いつも、お世話になります。個人事業主(宅建業者)の法人成りについて質問させて下さい。
(前提)・個人事業主(宅建業者)・法人成りを検討中・棚卸資産に販売用不動産(土地のみ)あり
(質問)
⑴流通税を節税するため、設立した法人に中間省略登記により棚卸資産を移転させることに、法的問題は、あるのでしょうか。
また、中間省略登記による資産の移転が法的に問題ない場合に追加の質問です。⑵-1
個人から設立法人へ資産の移転を認識する時期についてですが、契約時、引渡し時等選択を、個人事業主、法人ごとに選択できるのでしょうか。
例えば、R3年中に法人設立をして、販売用不動産を中間省略登記により法人へうつす契約書を作成し、実際に、法人から消費者等へ売却が完了したのがR4年の場合、法人は、R3年中に取得、個人は、R4年(法人成りの翌年)に棚卸資産を売却したという認識をすることも可能なのでしょうか。
⑵-2中間省略登記の種類(第三者のためにする契約・他人物売買)によって、所得の年度帰属の認識が変わることもあるのでしょうか。
⑶一般的な法人成りにおいても、法人設立の年(R3)と棚卸資産等の引き渡し時期(R4)とをずらして、個人の事業所得等を分散することにより、節税することに問題はあるのでしょうか。 以上になります。宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜中間省略登記について
>(前提)・個人事業主(宅建業者)・法人成りを検討中・棚卸資産に販売用不動産
>(土地のみ)あり
>⑴流通税を節税するため、設立した法人に中間省略登記により棚卸資産を移転させ
>ることに、法的問題は、あるのでしょうか。
例えば、A→B→Cと順次売買があった場合に、
過去にはいわゆる中間省略登記が判例上も認められて
いましたが(最判昭和44年5月2日等)、
平成17年の不動産登記法の改正により、
所有権の移転があれば、それぞれの所有権移転の
過程(登記上もA→B→C)で登記をすることが必要となりました。
現在、「新・中間省略登記」などと呼ばれているものは、
厳密には中間省略登記ではなく、
実体法上の所有権自体も、A→Cに直接移転する契約に基づく
ものになります。
いただいたご質問を前提とすると、
==========================
① 元所有者(A)と個人事業主(B)が第三者である法人(C)のために売買契約を締結した場合
②個人事業主(B)が譲受前に法人(C)への買主の地位を譲渡した場合
==========================
があり得るでしょう。
2 ご質問②〜資産の移転について
>中間省略登記による資産の移転が法的に問題ない場合に追加の質問です。
>⑵-1個人から設立法人へ資産の移転を認識する時期についてですが、
>契約時、引渡し時等選択を、個人事業主、法人ごとに選択できるのでしょうか。
前提として、
そもそも所有権がA→Cへ直接移転する契約
に基づく登記となりますので、
この場合、個人から設立法人への不動産自体の譲渡(買主の地位の譲渡は別)
は理論上、観念できないこととなります。
(不動産の所有権が一度、個人事業主に帰属する契約の場合、
そもそもBを無視した登記ができません。
これを偽装して登記すると一応、公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項 )
となりえます。)
「(2)-1」のご質問も、
「新・中間省略登記」であるにもかかわらず、
A→B→Cで所有権が移転しているということを
前提としてご質問かと理解いたしましたが、いかがでしょうか。
もし、違うご趣旨でございましたら、
お手数ですが再度ご質問いただけますと幸いです。
3 ご質問③〜一般的な法人成りについて
>⑶一般的な法人成りにおいても、法人設立の年(R3)と
>棚卸資産等の引き渡し時期(R4)とをずらして、
>個人の事業所得等を分散することにより、節税することに問題はあるのでしょうか。
こちらは、中間省略登記等は関係なく、
法人を設立したが、個人から棚卸資産等の
引渡し時期を調整するということでしょうか。
基本的に法人成りをした際には、
法的には、個人事業主から法人への事業譲渡があった
ものと評価されるかと思います。
もちろん、一部の棚卸資産の所有権のみ移転しない
という合意自体は可能ですが、
引渡し自体は、事実の評価概念(事実上の支配権)となりますので、
例えば、法人で消費者等に販売を予定している物について、
その法人の代表者(個人)が自由に支配・管理できる状態であるという
ことですと、そもそも証拠関係として、引渡しが
なかったと評価することが難しいケースが多いのではないかと存じます。
こちらもご質問の趣旨と異なるようでしたら、
ご指摘の上、再度ご質問いただけますと幸いです。
よろしくお願い申し上げます。
回答有難うございました。
追加で、質問させてください。
1新中間省略登記に関する課税関係について所有権の移転自体は、A(現所有者)→C(購入者)に直接移転すると思いますが、所得税や法人税、消費税に関しては、現所有者(A),中間者(B)それぞれが、それぞれの売買価格等を基に所得等を認識すると考えていますが、認識が違いますでしょうか(TKC税務Q&A中間省略登記する場合の消費税の取扱い)。
2『① 元所有者(A)と個人事業主(B)が第三者である法人(C)のために売買契約を締結した場合
②個人事業主(B)が譲受前に法人(C)への買主の地位を譲渡した場合』
との回答箇所に関して。
②に関しましては、同じ認識ですが、
①に関しては、個人事業主(B)と、設立法人(C)が、買主(A)のために売買契約を締結した場合を想定していました。
このような前提において、R3年中に法人設立し、個人事業主と法人とが売買契約書を結んだ状態で、R4年に入り、R4年に買主が見つかった場合に個人事業主の事業所得の売上を、R3年で計上したり、R4年で計上したり等、契約時や引渡し時等の選択ができるかどうかという趣旨でした。
販売用不動産を保有した状態の法人成りの検討自体が、初めてでしたので、許認可等の関係も含めて違法な提案はできないと思って質問した次第です。お手数お掛け致しますが、宜しくお願い致します。
再度のご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①
>1新中間省略登記に関する課税関係について所有権の移転自体は、
>A(現所有者)→C(購入者)に直接移転すると思いますが、所得税や法人税、
>消費税に関しては、現所有者(A),中間者(B)それぞれが、それぞれの売買価格>等を基に所得等を認識すると考えていますが、認識が違いますでしょうか
>(TKC税務Q&A中間省略登記する場合の消費税の取扱い)。
ご質問①では、TKC税務Q&Aに合わせて
買主の地位の譲渡を前提に回答します。
語弊があったようで失礼しました。
1度目の回答の趣旨としましては、
所有権の移転がA→B→Cではなく、
A→Cということであれば、Bが所得認識するとしても、
あくまでも、不動産の所有権自体ではなく、
買主の地位によるものですので、
所有権の移転を前提とする
契約時と引渡し時期等の認識の選択により、
A→Bの引渡しで認識するというのは矛盾しているのではないか
という意味です。
つまり、認識における契約時と不動産引渡し時の選択は、あくまでも、
所有権の移転を前提とした資産の譲渡を想定した上でのもの
だからです。
>例えば、R3年中に法人設立をして、販売用不動産を中間省略登記により
>法人へうつす契約書を作成し、実際に、法人から消費者等へ売却が完了した>のがR4年の場合、
>法人は、R3年中に取得、個人は、R4年(法人成りの翌年)に棚卸資産を売却
>したという認識をすることも可能なのでしょうか。
上記の当初のご質問いただいた事項で
『① 元所有者(A)と個人事業主(B)が第三者であ法人(C)』
でA→Cに新・中間省略登記で登記を入れ、Cが消費者に売却する
という意味であれば、
買主の地位の譲渡は、
R3年中に完了(契約で完了)してしまっているので、
個人BがR4年に売却したという認識をすることはできないのではないかという趣旨でした。
私の1度目の回答のうち、以下の括弧書はそのような趣旨でございます。
>この場合、個人から設立法人への不動産自体の譲渡(買主の地位の譲渡は
>別)は理論上、観念できないこととなります。
ご指摘のT K C税務QAの消費税の取扱いは、以下のもので
あってますでしょうか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【文献番号】 47201803
件名:不動産の買主の地位を有償移転(中間省略登記)する場合の消費税の取扱い
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この質問事例の回答は、
「物件の変動があった場合は不動産登記法の規定により
不動産登記を行う必要がありますが、中間者が
物権を取得したうえ他の者に売却する場合であっても、
実務上は、中間者が「原権利者に対する物権の買主たる地位」を
新権利者に移転する方法により原権利者から新権利者への登記を
適法に行っているケースがあります。
しかし、その実態は、事例のように不動産業者が
原権利者から不動産を購入して所有権を取得し、
登記をしないまま新権利者に売却して所有権を移転していることから、
消費税においては、〔2〕のB→A間の売買取引とA→C間の売買取引として
それぞれ別個の取引があったものとして取り扱われることになります。」
とされています。
「中間者が物権を取得したうえ他の者に売却する場合であっても・・・」
というのが前提かと思います。
ただ、中間者が物権(所有権以外考えられません)を
取得しているのであれば、そもそもこの登記はでできませんが、
実務上は登記資料調整すればできてしまいます(つまり厳密には違法)。
「実務上は、中間者が「原権利者に対する物権の買主たる地位」を
新権利者に移転する方法により原権利者から新権利者への登記を
適法に行っているケースがあります。」
とされていますが、登記は形式審査しかしないため、
登記が通っていることを「適法に」と表現しているのではないか
と思われます。
そして、仮に登記形式上は、A(現所有者)→C(購入者)の所有権
移転であるとしても、税務上の評価は実態から判断するため、
「しかし、その実態は、事例のように不動産業者が原権利者から不動産を購入して
所有権を取得し、登記をしないまま新権利者に売却して所有権を移転していることから、
消費税においては、〔2〕のB→A間の売買取引とA→C間の売買取引として
それぞれ別個の取引があったものとして取り扱われることになります。」
といっているのではないでしょうか。
実態として所有権を取得しているならその通りです。
(ただし、登記は実態とあってない状態です。)
なお、当Q Aの関連判例として挙げられている
名古屋地裁平成20年10月30日も、あくまでも
「買主の地位の譲渡」が課税取引に該当しうるが、
対価を得てないため、課税売上とならないと
されているのみです。
>販売用不動産を保有した状態の法人成りの検討自体が、初めてでしたので、
>許認可等の関係も含めて違法な提案はできないと思って質問した次第です。
という意味では、このQ Aの事案を前提とすると
実態とあっていない登記をすることになるため、
積極的におすすめできるわけではないでしょう。
(実務上は、このような登記をしているというのは
あるんでしょうが・・・。
この場合、上記Q Aがいうように中間者が所有権を
取得していると解するのであれば、なぜ流通税がかからないかそもそも不明です。
地方税法上の「不動産の取得」には該当するものと考え
られます(最判昭和48年11月16日)が、
登記が入っていないから発覚していないだけということになるでしょう。)
2 ご質問②
>2『① 元所有者(A)と個人事業主(B)が第三者である法人(C)のため
>に売買契約を締結した場合
>②個人事業主(B)が譲受前に法人(C)への買主の地位を譲渡した場合』
>との回答箇所に関して。
>②に関しましては、同じ認識ですが、
>①に関しては、個人事業主(B)と、設立法人(C)が、買主(A)のために売買契約>を締結した場合を想定していました。
>このような前提において、R3年中に法人設立し、個人事業主と法人とが売買>契約書を結んだ状態で、R4年に入り、R4年に買主が見つかった場合に個人事>業主の事業所得の売上を、
>R3年で計上したり、R4年で計上したり等、契約時や引渡し時等の選択がで>きるかどうかと
>いう趣旨でした。
ご質問の趣旨がよくわかりました。
ありがとうございます。
様々調査させていただきましたが、
明確な根拠となる資料等は見つけることができませんでした。
法人成りのケースですので、
個人事業主と法人の売買契約書をどのような対価支払いの
条件にするご想定なのかが分かっていないところがありますが、
私見になり恐縮ですが、以下のようになるのではないかと考えます。
(1)R3年中単に契約書を締結しただけの場合
例えば、設立法人Cから個人事業主Bへの
支払いが、買主Aが見つかり、Aの受益の意思表示があった場合に
支払われるというような契約とする場合、
少なくともAの受益の意思表示があるまでは、
その契約により何かしらの法的な効果が発生しているとは
評価し難い(停止条件付契約に近いイメージです)と考えます。
所有権がCからBに移る契約ではない以上、このような契約時点
を基準に収益認識するのは難しいと考えます。
R4年に買主が見つかった場合、
買主が受益の意思表示をするのもR4年以降になると思われますので、
この時点以降に、個人事業主(B)は収益認識することとなると思われます。
(R3年にこの契約書を締結しただけでは、R3年では設立法人側も何も認識しないものと考えられます。)
(2)R3年中に契約+先払いの場合
次に、R3年中に個人事業主Bと法人Cが
契約を締結し、第三者が見つからなくても、
CからBに代金が支払われる契約で、
支払われた場合でも、Bに所有権留保するという契約の場合
(実質的な転売に近い形)
個人事業主Bと法人Cの契約により
法人Cが支払う個人事業主Bへの対価は、
実質的には、法人Cから個人事業主Bに
売主となる地位の譲渡の対価に近い性質を有するものと
かと思います。そうすると、質問①の買主の地位の譲渡と同様に
R3の時点で収益認識しないとおかしいのでは
ないかと思われます。
私見にはなってしまい申し訳ないですが、
このようなケースの場合、その契約の性質からの判断として、
上記のようになるのではないかと考えました。
そもそも新・中間省略登記が中間省略登記が封じられた
ため、実務上むりくり法律的に構成されたものになりますので、
違う考え方もあり得るかと思いますが、
当初ご質問いただいた個人・法人毎に認識時期を
契約と引渡しで調整する等はリスクの高い処理になると
思われます。
よろしくお願い申し上げます。