます。