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書面によらない贈与契約の一部が履行されないまま相続が開始した場合

永吉先生

税理士の●●です。
いつもお世話になっております。

書面によらない贈与契約の一部が履行されないまま相続が開始した場合、相続税の申告においてその未履行部分をどのように処理すべきでしょうか。

【経緯】

2020年10月、甲は、子Aが所有する建物のリフォーム代を負担することを承諾。(贈与契約書は作成せず。)

2021年1月25日、甲名義の預金口座からリフォーム会社Xに、リフォーム代(窓ガラス交換費用)が振込送金された。

2021年5月21日、甲名義の預金口座からリフォーム会社Yに、リフォーム代(外壁塗装代)が振込送金された。

2021年6月2日、甲が死亡。
同日(甲の死亡後の時刻に)、甲名義の預金口座からリフォーム会社Zに、リフォーム代(シャッター修理費用)が振込送金された。

【補足】

子Aが所有する建物は、甲が所有する土地の上に建っており、甲および子Aは子A所有建物にて同居していた。

甲名義の預金口座からリフォーム会社への振込送金手続は、子Aが行っていた。

シャッター修理工事は2021年5月29日に完了、子Aがリフォーム会社Zから工事費用請求書を受領したのは5月31日だった。

甲の法定相続人は子Aと子Bの2名。

【質問】

2021年6月2日に行われた振込送金は、贈与契約が履行されたものと考えるべきでしょうか、あるいは遺産の一部が相続人に仮払いされたものと考えるべきでしょうか。
相続税の生前贈与加算や債務控除との関連についても、ご教授いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>2021年6月2日に行われた振込送金は、贈与契約が履行されたものと考えるべきで
>しょうか、あるいは遺産の一部が相続人に仮払いされたものと考えるべきでしょうか。
>相続税の生前贈与加算や債務控除との関連についても、ご教授いただければ幸いです。

2 回答

(1)合意の性質について

まず前提としてですが
>2020年10月、甲は、子Aが所有する建物のリフォーム代を負担することを承諾。
については、民法上の「贈与契約」ではなく、
各種支払い等と合わせて、

各リフォーム会社との契約者
が誰か(支払義務は誰にあったのか)により、合意内容の評価が異なってきます。
(税法との関係では、相続税法8条または相続税法9条のみなし贈与
を検討することになります。)

本件では、各リフォーム会社との契約者は子Aである
という前提でよろしいでしょうか。以下、それを前提に回答します。

この場合、甲がリフォーム代金を負担するというのは、

①第三者弁済の義務を負わせる合意と②将来の求償権の放棄

の合意があったとされるかが問題となると思います。

(2)2021年6月2日の振込送金について

子Aの話を前提とすると
この場合、子Aのリフォーム会社への債務を甲が弁済することを義務付け、
それを停止条件として、求償権の放棄する合意があったと
されると考えられます。

そうすると、振込送金行為は単なるAの相続債務の履行行為
に過ぎず、その債務を消滅させる行為の効果は相続人全員に及ぶことになります
(単なる相続債務の履行行為)。
なお、債務負担割合等は遺産分割等にも依存します。

>相続税の生前贈与加算や債務控除との関連についても、ご教授いただければ幸いです。

上記を前提とすると、みなし贈与とされるうる行為を
Zから請求書がきた5月31日等(甲生前)とする(弁済負担義務が確定した時点)のか、
それとも、振込送金をした6月2日時点(甲死後)とする求償権を放棄した時点と
考えるのかが問題となりますが、

子Aのリフォーム会社への債務を甲が弁済することを義務付け、
それを停止条件として、求償権の放棄する合意
を全体として、評価すると、

弁済負担義務が発生した時点でみなし「贈与」となり、
生前贈与加算され、かつ債務控除の対象(債務控除の負担は遺産分割等に依存します。)
となると考えるのが素直かと思います。

課税実務上は、辻褄(+ー)があっていればここまで厳密な
ことは問題にならないかもしれません。

(3)合意の有無について

>2020年10月、甲は、子Aが所有する建物のリフォーム代を負担することを承諾。
>(贈与契約書は作成せず。)

上記は、Aの言い分に従った場合で、合意が
あったと認定できる前提の回答となりますが、

契約書もなく、
>甲名義の預金口座からリフォーム会社への振込送金手続は、子Aが行っていた。

ということですと、子Bがそのような合意や行為が
なかったと主張した場合(争いになった場合)、
正直なところ、その合意が認定できるのかは疑問があります。
(他に証拠があれば別です。)

同居していることから甲が負担する行為も一定の合理性がある
こと等はAに有利な事情ですが、
その金額の大きさや生前の甲の状態等にも
依存する問題ですので、争ってみなければわからない
ということになるかと思います。

合意が認定できない場合、3つの振込送金
全てAの不当利得となってきます。
(つまり、生前の支払分も、甲→Aに対する
不当利得返還請求権として相続財産となる。)

この辺りについて、
税理士の先生としては、
税額の違いが大きい場合にはリスクを説明しつつも、

ある程度、依頼者さんの話を前提に申告するしかない
ところです(脱税等は別として)。

よろしくお願い申し上げます。