お世話になっております。
建設業のお客様で前任の会計事務所が
「建設請負等による損益の計上時期の特例」の適用を失念して、
税務調査で多額の加算税が課されました。
この加算税について、お客様は前任の会計事務所に
損害賠償請求を行う予定です。
本件のように、税法の特例を適用を失念した場合に、
会計事務所の責任を争った裁判例で
参考になるものがあれば教えていただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>「建設請負等による損益の計上時期の特例」の適用を失念して、
>税務調査で多額の加算税が課されました。
>本件のように、税法の特例を適用を失念した場合に、
>会計事務所の責任を争った裁判例で
>参考になるものがあれば教えていただけますでしょうか。
2 回答
税法の特例の適用に関する場合の
税理士賠償請求事案は多数あり、
税賠は個別事情によるところも
大きいため、いただいた事情からどの裁判例が
実際に参考になるものかはわかりかねるところも
ありましたが、
特例適用が問題となり及び加算税が損害となる
という視点でというと、
大阪高裁平成8年11月29日(T A I N Sコード:Z999-0012)
京都地裁平成7年 4月28日(T A I N Sコード:Z999-0008)
(両者は、同一事件の地裁判決と高裁判決)です。
などはどうでしょうか。この事件では、
複数の不動産の買換特例の適用ミスによるものですが、
特に甲不動産に関する部分は、加算税についての
損害賠償についての考え方が現れているかと思います。
(文末に大阪高裁の甲不動産部分を転載します。)
同じ特例に関するものでも態様により異なりますので、
基本的な損害賠償訴訟に対する理解と
税法に関する理解が前提にないと税賠については、
わかりにくいかもしれません。
なお、税理士の先生からのご紹介等の際には、
大変心苦しいところもありますし、いろいろな
ご意見があるところかと思いますが、
弊社では、税賠事案については、税理士の先生側
のみ、対応をさせていただいております。
よろしくお願い申し上げます。
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○大阪高裁平成8年11月29日ー甲事件該当部分
(丙が税理士事務所と考えていただければわかりやすいと
思います(厳密には職員さんですが税理士事務所としての活動なので
税理士に置き換えていただいて問題ありません。))
1 甲物件が原告の自宅であつて事業用資産ではないため事業用資産の買換え特例が
適用される余地は全くなく、また、既に居住用資産の買換え特例の適用を受けてい
るので、甲物件を売却した場合の譲渡所得税額の計算においてはその取得価額がつ
けかえ計算によることになり、更に買換えの特例が適用されて課税が繰り延べにな
る状況になかつたことは前記のとおりであるところ、丙が右の点を看過した過失に
より控訴人に買換え特例が適用されるので甲物件を売却してもその譲渡所得には課
税されない旨の誤つた教示をしたかどうかについて検討する。
2 甲第8号証(控訴人の陳述書)及び原審における控訴人本人尋問の結果中には、
控訴人が甲物件を売却しても絶対に税金はかかりませんねと何度も丙に念を押した
ところ、丙が税金はかからないと返答したので甲物件を売却したとの部分があるが
、他方、乙第1号証(丙の陳述書)中には、税金がかかつてきても大したことはな
いとは言つたが、絶対に税金がかからないと言つたことはないとの記載部分があつ
て、この点についても両者は対立しており、かつ、いずれの供述・供述記載にもこ
れを裏付けるに足りる客観的な証拠は存在しない。
もつとも、乙第1号証及び乙事件原告丙本人尋問の結果によれば、控訴人が原判
決添付の別紙物件目録(12)ないし(14)記載の土地建物を売却して甲物件を
取得した際、丙が右土地建物の譲渡所得の申告を代行していたことから、控訴人が
甲物件を売却すればその取得価額がつけかえ計算によることになり、多額の譲渡所
得税がかかることになることは丙としても十分認識していたのに、甲物件の譲渡所
得税の納付額の申告を代行するにあたり、そのことをうつかり忘れていて買換え特
例の適用が受けられるものと軽信してその旨申告してしまい、その結果、修正申告
を余儀なくされるに至つたことが認められる。しかし、丙が控訴人に甲物件の譲渡
所得税について教示したのが平成元年夏頃であることは前記のとおりであるところ
、甲物件の譲渡所得の申告を代行したのは平成2年3月であり、その間に半年以上
の期間が経過していることからすれば、丙が甲物件の譲渡所得の申告を代行した際
に居住用資産の買換え特例の適用を既に受けていたことをうつかり忘れていたから
といつて、控訴人に教示した際にも同様にそのことを忘れていて買換え特例の適用
が受けられるので税金はかからないなどと教示したものと推認するわけにはいかな
い。
3 そうすると、控訴人が甲物件を売却するにあたり丙が税金はかからないと誤つた
教示をしたとの事実については、結局、証明が十分でないというよりほかはなく、
その事実を前提として丙の過失を認めることはできない。
4 しかしながら、丙が甲物件の譲渡所得の申告を代行するにあたり、既に居住用資
産の買換え特例の適用を受けていたことをうつかり忘れて買換え特例の適用が受け
られるものと軽信してその旨申告してしまい、その結果、修正申告を余儀なくされ
るに至つたことは前記のとおりであつて、これが、適切に税務申告を代行すべきこ
とを委託された受任者が、委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもつて委任事務
を処理すべき義務に違反することは明らかであるので、被控訴人には、履行補助者
である丙の右義務違反と相当因果関係にある損害を賠償する責任があるというべき
である。
5 そこで、右損害額について検討するに、控訴人が甲物件の譲渡所得税について修
正申告をし、所得税611万6800円、県市民税227万3000円、過少申告
加算税61万1000円、延滞税54万6200円及び督促手数料50円を納付し
たことは前記のとおりであるが、このうち所得税611万6800円及び県市民税
227万3000円は、丙の義務違反の有無にかかわらず、甲物件を譲渡して所得
を得たことを原因として法律上当然に課されるものであり、また、右督促手数料5
0円は控訴人が納期限までに税金を納付しなかつたために生じた費用であるから、
いずれも丙の右義務違反との間に相当因果関係のある損害ということはできず、結
局、右過少申告加算税61万1000円及び延滞税54万6200円のみが丙の義
務違反と相当因果関係にある損害というべきである。ただし、右延滞税については
、損益相殺の趣旨から民法所定年5分の法定利息分を控除した残額を損害と認める
のが相当であり、その額は、次のとおり35万9145円となる。
54万6200円×(0.146-0.05)÷0.146
=35万9145円
6 したがつて、被控訴人は控訴人に対し、委任契約に基づく債務の不履行による損
害賠償として、右過少申告加算税61万1000円及び延滞税のうち35万914
5円の合計金97万0145円とこれに対する控訴人が催告した日の翌日である平
成3年8月11日から支払済まで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金を支
払う義務があるというべきである。
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