お世話になっております、税理士の●●です。
未分割遺産から生ずる不動産所得の帰属についてお教えください。
2020年12月に被相続人が死亡、
相続人は配偶者、長女、二女、
賃貸不動産を配偶者に、預金を長女に、その他財産を二女に相続させる旨の遺言書(公正証書)あり、
という内容の相続がありました。
当初は遺言公正証書にしたがって相続手続を進める方針だったため、
相続開始と同時に配偶者が賃貸不動産を取得した(未分割遺産なし)、
という前提で配偶者の2020年分所得税申告を行っています。
しかしその後、取得割合がバランスを欠くことから、弁護士が以下の内容の遺産分割協議書を作成し、近日中に全員が押印することになりました。
(1)賃貸不動産を配偶者が、預金の2/3を長女が、預金の1/3およびその他財産を二女が相続する。
(2)配偶者は、相続開始時から遺産分割協議成立の日までに発生した賃料債権等の権利を含めて取得する。
お教えいただきたいのは、
上記(2)の一文が、未分割遺産から生ずる不動産所得の帰属に影響を及ぼすのか、
という点です。
遺産分割の効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではないため、
上記(2)の一文があったとしても未分割遺産から生ずる不動産所得は各共同相続人にその相続分に応じて帰属する、
と考えると、
・2020年分の所得税について配偶者は更正の請求を、長女と二女は修正申告を行う
・未分割遺産から生ずる不動産所得が110万円超の場合、配偶者は贈与税申告を行う
という対応が必要になるのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>お教えいただきたいのは、
>上記(2)の一文が、未分割遺産から生ずる不動産所得の帰属に影響を及ぼすのか、
>という点です。
>遺産分割の効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではないため、
>上記(2)の一文があったとしても未分割遺産から生ずる不動産所得は各共同相続人
>にその相続分に応じて帰属する、
>と考えると、
>・2020年分の所得税について配偶者は更正の請求を、長女と二女は修正申告を行う
>・未分割遺産から生ずる不動産所得が110万円超の場合、配偶者は贈与税申告を行う
>という対応が必要になるのでしょうか。
2 回答
まず、前提として、
未分割期間中の収益不動産の収入金額の帰属について、
その後、当該不動産を特定の相続人が遺産分割で
取得したとしても、収益不動産の収入金額が、
各相続人の相続分に応じてに帰属するとする
取り扱いの根拠となっているは、
最高裁平成17年9月8日判決です。
この判決は、以下のように述べています。
====================================
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、
共同相続人の共有に属するものであるから、
この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、
遺産とは別個の財産というべきであって、
各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。
遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、
各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した
上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
====================================
つまり、整理すると、
遺産から生じた賃料債権は、遺産とは「別個の
財産」であり、その発生時点での共有者(相続人)間に共有割合(相続分)
によって確定的に帰属するから、遺産分割の影響を受けないと
されています。
そして、今回は、
>賃貸不動産を配偶者に、預金を長女に、その他財産を二女に相続させる旨の遺言書
>(公正証書)あり、
>という内容の相続がありました。
とのことなので、相続開始から遺産分割までの間についても、
その期間において、賃貸不動産の所有権は、配偶者に帰属していたのですから、
そのすべての賃料債権が配偶者に確定的に帰属しており、
遺産分割の影響を受けないと考えるのが、上記最高裁の考え方と整合的です。
つまり、
>(2)配偶者は、相続開始時から遺産分割協議成立の日までに発生した賃料債権等の
>権利を含めて取得する。
この部分については、
当然に配偶者に帰属しているものを
取得する旨の記載に過ぎず、厳密には法的に
意味のない記載になるものと考えられます。
>・2020年分の所得税について配偶者は更正の請求を、長女と二女は修正申告を行う
>・未分割遺産から生ずる不動産所得が110万円超の場合、配偶者は贈与税申告を行う
したがって、
所得税のついて更正の請求や修正申告をすべき理由はなく
賃料債権についての贈与税の問題も生じないものと考えられます。
よろしくお願い申し上げます。