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質問:相続させる旨の遺言に従わず遺産分割を行った場合

永吉先生

税理士の●●です。
いつもお世話になっております。

相続させる旨の遺言に従わず遺産分割を行った場合、
理論上の根拠は不明だが実務上は贈与扱いされることはない、
というご見解を過去にお示しいただきましたが、
このようなケースで課税庁が理論で押してきた場合に納税者・税理士がどう主張すべきか、
アドバイスをいただけないでしょうか。

相続人全員が(正式な手続によらない)相続放棄をして遺産分割協議を行ったと認識している、
タックスアンサーNo.4176と同趣旨である、
など考えてみましたが、理論で押されたときに対抗しきれるか、甚だ疑問です。

現在進行中の相続案件でこのような遺産分割を行おうとしており、否認を受けると相続税と贈与税で1,000万円程度の追徴が想定されます。
相続人には否認リスクをご説明済みですが、課税庁の主張になすすべなしという状況は避けたく思ってます。

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>相続させる旨の遺言に従わず遺産分割を行った場合、
>理論上の根拠は不明だが実務上は贈与扱いされることはない、
>というご見解を過去にお示しいただきましたが、
>このようなケースで課税庁が理論で押してきた場合に納税者・税理士がどう
>主張すべきか、
>アドバイスをいただけないでしょうか。

>相続人全員が(正式な手続によらない)相続放棄をして遺産分割協議を行っ
>たと認識している、タックスアンサーNo.4176と同趣旨である、
>など考えてみましたが、理論で押されたときに対抗しきれるか、甚だ疑問
>です。

>現在進行中の相続案件でこのような遺産分割を行おうとしており、
>否認を受けると相続税と贈与税で1,000万円程度の追徴が想定されます。
>相続人には否認リスクをご説明済みですが、課税庁の主張になすすべなし
>という状況は避けたく思ってます。

2 回答

先生がご指摘にいただいている見解については、
他の会員様に誤解ないように当メールの末尾に引用します。

末尾にも記載があるとおり、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)
と異なる遺産分割の場合、理論上は遺言により財産の帰属が確定
しているにも関わらず、その後に遺産分割で変動させることについて、
遺産分割のやり直し(遺産分割後の再度の遺産分割)と何が
違うのかという点は、純粋な「理論上」の根拠はないように思います。
(とはいえ、お客様に贈与税の申告をするようにというのも
税理士の先生としてはなかなか難しいと思います。)

>このようなケースで課税庁が理論で押してきた場合に納税者・税理士が
>どう主張すべきか、
>アドバイスをいただけないでしょうか。

私であれば、税務調査において、
以下の3つのポイントで反論します。

どれも確実な根拠となるとは言い難いですが、
税務訴訟でもそれなりに通用する理由だと思います。

(1)さいたま地裁平成14年2月7日判決について

===========================
民事上、遺言と異なる遺産分割が可能とした裁判例として
根拠として引用される判決です。

「特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には
・・省略・・直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。
しかしながら・・省略・・被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別・・省略・・一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが,このような遺産分割は,相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるし,その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。」

この判決文は、「当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能である」
としつつも、「その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認める」
としています。

そして、通常の遺産分割の効果とは、
===============================
(遺産の分割の効力)
民法第909条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。
~省略〜
===============================

とされています。

つまり、通常の遺産分割の効果と同様の取り扱いであるならば、
相続開始時より遺産分割の内容で各相続人に財産が帰属していた
扱いとなるわけですから、その効果として、贈与を観念することは
できない.

===========================
という主張です。

(2)遺産分割のやり直しとの違いについての主張(実質的な違い)

===========================
遺産分割のやり直し(遺産分割後の再度の遺産分割)は、
同一の相続人が再度同じ手続きをやり直しますので、
それを何度も認めると恣意性が高いものとなり、
相続人が自由にいつまでも財産の帰属を変更
できることになってしまい租税公平主義と反する結果となり
うるものである一方、

遺言と異なる遺産分割に関しては、
遺言は相続人らが決定する事項ではなく、その後、
一回のみ税負担をする相続人らが、遺産分割で、
財産の帰属を確定させる行為に過ぎないため、
上記のような弊害はない。
===========================

という主張です。

(3)タックスアンサーNo.4176について

文末の以前の回答のとおり、
タックスアンサーNo.4176
について、論理上は先生と私も同じ意見ではあります。

タックスアンサーでは、
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4176.htm
「受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、
共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。」

とされています。特定遺贈は法的に放棄できる一方で、
相続させる旨の遺言は相続放棄以外で法的に放棄できないと
解されていますが、

===========================
タックスアンサーの場面を想定すると、
「遺贈」と異なる遺産分割をすれば、それは事実上
ではなく、法律上特定遺贈を放棄しているという表現で
良いはずです。

あえて、「事実上」としている趣旨は、
法的な意味を持つ、放棄か否かを想定しているわけではなく、
遺言と異なる1回目の遺産分割であれば、
贈与税を課税をしないという判断を示すものであり、

特定遺贈と相続させる旨の遺言を区別して判断を
示しているわけではない。

「相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書」という
表現を用いているのもその趣旨である。
===========================
という主張かと思います。

実際のところ、国税OBの方の書籍等では、
他の場面においても、
相続させる旨の遺言と特定遺贈を同様のものとして、
違うものと捉えていないのではないか?という
記述が多いので、実際このタックスアンサーは
「遺贈」という言葉をあまり考慮せずに
利用しただけに過ぎないのではないかとも
個人的に思います。

よろしくお願い申し上げます。