お世話になります。
●●です。
解散した法人が作成していた書類の保存についてご教示ください。
≪前提≫
・決算月:3月末
・事業目的:精密機械の設計、製作、販売
≪相談≫
上記の法人が2022年3月31日で解散を予定しています。
現在、様々な書類を倉庫を賃借して保管していますが、解散後は本社・倉庫等
すべて解約する予定です。
経理・税務に関する書類は税法が定める期間、現社長が個人でトランクルームを
借りて保存する予定ですが、それ以外の書類に関しては法律上、どのような定め
があるのでしょうか。
また、その保存のための費用負担は誰に帰属するのでしょうか。
具体的にご教示頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜法律上の保存義務について
>上記の法人が2022年3月31日で解散を予定しています。
>現在、様々な書類を倉庫を賃借して保管していますが、解散後は本社・倉庫等
>すべて解約する予定です。
>経理・税務に関する書類は税法が定める期間、現社長が個人でトランクルームを
>借りて保存する予定ですが、それ以外の書類に関しては法律上、どのような定め
>があるのでしょうか。
清算が結了(登記)した(法人格が消滅)場合に、
清算人等の会社以外の者が直接的に保管義務を負うとされているのは、
会社法508条(持分会社の場合は672条)になります。
ここでは、「帳簿資料」と表現されていますが、
清算結了の登記から10年間、
帳簿資料・・・「帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料」
とされています。
税法上も、保存が必要と解されていますが(法人税法施行規則59条)、
法人の法人格が消滅している以上、法人自身が保管するという
概念は成り立たないので、清算人等が保存するということになりますが、
税法からはなぜ会社以外の者が保存しなければならないのかは明らかではなく、
上記の会社法の規定を前提にした具体化であると解されているのが
一般的ではあります。
法律上は、各法律の整合性は曖昧であり、理論的な問題が整理されているわ
けではないというのが現状です。
基本的には、国側の解釈としては、資料の保管義務と期間の定めがあるもの
については、清算後もその期間の保存が必要であると解釈・運用しています。
例えば、以下のような書類になります。
(その他、保存期間の定めがあるものは基本的に行政との
関係にありますので、許認可等がある会社であれば、その業法
を確認することとなります。)
・雇用保険の被保険者に関する書類
・・・完結の日から2年(被保険者に関する書類にあっては4年)(雇用保険法施行規則143条)
・労災保険に関する書類
・・・完結の日から3年(労働者災害補償保険法施行規則51条)
・健康保険に関する書類
・・・完結の日から2年(健康保険法施行規則34条)
・厚生年金保険に関する書類
・・・完結の日から2年(厚生年金保険法施行規則28条)
・産業廃棄物処理の委託契約書
・・・契約終了日から5年(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則8条の4の3)
その他、会社法上、清算人の保管が必要とされる
「帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料」に
何が含まれるかですが、
解釈論としては、
「帳簿」については、法律上作成する義務のあるものに
限られず、任意に作成された現存する一切の帳簿、
「その事業及び清算に関する重要な資料」は、
事業上重要な取引の資料等とされており、
契約書等のみでなくメールなども含むものとされています。
(ここは「重要な」が相対的な概念ですので、
個別事情によるとしか言いようがないところです。)
一方で、実務上は、該当する可能性のある資料を
10年間保存するというのはコストが膨大になります。
この会社法672条の趣旨は、裁判などがあった場合に
資料が利用できるようにという規定ですので、
経過期間とどれだけ将来トラブルが生じるものと予想できるか
等の比較勘案の上、どのレベル資料を残すのかを決めていく
ということとなるでしょう。
つまるところ、法律はそうなっていたとしても、
実務運用上は一定のラインで線引きするしかありません。
2 ご質問②〜費用負担について
上記の資料の保存費用及び保存者に対する報酬については、
会社法等に規定などはありません。
ただし、清算会社のための保存であるので、
清算会社の負担とすべきであると解されています。
清算人は、分配すべき会社財産からこれらの費用を
あらかじめ確保しておくことが認められており、
決算報告書に計上しておくことが認められると解されています。
よろしくお願い申し上げます。