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株式会社の中間配当の取り消しと所得税額控除

株式会社の中間配当の取り消しと所得税額控除について質問いたします

【概要】
A法人が2年前よりB法人の発行済み株式の60%を所有していたが、2021年2月22日に残りを全て取得し100%子会社とする。
A法人の決算は3月。
B法人の決算は2月。
B法人設立後配当は一度も無し。
B法人が2021年8月末基準日として2021年9月27日に3億円の中間配当をしたが令第140条の2により所得税額控除が全額控除できないことが判明。
※次の採決事例と同様と思われます。
https://www.kfs.go.jp/service/MP/03/0302010000.html
既に配当に対する源泉は2021年10月10日に納付済み。

【質問】
・税額控除が受けられないことが判明したので配当を取消したい。錯誤などの理由で配当の取り消しは可能?その場合どのような手続きが必要か。

・取り消しが可能なら誤納還付請求は可能?

・既にした配当を取消し2022年2月末を基準日として2021年3月中に臨時配当をしたい。2月末が基準日なら全額控除は可能?

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

> ・税額控除が受けられないことが判明したので配当を取消したい。錯誤などの理由で配当の>取り消しは可能?その場合どのような手続きが必要か。
>・取り消しが可能なら誤納還付請求は可能?

2 回答

税負担の錯誤の場合、
民事上の錯誤による取消しが認められたとしても、
税務上それをどう評価するかという点については、別途議論があります。

少し前までは、裁判所も税負担の錯誤の場合は、
更正の請求などを認めることはできない等の判断
をしておりましたが、最近はやや軟化してきていることや
民法改正により錯誤の効果が無効ではなく、取消しとされた
ことなどから、現在定説があるとはいえない状況です。
(現在、執筆中の書籍でまさに整理していたところでした。)

メーリングリストで全ての議論を記載することはできませんので、
今回のご質問に関連する範囲で回答します。

それでも長文となりますが、ご容赦ください。

(1)最判平成30年9月25日判決

まず、今回の還付請求をする場合、
源泉徴収方式に関するものかと思いますが、
この方式における錯誤の問題については、
最判平成30年9月25日があります。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/998/087998_hanrei.pdf

この判例は、国の納税告知処分等の取消訴訟について
のものですが、
高裁では国の主張(それまでの裁判例には即したものです。)
のとおり法定納期限が経過した以上、錯誤無効(当時)の
主張により、納税告知処分を争うことができないと
されましたが、
最高裁は「法定納期限が経過したという一事をもって
〜その適否を争うことが許されないという理由はない」
として、民事上の錯誤無効の主張が納期限後であっても、
税務上の判断に影響を及ぼすことを肯定しています。

ただし、当判例では、錯誤無効を主張して、納税告知処分を
争うには、無効となる行為の経済的成果を消失させる必要がある
ところ、その主張が納税者からなされていないため、
結果として、納税者敗訴となっています。
また、補足意見などでも述べられていますが、
この錯誤の主張が認められるには、個別具体的事情
民事上の錯誤取消の要件が認められることが前提
とされています。

この判例を整理すると、源泉徴収方式の
納税告知処分の取消しが認められるには
少なくとも

①当該税負担の錯誤が民事上の錯誤の要件を充足すること
②経済的成果を消失させていること

が必要としている判例です。

(2)今回の事例

ア 既に納付済みであること

上記の判例では、
「法定納期限が経過したという一事をもって
〜その適否を争うことが許されないという理由はない」

としていますが、今回は納付済みという
事情があり、上記の判例により、納付済みの
場合には、税負担の錯誤による無効の主張が、
税務上許されるのかという点については、悩ましいところです。

個人的には、納付をしてたからと言って、
税務上の還付請求が認められないというのは、
租税法律主義等の観点から反対ですが、

これまでの裁判例(上記判例の高裁含む)は
租税法律関係早期安定と租税公平主義という
抽象的な理由で、認めてこなかったという
流れもありますので、この点がネックとなる
可能性も否定はできないところです。

イ 民事上の錯誤の要件を満たすのか

契約において、税負担の錯誤も、
動機の錯誤として民事上の取消事由になりうる
というのが判例です。つまり契約の取消になります。

一方で、今回の事例における、
剰余金の配当請求権は、法人Bと株主の契約により
発生するものではないなく、法人Bの一方的な決議
によりに具体的に発生するものですので、
これまでの裁判例の事例とは一線を画するものです。

この場合、あり得る構成としては、
A法人のB法人の株主総会における
議決権の行使が税負担錯誤により取消され、
B法人の配当に関する株主総会決議が不存在
となり、剰余金の配当が株主総会決議に基づかない
ものであるから無効であるとして、還付請求を
することとなると思われます。

契約の場合と異なり、
A法人によるB法人の株主総会決議における
議決権行使は、あくまでも、B法人の意思決定として
なされるものであり、

A法人の所得税額控除を受けられない
という事情をもって、取消事由となる
「重要な錯誤」(民法95条)
と評価されるかも裁判で争ってみなければ
わからないという部分が強いところです。

ウ 経済的成果を消失させること

仮に税負担の錯誤として、民事上の錯誤取消し
の主張が認められるとしても、還付請求が
認められるには、上記の判例のとおり、
経済的成果を消失させることが必要です。

その場合、A法人は、B法人に対して、
配当受領金額を返還することになります。

なお、錯誤取消しが問題となる
通常の契約の場合には、課税実務上、
仮に民事上の錯誤が認められず、
合意解除と評価される場合でも、
返還する行為には課税関係を
生じさせないというのが通例ですが、

今回は、そもそも契約ではないため
民事上の錯誤の要件が認められない場合には、
合意解除等と評価することもできないため、
A法人からB法人に対する贈与(寄付)と評価される
ことがありえます。
(完全支配関係がありますが、所得金額等の
違いから税額計算に影響がある可能性が
ありますので、説明責任としては説明した方がよろしいかと存じます。)

3 具体的な手続き

上記を踏まえた上でも、
還付請求を行う場合には、

まず、法人Aから法人Bに対して、
配当決議における議決権行使の
錯誤による取消しの通知を送った上で、
配当額を返還し、還付請求をすることとなります。

実務上、国税サイドとしては、本件で、
還付を認めるかというと一旦は認めない可能性の方が
高いのではないかと思われます。
その場合、訴訟などで争っていくことになります。
税理士の先生としてはこの辺りを説明の上、
最終的には依頼者様にご意思決定いただくこととなるかと思われます。

>既にした配当を取消し2022年2月末を基準日として2021年3月中に臨時配当をしたい。
>2月末が基準日なら全額控除は可能?

取消しが認められるかについては、
上記の法的判断によることになります。

なお、非公表採決になりますが、
株主の配当支払請求権は、剰余金の配当がその効力を生ずる日に具体化し、
以後は株主としての地位から独立した権利となり、
一旦効力が生じた配当を取消す株主総会決議は、
配当の効力に影響を及ぼさないから、
当該配当は、配当所得の収入金額に算入すべきであるとした事例があります。
TAINSコード:F0-1-995

したがって、上記の錯誤による取消しの主張が認められない限り、
配当をなかったこととすることは難しいものと考えられます。

はっきりとした定説や判例がないため、
このような回答となり申し訳ないのですが、
よろしくお願い申し上げます。