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従業員持株会に役員(元従業員)が属していることの是非

永吉先生、お世話になります。

役員持株会はない会社の従業員持株会に役員(元従業員)が属しています。

これは従業員の時に加入したものですが、
役員に昇格した現在も加入したままになっているものです。

これは問題ないでしょうか?

また、議決権の行使その他において、注意すべきことはあるでしょうか?

よろしくお願いします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>役員持株会はない会社の従業員持株会に役員(元従業員)が属しています。
>これは従業員の時に加入したものですが、
>役員に昇格した現在も加入したままになっているものです。
>これは問題ないでしょうか?
>また、議決権の行使その他において、注意すべきことはあるでしょうか?

2 回答

上場企業や上場を目指している企業ではない
非公開会社の従業員持株会の実態からすると
現実論として問題とならないのでは?という
部分もありますが、法的には同様の問題が
生じることになります。

(1)規約との関係

まず、そもそも従業員持株会の規約の
資格要件に含まれていない者となっている
(役員は通常除外されている)かと思われますが、

その取締役に持株会の議決権行使に対する権限を
そのまま認めていた場合

資格要件を満たさない者に権限を与えた
持株会理事等により議決権行使は、
瑕疵があり錯誤取消等の対象となる場合
があることや
仮にならないとしても、
持株会理事等(場合によっては会社へもありえます)
への善管注意義務違反による損害賠償請求の
対象となるおそれがあるというところです。

また、「決議方法が著しく不公正」な
ものとして、株主総会の取消事由(会社法831条1項1号)
となる可能性もあるでしょう。

実際の規約との関係、
運営実体、その取締役の持分比率などにより、
持株会の議決権行使の有効性がどの程度の問題となるのか
損害賠償の対象となりうるのか等は
個別事情の認定と評価になりますが、
リスクとしてはあり得るところでしょう。

(2)会社法的な問題

こちらも抽象的な話にはなりますが、
基本的に従業員持株会と役員持株会を分けて
運営すべきとされている理由に関わる問題があります。

① 特定株主への利益供与(会社法120条)との関係

従業員持株会は、従来から
持株会制度の奨励金や有利な価額での株式取得など
通じて、株主(持株会及び従業員)の権利の行使に
関して、財産上の利益を供与するものではないか
という議論がありました。

なお、利益供与は、取締役等が会社に
損害賠償責任を負うだけでなく、
「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」という
犯罪行為にあたります。

そして、この点について問題となった裁判例が、従業員
持株会の畝いが利益供与に当たらない事情として
「会社の持株制度導入目的が従業員の財産形成と共同体意識の高揚であることを認め,
規約に沿った持株会の運営がなされていること,最も重要な議決権行使は,制度上の
独立性が確保されていること」(福井地裁昭和60年3月29日)などを条件と
していたことから、

会社の取締役が従業員持株会に属している
状況は、会社からの独立性が維持されていないとされる
リスクが大きいため、注意が必要ということとなります。
(専門家としてはやめるように説明した方が良いという意味です)

なお、役員持株会などの場合には
基本的に持株会の奨励金を禁止する等、
利益供与に当たるおそれのある行為については
排除する形で組成するようになっています。

② その他、会社法との関係

非公開会社の従業員持株会でどこまで
運用されているのかという点がありますが、

例えば、従業員持株会の会員に対する
奨励金などは、会員に平等になされることに
なります。

これを取締役が受け取ってしまうと
会社法上の取締役報酬規定違反や利益相反などの
問題が生じます。

従業員と同列に役員を扱うこととなると
会社法の規制との関係で運営が難しくなるため、
従業員持株会に役員を入れないという対応が
ベターとされる理由ではあります。

よろしくお願い申し上げます。