社会福祉法人の監事の責任について、ご教示ください。
1.経緯
古い話になりますが、今から12,3年前社会福祉法人(法人A)は土地、建物(不
動産)につき遺贈を受けました。
この不動産は、その後2年以内に、公益的目的に供されています。又法人Aと遺贈
者、相続人は全くの第三者です。
この度、諸般の事情により、不動産を売却することになりました。買い替えはしま
せん。
売却の話を進める過程で、法人Aと相続人との「覚書」が出てきました。
相続人は措置法40条の申請を行ったようですが、承認されず所得税を支払いまし
た。
そこでもし、法人Aが不動産を売却した場合は、その金額から〇〇円(所得税相当
額)を支払うという覚書を交わしました。
対価性がないので(もちろん貸借対照表にものってません。)支払うとしたら、寄付
金の性格を有するということになると思います。
但し、社会福祉法人は寄付をするのは禁止されています。
2.質問
①社会福祉法人として寄付が禁止されているが、覚書で、支払うと確約されていれ
ば、契約書として有効で
支払わない場合は債務不履行になる。という認識であっていますか
②上記を前提にすると、本来支払うべきでないものが何らかの形で処理された場合
は、法人Aに損害を与えたということになるのでしょうか?そうしなければ債務不履
行になる場合は覚書が優先するということでいいのでしょうか
監事が監査報告をする場合はこの件で特記すべきことがあるのでしょうか、又その他
に、この件で監事として注意しておくことがありますか?
とりとめない説明になりましたが、よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜契約の有効性について
>①社会福祉法人として寄付が禁止されているが、
>覚書で、支払うと確約されていれ
>ば、契約書として有効で支払わない場合は債務不履行になる。という認識で
>あっていますか
社会福祉法人においては法律上の明文の規定はないものの、
その性質から、個別通達等により、
社会福祉事業による収益を法人外へ流失することを
原則として禁止しています。
ただし、これらは行政法規であり、
他の業法等も同様ですが、これらが禁止されるから
といって、直ちに民事上の契約が無効となるわけではありません。
契約が無効と言えるには、これらに違反したことに
より、公序良俗違反と評価できる場合に初めて、
契約が無効となります(民法90条)。
どの行政法規等の違反が、公序良俗違反といえ、
無効とまでいえるかという点については、
裁判例等である程度明らかになっておりますが、
今回のケースで無効とまで評価されるかという
点自体は明確とはなっていない現状にあり、
契約自体が無効とされるのか、法人から役員等の損害賠償の
問題となる限度なのかという点については、
なんともいえない状況ではあります。
私見では、
単なる個別通達違反と見るのか、当該個別通達は、
法律に明文ないものの法律の仕組みから当然に
導かれるものを具体化しているに過ぎないというように
見るのかで判断が異なってくるものと考えます。
なお、厚労省は後者と考えているきらいがあります。
ただし、以下のとおり、仮に契約が有効であり、
債務不履行になるからといって、
支払った場合の問題がなくなるわけではありません。
2 ご質問②〜対応について
>②上記を前提にすると、本来支払うべきでないものが何らかの形で処理された場合
>は、法人Aに損害を与えたということになるのでしょうか?そうしなければ債務不履
>行になる場合は覚書が優先するということでいいのでしょうか
契約が無効であろうが有効であろうが、
損害自体は発生することになります。
(契約が有効であるから許されるというものではありません。)
契約当時の理事長は、社会福祉法人で上記契約をしてしまい、社会福祉法人の
資金から支払った時点で、法的には損害賠償義務を負うことになります。
金額などにもよるところはありますが、
対応としては、契約の有効性に疑義がありますので、
相続人からの訴えがあるまで支払わず、裁判所が契約が有効と
判断した場合に限り支払うという対応もコンプライアンス上あり得るところです。
なお、この場合、有効とされて支払わざるを得ないとしても、
契約当時の理事長等は責任を負うこととなります。
一方で、無効であると判断されたにも関わらず、支払ったという
点についての現在(契約当時と異なっていれば)の役員等の責任は
回避できる方向になります。
>監事が監査報告をする場合はこの件で特記すべきことがあるのでしょうか、又その他
>に、この件で監事として注意しておくことがありますか?
実質的に機能しているかは別として、
建前上は、監事の監査報告の対象年度に
支払いがあったとすれば、上記事実を認識している以上
「当該法人の理事の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは
定款に違反する重大な事実があったときは、その事実」
として記載する必要性が生じます。
また、理事の義務違反行為等がある場合には、
理事会や評議員会に報告義務があります。
さらに金額等にもよりますが、
上記の支払行為により法人に著しい損害
が生じるおそれがある場合には、差止め請求を
しなければならないものと解されています。
つまりは、株式会社の監査役と同じような
義務を法的には負っていることとなります。
日本の中小法人等の現実としては、
法令のとおりに厳密に監事や監査役が業務を行なっている
例は稀かと思いますが、就任する以上、
法的には実は比較的大きなリスクを負っていることとなります。
よろしくお願い申し上げます。