お世話になっております。
(質問)
下記のような前提で、非上場株式に相続人がいない場合、
その非上場株式は、だれがどのような手続きを行って、
だれの手に渡るのでしょうか?
(前提)
・A社株式は社長(70代)が100%保有
・社長の相続財産はA社株式のみ
・A社は銀行借入が8億円あり、社長は経営者保証を行っている
・A社は毎年、銀行借入金を返済できる程度のCFはあり(年0.5億円程度)
・法定相続人は妻と子2人、A社に関与なし、3人とも社長と疎遠
・社長には同居している愛人あり
・遺言はなし
・妻と子2人は経営者保証を相続するのを避けるため相続放棄をした
よろしくお願いいたします。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>下記のような前提で、非上場株式に相続人がいない場合、
>その非上場株式は、だれがどのような手続きを行って、
>だれの手に渡るのでしょうか?
>(前提)
>・A社株式は社長(70代)が100%保有
>・社長の相続財産はA社株式のみ
>・A社は銀行借入が8億円あり、社長は経営者保証を行っている
>・A社は毎年、銀行借入金を返済できる程度のCFはあり(年0.5億円程度)
>・法定相続人は妻と子2人、A社に関与なし、3人とも社長と疎遠
>・社長には同居している愛人あり
>・遺言はなし
>・妻と子2人は経営者保証を相続するのを避けるため相続放棄をした
2 回答
まず、相続人がいないということで、
社長には、第2順位である直系尊属及び
第3順位である兄弟姉妹(及びその子が代襲相続人となる場合も含む)
もいないという前提になるかと思います
(いる場合には、その者らが相続放棄していなければ相続人になりますので、
その者の手に渡ります)。
その場合には、相続人が不存在という
ことで、相続財産が1つの法人としてみなされます(民法951条)。
そして、利害関係人(債権者、債務者、相続人であった者等または検察官)の
家庭裁判所への申立てにより、家庭裁判所から相続財産管理人(通常、弁護士)
が選任されます。
そうすると、一種の清算手続きに入ります。
相続財産のうち積極財産を換価して、債務の返済を行うというのが
相続財産管理人が行うことで、破産手続きの管財人と同じようなことを
するとイメージしていただくとわかりやすいでしょう。
結果として、理論上は、積極財産を換価して、債務の全額が返済できれば、
残った金額について、原則として国庫に帰属することとなる一方で、
債務超過の場合には、相続破産手続きに移行して終了となります。
今回の場合、A社株式を会社関係者等がいれば、
その者に売却し、その対価で連帯保証債務の支払いをし、
会社(主債務者)に対する求償権を行使する等の可能性も
ありますが、
>・A社は毎年、銀行借入金を返済できる程度のCFはあり(年0.5億円程度)
ということであれば、適切な取得者(後継者)がいれば、
現実論としては、財産管理人として、銀行を巻き込んで、
株式を後継者に譲渡、銀行から被相続人の保証債務を
外してもらい新たな後継者に連帯保証人となってもらうなどの絵を
書いて調整するという方法もあるかなと思います。
ただ、この辺りの調整は裁判所とも交渉しつつ
進めなければならないので、実際に管理人になった
弁護士がどこまで対応してくれるのか、形式的に会社を
潰すような形で進めるのか等は分かれてくると思います。
個人的(私であれば)
にはA社のような会社で、引き継ぐ気が
ある者がいるのであれば、国庫に帰属させても、
相続破産をしてもあまり意味がないので、
できる限り、A社がこれまで通り存続できる形で、
裁判所や金融機関含めて調整するようにするかな
というところです。
なお、仮に、株式や換価後の財産自体を国庫に帰属させる
という判断を管理人がした場合には、
特別縁故者制度というものがあり、
家庭裁判所が相当と認めるときは、
被相続人と生計を同じくしていた者、
被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、
これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる
とされていますので、愛人の方などのこの辺りの
請求も検討しても良いとは思います。
よろしくお願い申し上げます。
お世話になっております。
ご回答ありがとうございます。
第3順位である兄弟姉妹に渡ってしまう可能性を見落としていました。
ご指摘いただきありがとうございました。
追加で質問させていただきます。
前提の「遺言はなし」を「遺言あり-A社株式を子Bに遺贈」に変えた場合、
子Bが遺贈の放棄をせず、相続放棄をすれば
子BはA社株式を取得したうえで、経営者保証を相続しないことは可能でしょうか?
よろしくお願いいたします。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>前提の「遺言はなし」を「遺言あり-A社株式を子Bに遺贈」に変えた場合、
>子Bが遺贈の放棄をせず、相続放棄をすれば
>子BはA社株式を取得したうえで、経営者保証を相続しないことは可能でしょうか?
2 回答
理論上はおっしゃる通りになります。
ただ、特定遺贈と相続放棄を利用した明らかに債権者を害する行為は、
・詐害行為取消権の対象となる可能性
・信義則(一般原則)により無効となる可能性
が高いものとされており、
弁護士で勧める者はほぼいないかと思います。
死因贈与かつ限定承認の事案ですが、
、相続人が限定承認をした事案について、
不動産の死因贈与を信義則により債権者に対抗
することはできないとしたものがあります(最高裁平成10年2月13日判決)。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52809
が、相続人に対する特定遺贈及び相続放棄も同様の
判断がされる可能性が高いと考えられるからです。
これが可能であれば、全ての相続において、
債務だけは誰も負担せず、財産だけは相続人に承継する
ということが容易に可能であるため、裁判所がこれを真正面から
認めるとは考え難いでしょう。
よろしくお願い申し上げます。