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遺留分の計算について

永吉先生

お世話になります。

●●です。

遺留分の計算についてご教示ください。

≪概要≫

・被相続人:母A(夫は既に他界)。

・法定相続人:長女Bと長男の子C・Dの計3人(長男は数年前に他界)。

・Aの財産:自宅マンションの持分2/3(1/3は長女が所有、マンションの実勢価格
1800万円位)と、預金が少々。

・Aは単身で自宅マンションに居住し、相続人とは生計別。

・Aは平成10年に長男に現金2000万円を贈与していた(長男の住宅購入の資金)。

・長男は離婚、再婚し、死亡時の遺産は後妻がすべて相続した。

・長男の子C・Dは先妻の子であり、長男死亡時に遺産は殆ど取得していなかった。

・Aは、遺産はすべて長女Bに相続する旨の遺言書を作っていた。

≪相談1≫

代襲相続の場合、代襲相続人は被代襲相続人の地位を引き継ぐことから、被代襲者が
得た特別受益としての生前贈与は遺産分割の持ち戻しの対象になると思われますが、
本件のCとDの遺留分の額を計算するに当たり、平成10年のAから長男(CとDの父)
への2000万円の贈与は持ち戻しの対象になるでしょうか。

今朝の永吉先生のメルマガで『各相続人が得た財産額のうち、「各相続人が得た生前
贈与等の額」については、相続法改正後の民法によっても、10年の限定はされてい
ません。』という解説がありましたが、本件にも当てはまるのでしょうか。

≪相談2≫

仮に、相談1で長男への生前贈与2000万円が持ち戻しの対象となる場合、代襲相続人
であるCとDが、死亡した長男から財産を何ら相続していない場合にはどう考えればよ
いでしょうか。

財産を取得していなくても間接的に利益を享受していたとして持ち戻しの対象となる
のか、あるいは直接的に財産を取得していないので持ち戻しの対象にならないと考え
るのか、ご教示頂けましたら幸いです。

どうぞ宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>・被相続人:母A(夫は既に他界)。
>・法定相続人:長女Bと長男の子C・Dの計3人(長男は数年前に他界)。
>・Aの財産:自宅マンションの持分2/3(1/3は長女が所有、
>マンションの実勢価格
>1800万円位)と、預金が少々。
>・Aは単身で自宅マンションに居住し、相続人とは生計別。
>・Aは平成10年に長男に現金2000万円を贈与していた
>(長男の住宅購入の資金)。
>・長男は離婚、再婚し、死亡時の遺産は後妻がすべて相続した。
>・長男の子C・Dは先妻の子であり、長男死亡時に遺産は殆ど取得していな
>かった。
>・Aは、遺産はすべて長女Bに相続する旨の遺言書を作っていた。

>≪相談1≫
>代襲相続の場合、代襲相続人は被代襲相続人の地位を引き継ぐことから、
>被代襲者が得た特別受益としての生前贈与は遺産分割の持ち戻しの対象になる
>と思われますが、本件のCとDの遺留分の額を計算するに当たり、
>平成10年のAから長男(CとDの父)への2000万円の贈与は持ち戻しの対象に
>なるでしょうか。

>今朝の永吉先生のメルマガで『各相続人が得た財産額のうち、
>「各相続人が得た生前
>贈与等の額」については、相続法改正後の民法によっても、
>10年の限定はされてい
>ません。』という解説がありましたが、本件にも当てはまるのでしょうか。

>≪相談2≫

>仮に、相談1で長男への生前贈与2000万円が持ち戻しの対象となる場合、
>代襲相続人であるCとDが、死亡した長男から財産を何ら相続していない場合
>にはどう考えればよ
>いでしょうか。

>財産を取得していなくても間接的に利益を享受していたとして持ち戻しの
>対象となる
>のか、あるいは直接的に財産を取得していないので持ち戻しの対象になら
>ないと考えるのか、ご教示頂けましたら幸いです。

2 回答

結論的には、長男への平成10年の生前贈与が証拠上、
認められるのであれば、C及びDの遺留分侵害額請求は
認められないと考えて良い事案と考えます。

以下、理由をご確認ください。

(1)遺留分侵害額請求の計算

まず、私のメルマガについて、本メールの
末尾に転載しますので、そちらの遺留分「侵害」額の計算方法
を改めてご確認ください。

遺留分算定基礎財産への特別受益の持ち戻しの話は、
「(1)各相続人の具体的な遺留分額」の計算に関するものであり、

上記先生のご指摘の該当箇所は、「(2)各相続人が得た財産額」
の話で、それとは別の問題となります。
つまり、遺留分侵害額の計算の場合、2段階で考える必要があります。

まず、「(1)各相続人の具体的な遺留分額」についての
贈与持戻しは、原則として10年間に限定されますから、
いただいた事例を前提とするとC及びDの「合計の」遺留分額は、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(1)各相続人の具体的な遺留分額」=1,800万円×2/3×1/2(遺留分率)×法定相続分(1/2)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

=300万円となります(各々150万円づつ)。
※「預金が少々」という部分は割愛してますので、金額が分かれば
入れてご計算ください。

次に、遺留分侵害額(=遺留分侵害額請求ができる額)は、

「(1)各相続人の具体的な遺留分額」から「(2)各相続人が得た財産額」を
差し引いた金額となります。

そして、「(2)各相続人が得た財産額」には、
その相続人(遺留分侵害額請求をする者)
への民法903条1項の特別受益の金額(2000万円)が含まれます(民法1046条2項1号)。

(2)代襲相続人が財産を得ていない影響について

>仮に、相談1で長男への生前贈与2000万円が持ち戻しの対象となる場合、
>代襲相続人であるCとDが、死亡した長男から財産を何ら相続していない場合
>にはどう考えればよいでしょうか。

そして、903条第1項の解釈においては、
先生のご指摘のとおり、代襲相続人(C,D)の権利は、
被代襲者(長男)が取得すべきものに対するものであるから、
代襲相続人がその財産を取得したかを問わず
持ち戻しの対象となるとするのが実務の大勢です(大阪高裁平成27年3月24日等)。

なお、この点については、最高裁はないため、
少々この考え方と矛盾しそうな古い裁判例等は存在しますが、

特に今回のケースでは、本来の相続人である
被代襲者(長男)の意思(遺言の場合)または
C及びDも関与した長男の遺産分割でそのように
なされたのでしょうから、

それを理由に、長女Bが不利益を受ける理由は
ないものと思いますので、「(2)各相続人が得た財産額」
に2000万円の生前贈与が含まれると考えて良い事案でしょう。

つまり、C及びD合計の遺留分侵害額は、

「(1)各相続人の具体的な遺留分額」(300万円)ー「(2)各相続人が得た財産額」(2000万円)=ー1700万円=0
と考えて良いでしょう。

よろしくお願い申し上げます。

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さて、2019年7月1日に施行された相続法の改正から
約2年経ちました。

多くの改正がなされましたが、税理士の先生方にも
相続法の改正により、遺留分の算定に含まれる
推定相続人への生前贈与(特別受益)が、
原則として10年に限定されたという点が印象に
残っているのではないでしょうか。

遺留分侵害額の計算にあたっては、
各相続人の10年以内の贈与さえ考慮すれば
良いと考えられている先生も多いところでしょう。

しかし、遺留分侵害額の算定には、10年を超える
贈与も考慮する必要があることもありますので、相続対策を
する際には注意が必要です。

1 事例設定

まずは、論点を明確にするため簡単な事例設定をします。
事業承継などを想定します。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・遺言者:甲
・推定相続人:長男Aと次男B
・甲は自分の世話を家族ぐるみでしてくれいている
長男Aに多くの財産を残したい。
・一方で、兄弟が争うことを避けたいため、
遺留分相当額程度は、次男Bにも取得させたい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

というようなケースで、
10年前に長男Aと次男Bに対して、
それぞれ不動産を贈与しているケースでは、

10年前の贈与なので、遺留分対策において、これらの
贈与は一切考慮する必要はないかというところです。

1 遺留分侵害額の基本的な計算方法

遺留分侵害額の計算は、まずは各相続人の具体的な遺留分を
計算し、その遺留分相当額について各相続人が財産を得ているのか
を計算する者です。

つまり、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
遺留分侵害額=(1)各相続人の具体的な遺留分額-(2)各相続人が得た財産額
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
と表現できます。

2 10年限定はどこの部分の話なのか?

上記の(1)をより詳しく見ると
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)各相続人の具体的な遺留分額
=遺留分算定基礎財産の価額 ×遺留分率×法定相続分率
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
となります。
上記の事例ですと、「遺留分率=1/2」,「法定相続分率=1/2」です。

そして、10年の限定が入ったというのは、
「遺留分算定基礎財産の価額」についての問題です。

具体的には、遺留分算定基礎財産について、
従前相続人対する生前贈与(特別受益)は、判例法理により
無期限に算定基礎財産に加算されるものとされていましたが、
相続法の改正により、原則として10年間に限定されることと
なったのです。

つまり、上記の10年前に長男Aと次男Bに対する
不動産の贈与は、原則として、遺留分基礎財産の価額の算定については、
考慮されないということになります。

3 次男Bへの不動産の贈与について

一方で、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
遺留分侵害額=(1)各相続人の具体的な遺留分額-(2)各相続人が得た財産額
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

のうち、(2)各相続人が得た財産額の計算は、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(2)各相続人が得た財産額
=各相続人が相続・遺贈により得る財産額+各相続人が得た生前贈与等された財産額-各相続人の相続債務負担額
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
という算式によります。

次男Bの遺留分を侵害しないように
配慮する場合、(1)各相続人の具体的な遺留分額だけではなく、
遺言者(被相続人となる者)から次男Bが無償で得た財産の額も
考慮する必要があります。

そして、結論を申し上げるとこの(2)各相続人が得た財産額のうち、
「各相続人が得た生前贈与等の額」については、相続法改正後の
民法によっても、10年の限定はされていません。

つまり、(2)の計算に際しては、上記の10年前の次男Bに対する
不動産を贈与を考慮することになるのです。

4 まとめ

以上から分かるとおり、遺留分対策などの相続対策を
行う場合には、10年以上前の生前贈与であったとしても、
遺留分を侵害される可能性がある人物(次男B)への
生前贈与の有無を確認しなければ、どの程度財産を次男Bに
取得させれば良いのかという点については、明らかになりません。

遺言者の意思を尊重した対策を行うためには、
10年前の生前贈与であったとしても、確認をする必要
があるケースがあるということです。