いつも大変お世話になっております。
次の二点ご教示いただけますでしょうか。
➀ 相続税申告の際の債務控除の可否の判断の前提として、遺言による特定遺 贈と包括遺贈について
まず、法定相続人ではない甥A、姪Bがいます。
遺言については下記のように記載されています。
1.遺言者の居住土地についてはAに遺贈する。
2.ゆうちょ銀行の預金はBに遺贈する。
3.その他の財産はAにすべて遺贈する。
4。遺言者の負担すべき債務はAが負担する。
この場合、まず、Bについては特定遺贈となり、債務控除は不可となるかと思います。
一方Aについての判断です。
包括遺贈の定義は全部もしくは割合の指定と書かれていることが多いかと思いますが、
上記の記載ですが、割合の記載はないものの、その他の財産の遺贈の記載により、
包括遺贈と判断するのが正しいでしょうか?
それとも、一切の債務をAが負担することから包括遺贈と判断するのでしょうか?
また、被相続人の居住土地に関する債務がもし残っていた場合、
この部分については特定遺贈のような記載方法であることから、
債務控除はできないのでしょうか?
② 税理士法人が遺言書作成支援業務をすること、また、税理士法人として遺言執行業務を
行うことは可能なのでしょうか?
以上、どうぞよろしくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜Aへの遺贈は特定遺贈か包括遺贈か
>まず、法定相続人ではない甥A、姪Bがいます。
>遺言については下記のように記載されています。
>1.遺言者の居住土地についてはAに遺贈する。
>2.ゆうちょ銀行の預金はBに遺贈する。
>3.その他の財産はAにすべて遺贈する。
>4。遺言者の負担すべき債務はAが負担する。
>この場合、まず、Bについては特定遺贈となり、債務控除は不可となるかと思います。
>一方Aについての判断です。
>包括遺贈の定義は全部もしくは割合の指定と書かれていることが多いかと思いますが、
>上記の記載ですが、割合の記載はないものの、その他の財産の遺贈の記載により、
>包括遺贈と判断するのが正しいでしょうか?
>それとも、一切の債務をAが負担することから包括遺贈と判断するのでしょうか?
(1)前提について
先生からいただいた遺言は、以下のとおり、
100%包括遺贈か、特定遺贈かという点が
はっきりとなるわけではありませんので、一旦前提を整理したいと思います。
① 特定遺贈と解された場合
まずAへの遺贈が、特定遺贈と判断された場合、
Aの遺贈は、負担付特定遺贈と解されることとなると
考えられます。
遺言者の債務が、Aが取得する財産を
超えないということが前提となりますが、
Aが取得する財産は、
>4。遺言者の負担すべき債務はAが負担する。
という負担付で取得するということです。
税務上は、相続税基本通達11の2-7
によることとなります。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/01.htm
つまり、特定遺贈であっても、
Aが取得する相続財産の価値の範囲内の債務であれば、
>4。遺言者の負担すべき債務はAが負担する。
という点がなくなるわけではありません。
② 包括遺贈と解された場合
包括遺贈と解された場合には、債務については、
先生のご指摘のとおり、債務控除の整理となります。
(2)特定遺贈か包括遺贈か
1、2、3を見る限り、伝統的な民法の理解では、
特定遺贈と解するという前提がありました。
ただし、先生のご指摘のとおり、一部の特定財産を
除く包括遺贈なる概念を
東京地裁平成10年6月26日判決が認めたため、
特定遺贈と包括遺贈の線引きが曖昧なものとなっております。
遺言の解釈は、その文言のみでなく、その作成経緯や作成状況を
踏まえて判断するため、上記のような遺言を作成してしまうと
文言のみから厳密にどちらという判断をするかというのは、
裁判をやってみなければわからないという領域にはなって
しまっています。
上記の東京地裁平成10年6月26日判決も、
遺言作成に関与した弁護士の証人尋問やその他覚書
などの残っている資料を証拠として、
遺言者の作成時の遺言者の意思を認定して、包括遺贈と
判断した事例判断に過ぎません。
あえて文言の形式のみからみると、
>1.遺言者の居住土地についてはAに遺贈する。
>2.ゆうちょ銀行の預金はBに遺贈する。
>3.その他の財産はAにすべて遺贈する。
というのは、包括遺贈であれば、
============================
○ゆうちょ銀行の預金はBに遺贈する。
○その他の財産はAにすべて遺贈する。
============================
と記載すれば足りるところ、あえて居住土地を
Aに遺贈する旨を記載したのは、包括遺贈の趣旨では
ないという方向にながれる事実かと思いますが、
決定的なものではありません。
一方で、
============================
>4。遺言者の負担すべき債務はAが負担する。
============================
となっていることは包括遺贈の方向に流れる
事実かとも思いますが、
負担付特定遺贈というものも法律上、認められているため
こちらも決定的なものかというとそこまでではないかと思います。
結局のところ、文言だけから決定的にいずれか
という判断をするのは難しいところかと思います。
個人的には、税務申告の関係では、どちらで
判断しても、税務署も明確に判断できるわけでは
ないと思いますので、税額に差がでる事案?であれば、
依頼者への説明の上、意思決定してもらうという
ことで良いのではないかと思います。
なお、
>また、被相続人の居住土地に関する債務がもし残っていた場合、
>この部分については特定遺贈のような記載方法であることから、
>債務控除はできないのでしょうか?
特定遺贈であるとすると、債務控除としてではなく、
財産評価における負担として評価することとなります。
2 ご質問②〜税理士法人の業務について
>② 税理士法人が遺言書作成支援業務をすること、また、税理士法人として遺言執行業務を
>行うことは可能なのでしょうか?
ご質問の趣旨としては、個人の税理士で行える事項を
税理士「法人」で行えるのかという点かと思います。
本来は、税理士法人は定款に定めた目的の範囲内でしか、
業務を行うことができません。
そして、税理士法上、定款で定めることができる事項は、
以下になります。
=========================================
①税理士業務(税務代理、税務書類の作成、税務相談)
②税理士業務に付随して行う財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行
その他財務に関する業務(他の法律で制限されているものを除く)
③税理士業務に付随しないで行う財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行
その他財務に関する業務(他の法律で制限されているものを除く)
④補佐人事務の受託業務
=========================================
(1)遺言執行業務について
税理士業界一般としては、税理士法人で
受任しているケースも多いのではないかと思います。
(ネット上も可能という記事が多くあります。)
民法上は可能ですが、遺言執行者の業務は、
税理士法人の目的に含まれない業務が含まれるため、
就任することができないというのが、日税連の見解です
(税理士法人に関するQ&AーQ12参照)。
個人的にも厳密には、就任はできないのではないかと思います。
遺言執行者から上記に含まれる事項のみを受任することは
できると思います。
(2)遺言作成支援業務について
真正面からは上記の各業務に含まれないように思います。
ただし、遺言書作成支援サポートといっても、
税務を考慮したアドバイスということですと、
税務相談の一環だということも言えないわけでは
ないですし、「財務」の捉え方にも依存するので、
この辺りの厳密なところの線引きはなかなか難しいです。
税理士業界一般としては、税理士法人で
受任しているケースも多いのではないかと思います。
他の業法(弁護士法等)等に抵触しない行為の
範囲内であれば、お客様から指摘されない限り、
実際に問題となるケースがあまり想定できないので、
そのまま行われているという側面もあるかと思います。
よろしくお願い申し上げます。