お世話になります。
税理士の●●です。
法人譲渡契約の際に生じた債権についてご質問させてください。
法人譲渡契約書の内容
譲渡人:甲(丙の設立時の代表取締役)
譲受人:株式会社乙
譲渡法人:株式会社丙
設立時の資本金 2,000万円(400株)
㈱乙及び㈱丙が、幣所の顧問先となります。
今回の法人譲渡契約で、譲渡人甲より500万円で㈱乙が400株(100%)の株式を取得しています。
これにより、㈱乙が親会社、㈱丙が子会社の関係となりました。
㈱丙は、現在、設立一期目であり、元々、甲が売却する目的で設立した会社です。
設立して直ぐに人材派遣の許認可を取得し、その後、直ぐに㈱乙へ売却した形となります。
そこでご質問です。
㈱丙は、資本金2,000万円で設立していますが、その資本金2,000万円は、譲渡後の㈱丙のもとにはありません。
設立者である甲の手元にあります。
法人譲渡時の貸借対照表などについては、設立したばかりのため、存在しない。と言われて契約の際にもらえなかったそうです。
この2,000万円の法律上の考え方についてご教授いただけないでしょうか。
法人譲渡契約書上、以下の通り記載があります。
(資産、負債の承継)
第1章 第4条 本合意締結に伴って譲渡する丙の資産、負債は別段に定めのある場合を除き、存しない。
(承継する資産、負債等)
第1条 第1章第4条に関わらず、次の資産、負債等は承継される。
(1)甲が丙に対する貸付債権。ただし当該債権は乙に譲渡する。(債務については記載なし)
2 後日に債権債務の発生要因となると予測される契約は、第1章第1条記載の日までに解約する。ただし、前項記載の資産、負債等の承継に要する契約等は解約しない。
3 第1項記載の契約等の処分権限は、第1章第5条記載の役員変更の日以降、乙が有する。
私としては、2,000万円の処理は、元代表者甲への「役員賞与」又は「貸付金」として処理するのではないかと思っています。
希望としては、2,000万円を甲への貸付金として処理し、それを債権放棄(内容証明を送付)した上で、貸倒処理を行いたいと思っているのですが、この契約書上、2,000万円を貸付金と見れるのかがというのが気になります。
可能であれば、甲との間で貸付金であることの合意書のようなものを交わせたらいいのですが、甲の方は、そうすることで、甲自身の課税関係に影響があるため、あまり2,000万円の関係をはっきりはさせたくなさそうです。
ちなみに、甲は、以前も同様の法人譲渡を行っているのですが、
その際の税務申告では、25,000万円の株式を20,000万円で売却して、売却益500万円に対して分離課税で税務申告を行ったようで、今回もそうするつもりだそうです。
私としては、2,000万円の株式を500万円で売却したため、譲渡損1,500万円。
貸付金で債務免除であれば、2,000万円の一時所得となるのではないかと思っています。
今回、こちらの法人としては、2,000万円を処分して、その分の損失を減資しようと考えています。
上記のような契約における2,000万円の法律上の解釈についてアドバイスいただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>㈱丙は、資本金2,000万円で設立していますが、その資本金2,000万円は
>譲渡後の㈱丙のもとにはありません。
>設立者である甲の手元にあります。
>法人譲渡時の貸借対照表などについては、設立したばかりのため、存在しない。
>と言われて契約の際にもらえなかったそうです。
>この2,000万円の法律上の考え方についてご教授いただけないでしょうか。
>法人譲渡契約書上、以下の通り記載があります。
>(資産、負債の承継)
>第1章 第4条 本合意締結に伴って譲渡する丙の資産、負債は別段に定めのある場合を
>除き、存しない。
>(承継する資産、負債等)
>第1条 第1章第4条に関わらず、次の資産、負債等は承継される。
>(1)甲が丙に対する貸付債権。ただし当該債権は乙に譲渡する。(債務については記>載なし)
>2 後日に債権債務の発生要因となると予測される契約は、第1章第1条記載の日までに
>解約する。ただし、前項記載の資産、負債等の承継に要する契約等は解約しない。
>3 第1項記載の契約等の処分権限は、第1章第5条記載の役員変更の日以降、乙が有
>する。
>私としては、2,000万円の処理は、元代表者甲への「役員賞与」又は「貸付金」
>として処理するのではないかと思っています。
>希望としては、2,000万円を甲への貸付金として処理し、それを債権放棄(内容証明を送>付)した上で、貸倒処理を行いたいと思っているのですが、
>この契約書上、2,000万円を貸付金と見れるのかがというのが気になります。
2 回答
ご情報から判断するとおそらく甲及び乙の認識と行為が法的に
矛盾しているようなことを行っているように思います。
以下はいただいた状況から判断される法律関係の整理となります。
(1)2000万円の現状の法的整理
この丙の2000万円の譲渡前の状態は、
預金であれば設立時の個人の資本金の振込先口座に
残っている状態(丙の口座としてその口座を利用)か、
甲が丙の現金として管理している状態であったかと存じます。
しかし、契約締結時点で、丙に2000万円または2000万円の役員
貸付金が存在していないという契約になっているので、
上記の契約からすると、少なくとも契約締結前に、
丙から役員である甲に対して、役員賞与または貸付金の放棄
が既にされている状態であったと認定される可能性が高いです。
可能性が高いというのは、本来、放棄などは、丙がする行為ですが、
おそらく契約上は、株式の譲渡ですので、甲と乙間でなされて
いたものと推測されます。丙が入っていないため、直接的な証拠と
までは言えませんが、当時丙の代表及び株主であった甲がこのような
契約を締結されている以上、丙としてもその前提であったという
認定される可能性が高いという意味です。
つまりは、現時点で役員ではない者(甲)に対して、貸付金が生じて
おり、それを放棄するという整理をするのは、上記契約書を
前提にする法的な認定ですと難しいと思われます。
(役員貸付金を放棄して(しかも甲が2000万円保有)という
状況で、それを貸倒処理するのはなかなか難しいと思います。)
もちろん、今から全てを整理し直すという方法も現実的には
あると思いますが、一応、発覚すれば問題がある行為ではあります。
(2)本来甲及び丙が行いたかったと考えられる行為について
>ちなみに、甲は、以前も同様の法人譲渡を行っているのですが、
>その際の税務申告では、25,000万円の株式を20,000万円で売却して、売却益500万円
>に対して分離課税で税務申告を行ったようで、今回もそうするつもりだそうです。
>私としては、2,000万円の株式を500万円で売却したため、譲渡損1,500万円。
>貸付金で債務免除であれば、2,000万円の一時所得となるのではないかと思っています。
(1)を前提とすると、譲渡契約前の時点で2000万円は
そもそも放棄されていたということになりますので、
甲は乙に500万円の株式を500万円で売却し、
丙には2000万円について給与所得、法人は役員賞与認定
されるということになる可能性が高いでしょう。
甲の上記の認識を前提にすると
甲は、そもそも譲渡時点で2000万円の借入金債務を負担しており、
丙においては、役員貸付金2000万円が資産となっている状態で、
株式の譲渡の対価として、この2000万円の債務を乙が
甲から免責的引き受けるという契約内容にする必要があったものだと思われます。
(代物弁済として債務を免責的に承継)
つまり、譲渡後に丙の乙への貸付金が残る状態となります。
なお、今回の行為は、行為全体を捉えて、
許認可の資産要件を形式上クリアするために
資本金として計上し、すぐに財産を引き出す行為
とも評価される可能性があるため、許認可業法の潜脱目的に
よる行為とも評価され得ますので、監督官庁の今後の対応にもご注意ください。
よろしくお願い申し上げます。
いつもお世話になっております。
ご質問の回答ありがとうございました。
少し難しく感じてしまいましたので、もう少し詳しく教えて頂けないでしょうか。
>(1)2000万円の現状の法的整理
>しかし、契約締結時点で、丙に2000万円または2000万円の役員
>貸付金が存在していないという契約になっているので、
>上記の契約からすると、少なくとも契約締結前に、
>丙から役員である甲に対して、役員賞与または貸付金の放棄
>が既にされている状態であったと認定される可能性が高いです。
こちらについて、「少なくとも契約締結前に、丙から役員である甲に対して、役員賞与または貸付金の放棄が既にされている状態」
というのは、契約の条文から読み取れる部分がございましたら、どの部分か、教えて頂けないでしょうか。
>(2)本来甲及び丙が行いたかったと考えられる行為について
>(1)を前提とすると、譲渡契約前の時点で2000万円は
>そもそも放棄されていたということになりますので、
>甲は乙に500万円の株式を500万円で売却し、
>丙には2000万円について給与所得、法人は役員賞与認定
>されるということになる可能性が高いでしょう。
こちらについて、給与所得なのは、前代表者である甲ということでよろしかったでしょうか。
お手数をお掛けいたしますが、よろしくお願いいたします。
再度のご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①
>こちらについて、「少なくとも契約締結前に、丙から役員である甲に対して、
>役員賞与または貸付金の放棄が既にされている状態」
>というのは、契約の条文から読み取れる部分がございましたら、
>どの部分か、教えて頂けないでしょうか。
>(資産、負債の承継)
>第1章 第4条 本合意締結に伴って譲渡する丙の資産、負債は別段に定めのある場合を
>除き、存しない。
>(承継する資産、負債等)
>第1条 第1章第4条に関わらず、次の資産、負債等は承継される。
>(1)甲が丙に対する貸付債権。ただし当該債権は乙に譲渡する。(債務については記>載なし)
>2 後日に債権債務の発生要因となると予測される契約は、第1章第1条記載の日までに
>解約する。ただし、前項記載の資産、負債等の承継に要する契約等は解約しない。
>3 第1項記載の契約等の処分権限は、第1章第5条記載の役員変更の日以降、乙が有
>する。
まず、第1章第4条で、別段の定めがない限り、丙の資産及び負債はない。
別段の定めは、第1条1項の「甲が丙に対して有する貸付債権」のみ(実際にこれがある理由はわかりません)。
つまり、譲渡時点において、上記の丙の負債のみで、資産はないということですので、
「丙の預金」や「丙の甲に対する貸付金」はないということになるという
意味です。裏を返せば、少なくとも設立から譲渡までにの間に甲及び丙間で、
現金の贈与または役員貸付金の放棄があったということを基礎付けるということです。
もちろん、先生のご質問のご指摘の他に、
契約上の「別段に定める場合」がある場合やそもそも認識と異なる契約であり
整理し直す可能性を排除するものではありません。
あくまでもご指摘いただいた契約条項からの可能性で判断するとという意味です。
なお、一部の抜粋なので、わかりませんが、
世の中にはプロが作成していないものは、
事業譲渡の雛形の一部がなぜか株式譲渡に利用されていたり、
その逆もあるので、そのような契約書であるような気もします。
ご希望があれば無料面談をご利用ください。
2 ご質問②
>こちらについて、給与所得なのは、前代表者である甲ということで
>よろしかったでしょうか。
大変失礼しました。おっしゃる通りです。
よろしくお願い申し上げます。