「死亡保険金と特別受益に準ずる持戻しの関係」について確認させてください。
後妻がいる社長が生命保険に加入することを検討していますが、
先妻がかなりの悪妻らしく、
死亡保険金につき、特別受益に準ずる持戻しの対象になることを心配されています。
そこで、後妻が保険料負担者となる保険料贈与プランを検討しているのですが、
この保険料の原資に関する質問です。
後妻は同族会社の役員でもあるので、役員報酬をもらっており、
それを原資に保険料を払えば、持戻しのことは何も心配せず、
保険料贈与プランにより、死亡保険金が相続財産から切り離せると理解しています。
この場合において、社長から保険料相当額の贈与があった場合、
預金の中ではお金に色はないため、後妻が稼いだお金と贈与されたお金が混ざってしまいますが、
贈与された保険料相当額と支払保険料の関係につき、
毎年の贈与する時期、贈与額と保険料額の関係によっては、
預金残高が十分にある状況でも(贈与されなくても保険料が払える状況であっても)、
持戻しの対象になるリスクはあるでしょうか?
また、このリスクがあるならば、
毎年の贈与する時期、贈与額と保険料額の関係が紐付きとは認めにくい状況にすれば、
このリスクは減ると考えていますが、0にはならないですよね?
結果、贈与はなし、後妻の役員報酬から保険料を支払うことがベストと考えますが、
この理解で正しいでしょうか?
仮定の質問もございますが、ご回答をお願いします。
よろしくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>後妻がいる社長が生命保険に加入することを検討していますが、
>先妻がかなりの悪妻らしく、
>死亡保険金につき、特別受益に準ずる持戻しの対象になることを心配
>されています。
>そこで、後妻が保険料負担者となる保険料贈与プランを検討しているのですが、
>この保険料の原資に関する質問です。
2 回答
まず、死亡保険金が特別受益に準じて扱われる
という議論と社長から後妻への保険料相当額の
生前贈与として特別受益となるかというのは別の議論です。
(その前提でのご質問かと思いますが、前提として
整理いたします。)
死亡保険金が特別受益に準じるのかという論点は、
・契約者 :被相続人(社長)
・被保険者:被相続人(社長)
・受取人 :後妻
という生命保険で、社長が死亡した場合の
保険金は、相続財産とはならないものの
他の相続人と著しく不平等になる場合には、
生命保険金を特別受益に準じて扱うとするものです。
(どの程度で著しく不平等とされる目安等の詳細は
ご質問の趣旨とは異なるかと思いますので、ここでは省略します。)
一方で、
社長から後妻への保険料相当額の
生前贈与として特別受益となるかという論点については、
・契約者:後妻
・被保険者:被相続人(社長)
・受取人:後妻
というような生命保険で、社長が後妻へ
保険料相当額を贈与するというケースかと
思います(先生ご指摘の保険料贈与プラン)。
この場合、社長から後妻へ保険料相当額の
生前贈与があったとして、この金額が特別受益となる
というのが論理的帰結になります。
(実態の契約者は被相続人であり生命保険金が
特別受益に準じるとすると裁判所が判断する
可能性も0ではありませんが、論理的では
ないですし、現状ではこのように解して良いと考えます。)
先生のご質問は後者についてかと思いますので、
その前提で、いただいたご質問に回答します。
>後妻は同族会社の役員でもあるので、役員報酬をもらっており、
>それを原資に保険料を払えば、持戻しのことは何も心配せず、
>保険料贈与プランにより、死亡保険金が相続財産から切り離せると理解しています。
はい。おっしゃるとおりです。
>この場合において、社長から保険料相当額の贈与があった場合、
>預金の中ではお金に色はないため、後妻が稼いだお金と贈与されたお金が
>混ざってしまいますが、
>贈与された保険料相当額と支払保険料の関係につき、
>毎年の贈与する時期、贈与額と保険料額の関係によっては、
>預金残高が十分にある状況でも(贈与されなくても保険料が払える状況で
>あっても)、
>持戻しの対象になるリスクはあるでしょうか?
そうですね。
結局のところ、このようなケースで特別受益となり得るのは、
生命保険金ではなく、
社長から後妻への保険料相当額の生前贈与額となりますので
生前贈与が証拠上認定できる(前妻が立証できる)
のであれば、持ち戻しの対象となります。
>また、このリスクがあるならば、
>毎年の贈与する時期、贈与額と保険料額の関係が紐付きとは認めにくい
>状況にすれば、
>このリスクは減ると考えていますが、0にはならないですよね?
はい。特別受益になるかはこの場合、
贈与があったか否かとなりますが、
社長からの口座からの振り込み金額等
が、保険料額と一致等していると証拠上
贈与があったとされやすいでしょう。
ただ、ご指摘のとおり、
実際に贈与がある以上、
リスクが0にはなりませんし、
この生前贈与は、論理上必然的に
特別受益となってしまいますので、
特別受益となること自体をリスクと
捉えるならば、
生命保険金が特別受益に準じる場合よりも
リスクは高いです(金額の問題と10年以内か
どうかという点は別として)。
>結果、贈与はなし、後妻の役員報酬から保険料を
>支払うことがベストと考えますが、この理解で正しいでしょうか?
そうですね。相続人間紛争を防ぐ(特別受益の問題を
生じさせない)という意味では、先生のご理解のとおりです。
よろしくお願い申し上げます。
1点、条件を書き忘れましたが、
当然、先妻との間には子供(社長の相続人)がいる前提です。
> そうですね。
> 結局のところ、このようなケースで特別受益となり得るのは、
> 生命保険金ではなく、
> 社長から後妻への保険料相当額の生前贈与額となりますので
>
> 生前贈与が証拠上認定できる(前妻が立証できる)
> のであれば、持ち戻しの対象となります。
最高裁(平成16年10月29日決定)では、
「特段の事情がある場合、死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象」と判断していますので、
死亡保険金が特別受益の対象になることはあり得るのではないでしょうか?
私の質問は死亡保険金が特別受益の対象になる可能性があるか?、
という趣旨でした。
> >後妻は同族会社の役員でもあるので、役員報酬をもらっており、
> >それを原資に保険料を払えば、持戻しのことは何も心配せず、
> >保険料贈与プランにより、死亡保険金が相続財産から切り離せると理解しています。
>
> はい。おっしゃるとおりです。
すいません、記載ミスがあり、他の先生も読んでいらっしゃるので、
補足を致します。
> >保険料贈与プランにより、死亡保険金が相続財産から切り離せると理解しています。
→
この場合、妻は保険料相当額の贈与を受けていないので、下記と書くべきでした。
後妻が受け取る保険金は一時所得となり、死亡保険金が相続財産から切り離せると理解しています。
追加の質問に関して、よろしくお願い致します。
再度のご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>最高裁(平成16年10月29日決定)では、
>「特段の事情がある場合、死亡保険金請求権は特別受益に準じて
>持戻しの対象」と判断していますので、
>死亡保険金が特別受益の対象になることはあり得るのではないでしょうか?
>私の質問は死亡保険金が特別受益の対象になる可能性があるか?、
>という趣旨でした。
2 回答
判例の射程の問題となりますが、
先生ご指摘の判例は、
先日の以下の回答にもあるとおり、
>死亡保険金が特別受益に準じるのかという論点は、
>・契約者 :被相続人(社長)
>・被保険者:被相続人(社長)
>・受取人 :後妻
>という生命保険で、社長が死亡した場合の
>保険金は、相続財産とはならないものの
>他の相続人と著しく不平等になる場合には、
>生命保険金を特別受益に準じて扱うとするものです。
という事案においてのものとなります。
先生の前回のご質問の保険料贈与プラン
が、保険料の生前贈与認定ができる事案
ということであれば、民法上ストレートに保険料相当額について、
特別受益該当性を認定できる事案であり、
上記の最高裁は、保険契約の性質から、
保険料が特別受益とできない事案を前提として、
あまりにも保険金を特別受益としないことが
バランスを欠くことから、認められた例外中の例外の
解釈になりますので、
そこまで当該判例の射程を拡張して評価するか
というと一般的ではないと思います。
(この辺りは、民法全体の理解と
裁判例等の射程等の分析等になるので、
あまりに専門的過ぎ、書籍などでも現れない
実務的なものですので、弁護士以外ですとご理解
いただくことが難しいかもしれません。)
>私の質問は死亡保険金が特別受益の対象になる可能性があるか?、
>という趣旨でした。
もちろん、遺留分は最後の砦ですので、
今後の判例変更や射程の拡張などの判例が
でる可能性自体は否定できません(特に明確な
保険料の生前贈与の認定ができない事案など)ので、
可能性があるか?ということだと0ではないとは思います。
ただ、税務でいうと、将来通達改正が
あるかもしれないようねという程度の
ニュアンスでとらえていただければと思います。
法務的には、先生の先日のご質問の
>結果、贈与はなし、後妻の役員報酬から保険料を支払うことがベストと
>考えますが、
>この理解で正しいでしょうか?
が良いのは間違いありません。
よろしくお願い申し上げます。