いつもお世話になっております。
事実関係と質問事項は以下のとおりですが、「名義預金」ではなく、「名義不動産」という考え方はあり得るのでしょうか?
被相続人:A(令和2年12月相続発生)
相続人:B(Aの配偶者)、C(Aの第1子)、D(Aの第2子)、E(Aの第3子)、F(Aの第4子)
1.事実関係
(1)平成2年に別荘建物を建築し、被相続人Aが建築費の大半を負担した。
(2)建築以来、Aが別荘建物に係る固定資産税や必要経費をAの口座から支払っていた。
(3)Aが高齢になったため、CがAの依頼で別荘建物に係る経費を立替払いし、Cの立替え払い後、CがAの口座からCの口座へCが立替えた金額を振り込んでいた。
(4)Aが亡くなる1年3カ月前の令和元年9月に、別荘建物の長期大規模修理代等で約350万円の支出が発生し、Cが支出を立替えた後、CがAの口座からCの口座へ立替代金を振り込んだ。
(5)別荘建物の相続税評価額(令和2年度の固定資産税評価額)は約150万円である。
(6)別荘敷地の賃借人はA、C及びDの連名となっていることから、別荘建物の名義はA、C及びDの共有であるとCはAから聞かされていたが、別荘建物の名義は当初からCとなっていた。
2.質問事項
(1)Aが負担した令和元年9月の別荘建物長期大規模修理代等の取扱い
Aが別荘建物の建築費の大半を負担していが、別荘建物の名義をCとしていたため、平成2年にAからCへ別荘建物の贈与が行われたことになり、令和元年9月にAが負担した長期大規模修理代等350万円はAからCへの贈与となってしまうのか?
(2)別荘建物はC名義であるが、相続税申告上、別荘建物建築費の大半を負担していたAの所有物(名義不動産?)とすることは可能か?可能の場合、何か特別な手続きを行う必要があるか?
質問の趣旨としては、別荘建物の相続税評価額が約150万円であるにもかかわらず、Aが負担した別荘建物の長期大規模修理代等の約350万円が相続開始前3年以内の贈与に該当すると、課税価格が約200万円増加し、かつCに贈与税の申告義務も発生するため、別荘建物の所有権保存登記自体が錯誤(?)であり、Aの名義不動産(?)という考え方が採用できないかということです。
どうぞよろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>(1)Aが負担した令和元年9月の別荘建物長期大規模修理代等の取扱い
>Aが別荘建物の建築費の大半を負担していが、別荘建物の名義をCとしていたため、
>平成2年にAからCへ別荘建物の贈与が行われたことになり、
>令和元年9月にAが負担した長期大規模修理代等350万円は
>AからCへの贈与となってしまうのか?
>(2)別荘建物はC名義であるが、相続税申告上、
>別荘建物建築費の大半を負担していたA
>所有物(名義不動産?)とすることは可能か?
>可能の場合、何か特別な手続きを行う必要があるか?
>質問の趣旨としては、別荘建物の相続税評価額が約150万円であるにもかかわらず、
>Aが負担した別荘建物の長期大規模修理代等の約350万円が
>相続開始前3年以内の贈与に該当すると、課税価格が約200万円増加し、
>かつCに贈与税の申告義務も発生するため、別荘建物の
>所有権保存登記自体が錯誤(?)であり、Aの名義不動産(?)
>という考え方が採用できないかということです。
2 回答
ご質問(1)(2)ともに
別荘建物について、登記上はC名義となっているが、
本来の所有者はAであったとすることが
可能かという問題かと思います。
理論上は、名義財産の対象財産が不動産であることは
名義預金や名義株式と同様にありえることです。
例えば、大阪地判平成27年3月13日では、
以下のように判示して、個別事案の判断により、
登記名義人ではなく、被相続人の所有である旨の認定が
されています。
「不動産については、不動産登記簿に所有者として登記されている者が
所有者であると事実上推定すべきであるが(最高裁昭和34年1月8日)、
当該不動産の取得の経緯、取得原資の出捐や使用収益の状況、
登記名義人と取得原資出捐者や使用収益者との関係等を総合考慮して、
登記名義人以外の者に帰属するというべき特段の事情があると認められる
場合には、その者を当該不動産の所有者と認定するのが相当である。」
本件でも上記の特段の事情が認定されれば、
名義不動産ということになります。
特段の事情なため、納税者の方で事実上立証できなくては
なりません。実際は、事実認定と評価の問題となります。
いただいた事情に証拠があるとすると
この特段の事情が認められる可能性自体は十分あると考えられます。
ただ、あくまでも事実認定の評価の問題となりますので、
いただいた事情の証拠があるかという点と、
>(3)Aが高齢になったため、CがAの依頼で別荘建物に係る経費を立替払いし、
>Cの立替え払い後、CがAの口座から
>Cの口座へCが立替えた金額を振り込んでいた。
>(4)Aが亡くなる1年3カ月前の令和元年9月に、
>別荘建物の長期大規模修理代等で約350万円の支出が発生し、
>Cが支出を立替えた後、CがAの口座からCの口座へ立替代金を振り込んだ。
という事情は、経緯としては、Aが所有者であったことを
基礎付ける事情となりそうですが、
一方で、C自身一旦支払い、さらにCがAの口座から
Cへの振込みを行っているということ
なので、自己が名義人なっていることを本当に知らなかったのか
等は、争点になると思われます(平成2年当時からこの時点の
どこかで贈与契約の合意があったのではないかと疑わせる事情として)。
つまり、Cが積極的に建物維持等のための行為を
行っており、自己の名義である
ことを認識していなかったというのはないのではないかと
疑われるという意味です。
この辺りは、訴訟となっても、弁護士の戦い方のうまさや
裁判官のタイプなどでも結論が変動する可能性もある領域かと思います。
税理士の先生としては、依頼者様にリスクも説明しつつ、
選択してもらうということになるかと思います。
個人的には、
税務訴訟の目線からいえば、いただいた事情に証拠があり、
更正されたという事案で、税務訴訟を争いたいと言われた場合、
争う価値が十分にある旨、伝える事案かとは思います。
よろしくお願い申し上げます。