お世話になっております。
所有者が、配偶者居住権の設定されている建物を建て替えるには、
配偶者の同意があれば可能でしょうか?
それとも同意の他に何か要件はあるのでしょうか?
下記では「新築建物に対して借家権を設置することとして建替えに同意してもらう等、様々なこと」とあります。
同意の他に何か必要なのでしょうか?
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article303516/
○居住建物の建替えがあった場合の配偶者居住権
居住建物を取り壊して新築する場合には配偶者居住権は消滅。もっとも、居住建物の所有者は、配偶者に対して居住建物を使用及び収益させる義務を負っているので、配偶者の意思に反して取り壊すことはできない。建替えの際に、例えば新築建物に対して借家権を設置することとして建替えに同意してもらう等、様々なことが可能。(第196回国会参議院法務委員会会議録第21号)
よろしくお願いいたします。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>所有者が、配偶者居住権の設定されている建物を
>建て替えるには、配偶者の同意があれば可能でしょうか?
>それとも同意の他に何か要件はあるのでしょうか?
>下記では「新築建物に対して借家権を設置することとして
>建替えに同意してもらう等、様々なこと」とあります。
>同意の他に何か必要なのでしょうか?
2 回答
まず、前提として、配偶者居住権が設定
されている建物を建て替えると、
その時点で配偶者居住権が消滅します。
(権利の前提となる建物が取り壊しにより存在しなくなるからです。)
勝手に建て替えられてしまうと
配偶者居住権が害されますので、同意が必要ということに
なります(同意なく取り壊した場合には所有者は
損害賠償義務を負うこととなります。)。
つまり、建替えについての配偶者の同意
というのは、厳密にいえば、配偶者居住権を
消滅させることに同意(配偶者居住権の放棄)を
してもらうということです。
したがって、法務的には、親権者の同意さえあれば
建替えは可能ということになります。
なお、配偶者居住権は、遺贈や遺産分割などでしか
設定できないものですので、建て替えのため、
一度消滅してしまうと配偶者居住権自体を新築の建物に
復活させることはできません。
(まさに配偶者居住権を利用しにくい理由になります。)
この場合、対価なしまたは著しく低い価額により、
同意を得て建替えをすると、ご存知のとおり、
税務上は、みなし贈与(相続税法9条)が問題となります。
相基通9-13の2参照
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/06.htm
この対価ですが、消滅時点の配偶者居住権の評価額で、
金銭で支払うのであれば問題はないのですが、
例えば、対価として新築後の建物の借家権を設定
するという方法によるとすると、税務上はその評価額の
バランスの調整の検討も必要となると考えられます。
(個人的には、将来的に国が建替えの場合でかつ一定の場合には、
みなし贈与と取り扱わないなどの公式見解をだしそうだなとは
思っておりますが、新しい制度であり、現状ではありません。)
また、有償で消滅させる場合には、配偶者への譲渡所得にも
目配せする必要があります。
よろしくお願い申し上げます。