昨日、ご相談にいらっしゃったお客様が
未収の入院給付金(本来の相続財産)を受け取ってしまったが、
相続放棄をしたいという方でした。
死亡保険金と入院給付金の請求を同時に行い、
何の意図もなく、受け取ってしまったケースです。
この場合でも、今から相続放棄をすることは可能でしょうか?
よろしくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>未収の入院給付金(本来の相続財産)を受け取ってしまったが、
>相続放棄をしたいという方でした。
>死亡保険金と入院給付金の請求を同時に行い、
>何の意図もなく、受け取ってしまったケースです。
>この場合でも、今から相続放棄をすることは可能でしょうか?
2 回答
議論としては、相続財産である入院給付金を
受け取ることが、法定単純承認事由(民法921条)
に該当し、相続放棄ができなくなるのか?という
ところかと思います。
より具体的には、入院給付金の請求及ぼ受領が
「相続財産の処分」に該当するかということです。
純理論上(形式上)は、
相続財産である金銭債権を金銭に
変える行為をしていますので、「処分」に
該当すると考えるのが素直ではあります。
(これを受けて、ネット上では相続放棄できなくなるとするものも多いですね。)
一方で、裁判所の判断は、形式論のみではなく
個別事情による価値判断的な要素を含みます。
基本的に法定単純承認制度は、
相続債権者の保護にありますので、
その金銭相当額を、
本来受給すべき相続人に渡す
または相続人がいない場合には、相続財産管理人に
引き渡すまで明確に区分して分別管理を行う等を
行っていれば、債権者は害されませんので、
「相続財産の処分」には該当しないと判断される
可能性も十分あると考えます。
実務上は、家裁への申述は、形式的な事項の確認に
止まるので、認められると思いますので、
もし問題が顕在化するとすれば、債権者が
相続放棄した者が一旦入院給付金を受け取ったことを争い
相続人であると主張してきた場合ということとなると思われます。
もちろん、相続放棄をする者が入院給付金を受取り前
ということであれば、疑義がでますので、
受取り等ないように注意喚起が必要だと思いますのが、
問題が顕在化する可能性(形式上相続放棄がなされて
いれば、そこまで調査してくる債権者は少ない)や
最終的な裁判所の判断の不透明性などから、
仮に受け取ってしまった場合、相続放棄はできないので、
やめた方が良いというところまではいえないように考えます。
もちろん、将来問題が顕在化すれば、
否定される可能性があること自体は伝えた上で、
ということにはなるかと思いますが。
よろしくお願い申し上げます。
下記の内容は理解できました。
その上で、「問題になった場合を前提」としての再質問です。
通常、入院給付金は死亡保険金同様、
配偶者などの「日頃から使っている口座」に振り込まれます。
となれば、お金に色はありませんが、
その口座は動いてしまい、
どのお金を使ったかということも言えません。
このような場合、形式上は認められてしまう相続放棄につき、
債権者から相続放棄の取消しが請求されたら、
認められる可能性は高いですか?
追加でのご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>下記の内容は理解できました。
>その上で、「問題になった場合を前提」としての再質問です。
>通常、入院給付金は死亡保険金同様、
>配偶者などの「日頃から使っている口座」に振り込まれます。
>となれば、お金に色はありませんが、
>その口座は動いてしまい、
>どのお金を使ったかということも言えません。
>このような場合、形式上は認められてしまう相続放棄につき、
>債権者から相続放棄の取消しが請求されたら、
>認められる可能性は高いですか?
2 回答
まさに先生がご指摘されていること
(お金に色がない)が、純理論上は、
法定単純承認となる「処分」に該当する
と考えるのが素直という理由になります。
ただし、裁判所の判断に、価値判断的な要素が入る
といったのは、どちらかというと
放棄者の対応として、可能な限り速やかに
本来の権利者(その他の相続人等)に相当額を
引き渡したか否かというところが大きいと思います。
何もせずに漫然とそのままにしているという
ことですと、純理論上は「処分」に該当すると
考えることが素直である以上、認められる可能性は
高くなります。もちろん、金額の多寡等の個別事情も
裁判所は考慮すると思われますが。
よろしくお願い申し上げます。