お世話になっております。
●●と申します。
1.事実関係
(1)Y社は、令和3年3月に、P社から「カード型USBメモリ内蔵アプリケーション、通称ライセンスパック」(注1)を10セット購入539万円する売買契約を締結し、P社の代理店U社に支払いました。
(注1)ライセンスパックとは、購入と同時にその購入元P社にレンタルし、Y社がその賃貸料を仮想通貨で3年間にわたって毎月受け取るスキームです。仮想通貨の具体的な種類は、レンタル契約書には明記されておりません。
(2)さらにY社の代表取締役Y氏は、個人契約においても上記(1)のP社と同様の契約をして上記ライセンスパック総額773万円をP社代理店のU社に支払いました。
(3)令和3年6月4日に消費者庁からP社に関する役務の訪問販売に関する注意喚起が、日本全国の都道府県および市町村に公式に提供され周知されました。これは、P社との取引は、これまで特定商取引法に違反して、すでに行政処分されたV社、L社およびW社の行為と同種又は類似の行為の可能性が高く(注2)、消費者被害の発生又は拡大を防止することを趣旨としています。
(注2)V社、L社、W社の3社は、上記(1)と同種又は類似する行為を行い、消費者庁に行政処分されると、次々と運営母体となる会社を変えていました(V社→L社→W社→P社へと変遷)。
(4)そして、P社の代理店U社はY氏に、「令和3年6月9日付けで特定商取引法・預託法が改正されました。P社との契約は同法に抵触するので、すでに支払いを受けた金銭は返金します。」との電話連絡がありました。(なお、文書は存在しません)。
(5)しかし、同年7月に上記代理店U社はY氏に、「返金は手数料の関係で円通貨では返金できません。『ヴィカシーコイン』(注3)という暗号資産で返金するので承諾書に署名押印をして下さい、と一方的に言われて、Y氏はやむなく署名押印しました。
さらに、U社は返金にあたり、「ヴィカシーコインは、法人名義の取引口座は設定できないので、Y社およびY氏からP社が受け取った総額1,312万円を、Y氏個人名義で取引口座を設定させて下さい。」との連絡があり、そしてY氏のスマートフォンにヴィカシーコインの取引相場と換算額が表示されるアプリが設定されました。
(注3)ヴィカシーコイン:P社はリベリア政府から依頼されて「ヴィカシーコイン」と称する暗号資産(仮想通貨)と法定通貨を交換する交換所をリベリアに開設した、とP社は説明しています。しかし、令和3年8月31日現在、日本の金融庁が公開している暗号資産交換業者登録一覧の中に、ヴィカシーコインなる暗号資産の登録業者は存在しておりません。すなわちこのような仮想通貨そのものが違法である可能性があり、その実在性についても確認できておりません。
(6)P社代理店U社の説明では、「仮想通貨ヴィカシーコインは取引市場規模が小さいので、一括して返済することができません。第1回の返済は令和3年11月ごろになり、完済まで3年間を要します。」と説明しました。(これも文書は存在しません。口約束です)。
2.ご質問内容:
(1)Y社がP社へ支出した539万円の法的性格についてご教示をお願い申し上げます。
「カード型USBメモリ内蔵アプリケーション」という商品および「ヴィカシーコイン」なる暗号資産の実在性を確認できておりません。従いまして返還される可能性は極めて不透明です。このような現状において、Y社がP社へ支出した539万円はいかなる法的性格を有するのでしょうか?
(2)上記(5)に記載したとおり、Y社で支出した539万円と代表者Y氏個人が支出した773万円合計1,312万円が個人名義の仮想通貨ヴィカシーコイン取引口座に合算されています。Y社からY氏個人へ資産の移転があったと考えるべきなのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜Y社のP社への支払いの法的性質
>(1)Y社がP社へ支出した539万円の法的性格についてご教示をお願い申し上げます。
>「カード型USBメモリ内蔵アプリケーション」という商品および「ヴィカシーコイン」
>なる暗号資産の実在性を確認できておりません。従いまして返還される可能性は極め
>て不透明です。このような現状において、
>Y社がP社へ支出した539万円はいかなる法的性格を有するのでしょうか?
消費者庁のプレスリリース等を確認する限り、
Y社・P社間の「ライセンスパック」と称するカード型USBメモリの売買契約について、
特商法9条の3第1項1号等に基づき、取り消すことができる状態であったと
考えられます。
そして、
>同年7月に上記代理店U社はY氏に、「返金は手数料の関係で円通貨では返金できま
>せん。
>『ヴィカシーコイン』(注3)という暗号資産で返金するので承諾書に署名押印を
>して下さい、と一方的に言われて、Y氏はやむなく署名押印しました。
>さらに、U社は返金にあたり、「ヴィカシーコインは、法人名義の取引口座は設定
>できないので、Y社およびY氏からP社が受け取った総額1,312万円を、
>Y氏個人名義で取引口座を設定させて下さい。」との連絡があり、
>そしてY氏のスマートフォンにヴィカシーコインの取引相場と換算額が表示される
>アプリが設定されました。
との経緯からすると、一旦は、取消しがあり、
不当利得返還請求権(貸付金等)となったと捉えるのが
事実経緯からの素直な認定となると思われます。
「ヴィカシーコイン」なるものによる返金は、
形式上はこの不当利得返還請求権への代物弁済と
なるものと考えられます。
一方で、この「ヴィカシーコイン」が実在するものでない
違法なものである場合には、代物弁済の合意の前提に錯誤があるものとして、
こちらも取り消すことが可能となるでしょうし、
公序良俗違反で合意自体無効(民法90条)という解釈も
あり得るところです。
つまり、この「ヴィカシーコイン」が実在しないまたは
違法な取引である場合には、
Y社のP社に対する不当利得返還請求権が存続したまま
ということにもなる得ると考えられます。
2 ご質問②〜Y社からY氏個人への資産の移転について
>(2)上記(5)に記載したとおり、Y社で支出した539万円と代表者Y氏個人が支出した
>773万円合計1,312万円が個人名義の仮想通貨ヴィカシーコイン取引口座に合算されて
>います。
>Y社からY氏個人へ資産の移転があったと考えるべきなのでしょうか?
Y氏がY社の代表であることから、資産の移転があったと
評価することもできなくもないかもしれませんが、
対税務署との関係でいうと、
>さらに、U社は返金にあたり、「ヴィカシーコインは、
>法人名義の取引口座は設定できないので、
>Y社およびY氏からP社が受け取った総額1,312万円を、
>Y氏個人名義で取引口座を設定させて下さい。」との連絡があり、
>そしてY氏のスマートフォンにヴィカシーコインの取引相場と換算額が表示される
>アプリが設定されました。
という経緯から、個人のアプリで法人の資産を管理している
だけであるということで資産の移転は観念できないと主張する
形で良いのではないかとは思います。
これは、「ヴィカシーコイン」の代物弁済が有効な
ことが前提となりますが、法人の受領方法として、管理の制約から
個人名義のアプリに入っているという説明は可能であると思います。
(法人成り後も、個人事業主時代の預金口座を利用しているのと
同じイメージです。)
3 最後に
減価償却などの関係も含めて、
疑問に思われたのかなと思いますが、
P社及びU社の言っていることは全く信用できない状況です。
また、「ヴィカシーコイン」自体もプレスリリース上、
不実告知の一内容に登場していますが、
「ヴィカシーコイン」の実在性などについてまで、
は情報はでていません。
今後、詐欺被害の裁判等で明らかにされていく
こととなる事情のようには思います。
税務申告等との関係では、
税理士の先生としては、このような状況ですので、
上記を前提に可能性を説明及び加算税リスク等を説明の上で、
最終的に依頼者さまの意思決定に委ねる他、現状
できる方法はないように思われます。
よろしくお願い申し上げます。