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相続税申告期限前の遺産分割のやり直しについて

永吉先生

いつも大変お世話になっております。
お忙しいと存じますが、標題の件につきご教示いただきますよ
うお願い致します。

https://www.zeiken.co.jp/souzoku/jirei-31.html
遺産分割協議後のやり直しの場合には、民法上は相続人全員の
合意があれば、解除できても税務上は贈与になり贈与税が発生
すると思いますが、上記サイトに、相続税申告期限前であれ
ば相続による取得と解する余地があるとの記載がありました。

現在相談受けている案件は、父が亡くなり、母が同居してい
たのに同居していない長男が自宅の土地建物を取得してしまい
その不動産の売却を考えているのですが、譲渡所得の居住用
の特例が適用できない状況との内容です。
まだ相続税の申告期限前ですが、既に申告が完了している
ようです。

事実認定の問題とは思われますが、既に相続登記も完了して
おり、居住用特例を適用するための遺産分割のやり直しとなる
と贈与税が発生する可能性が高いでしょうか?

相続税の申告を終わらせているとしてまだ期限前です。
期限内申告書の再提出で、相続としての取得と認められる
余地はございますでしょうか。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>https://www.zeiken.co.jp/souzoku/jirei-31.html
>遺産分割協議後のやり直しの場合には、民法上は相続人全員の
>合意があれば、解除できても税務上は贈与になり贈与税が発生
>すると思いますが、上記サイトに、相続税申告期限前であれ
>ば相続による取得と解する余地があるとの記載がありました。

>事実認定の問題とは思われますが、既に相続登記も完了して
>おり、居住用特例を適用するための遺産分割のやり直しとなる
>と贈与税が発生する可能性が高いでしょうか?

>相続税の申告を終わらせているとしてまだ期限前です。
>期限内申告書の再提出で、相続としての取得と認められる余地はございますでしょうか。

2 回答

(1)国の考え方

国の考え方として、上記U R Lの通達の通り、
一度確定的に帰属が決した以上、遺産分割のやり直し
については、贈与税の対象となるという見解でしょう。

例えば、平成17年12月15日裁決も、
「遺産分割協議がいったん成立すると、
相続開始時に遡って同協議に基づき相続人に分割した相続財産が確定的に帰属する。
したがって、遺産分割協議をやり直して相続財産を再配分したとしても、
当初の遺産分割協議に無効又は取り消し得べき原因がある場合等を除き、
相続に基づき相続財産を取得したということはできない。そして、この場合、
対価なく財産を取得したとすれば、贈与とみるほかはない。」

としており、錯誤などの法定の無効や取消事由が必要
とされています。今回のやり直しの理由で、法的に錯誤
などが認められるかというと難しいでしょう。

(2)申告期限前のやり直しなら「相続」とされる余地があるか

私としては、余地があるかということですと、
上記の国の見解(通達含む)が必ずしも正しいわけではない
(解釈の余地がある部分という意味です。)
ので、余地自体はあると思います。

ただ、上記U R Lが根拠として挙げている
最高裁平成2年9月27日判決は、
民事上の判例であり、合意解除と再度の分割を
認めていますが、この再度の分割に遡及効
(相続開始時に遡る通常の遺産分割と同様の効果)
があるのか、それとも売買・交換・贈与などとして
単純に財産の分配を認めているのかという点は、
そこまで明確ではありません。

民事の争いは、結局のところ、誰に財産が帰属するのか?
という点が争点となりますので、
そこまで踏み込んだ判断がなされたと評価できるのかは
疑問自体は残るところです。

また、他の分野の税務判例などについても、
民事の遡及効と税務上の権利確定や財産帰属時期の問題を
別のものとして評価すべきというものは結構あります。
例えば、民事上、時効で債権が消滅すれば、その債権が
行使できた時に遡って、その債権はなかったものとされますが、
税務上は、債権の消滅の効果が発生した時点で貸倒処理等を
行うという裁判例などです。

もちろん、裁判となれば借用概念等から同一に解すべきという
主張自体はできますし、一定の合理性はあるように思います。
(上記U R Lの東京地裁平成11年2月25日判決は、結論としては
贈与課税を認めてはいるものの、この見解に近いようにも思います。)

なお、明確な根拠は示されていませんが、
金子宏先生などは、生前贈与についての記載ですが、
申告期限前の合意解除であれば、贈与税の対象とならないという
見解も示されていますので、おそらく遺産分割の
やり直しに関しても、合意解除が認められる以上、
同様の見解のように思います。

税務訴訟などを扱う弁護士としては、
正直なところ、このような事案で贈与として更正されて
しまった場合に、今後の実務の指標になることや国の見解も
必ずしも正解ではない(反対の見解にもそれ相応の理由がある)
と考えますので、税務訴訟などで争いたいという思いは強いところですが、

国の考えが上記の通りで、こちらにもそれなりに合理的な
理由(財産の帰属が一度確定していること)があること
から、更正及び賦課決定されるリスクが高いことから、
再度の分割前(実行前)における先生のアドバイスとしては、
依頼者様に、贈与税及び附帯税のリスクなどを説明した上で
ご意思決定いただく他ないかと考えます。

よろしくお願い申し上げます。