お世話になります。
税理士の●●です。
初歩的な質問で大変恐縮ですが、遺留分算定のための特別受益の持ち戻しが令和元年の
民法改正で10年間に限定されましたが、相続時精算課税贈与についても同様と考えて
よろしいのでしょうか。
例えば、非上場会社株式を相続時精算課税贈与で社長の子供(相続人)に贈与
した場合、10年経てば遺留分算定のための特別受益から除外されるのでしょうか。
また、仮に社長の孫が相続時精算課税贈与を受けた場合には、持ち戻し期間は1年と
なりますが、「贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与」
に該当する可能性はどの程度あるものでしょうか。
判断のポイントや留意点等お教えいただけますと幸いです。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜遺留分算定基礎財産と相続時精算課税贈与
>遺留分算定のための特別受益の持ち戻しが令和元年の
>民法改正で10年間に限定されましたが、相続時精算課税贈与についても
>同様と考えてよろしいのでしょうか。
>例えば、非上場会社株式を相続時精算課税贈与で社長の子供(相続人)に贈>与した場合、10年経てば遺留分算定のための特別受益から除外されるので
>しょうか。
はい。相続時精算課税を利用した生前贈与も、
民法上は通常の贈与と異なりませんので、
10年経過すれば、除外されるという理解で間違いございません。
なお、この場合にも、以下の
「事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」
に該当する場合には、例外的に10年経過していても、除外されませのでご注意ください。
(民法1044条3項、1044条1項)
また、相続時精算課税との関係の注意点としては、
10年以内に相続が発生した場合には、
税務上は贈与時の評価額となりますが、遺留分算定基礎財産に
おける評価は、相続発生時となります。
2 ご質問②〜期間の例外について
>また、仮に社長の孫が相続時精算課税贈与を受けた場合には、
>持ち戻し期間は1年となりますが、
>「贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与」
>に該当する可能性はどの程度あるものでしょうか。
かなり古い判例でありますが、現状でも、
大審院昭和判決11年6月17日が実務の基準
となっています。
この判例は、
==========================
①当事者双方(贈与者及び受贈者)が贈与当時、
贈与財産の価額が残存財産の価額を超えることを知り、
かつ、
②将来相続開始までに被相続人の財産に何らの変動も
ないであろうこと、少なくともその増加がないであろ
うことを予見していた
==========================
といえる場合とされています。
上記①及び②に該当する具体的な事実としては、
「贈与財産の全財産に対する割合だけではなく、
贈与の時期、贈与者の年齢、健康状態、職業などから
将来財産が増加する可能性が少ないことを認識してなされた
贈与であるか否かによるものと解すべき」とされています。
上記判例からすると、実務上、この例外に
該当する場合は、
例えば、病気の場合、かなりの高齢の場合、年金生活で、
将来財産が増加する見込みがない
ような状況ですとこれに該当することになります。
一方で、年齢等にもよりますが、
株式を孫に贈与するが、今後も
代表としては残り、役員報酬をもらい続ける
という事情や収益不動産があり収入がある等の事情があれば、
上記例外に該当する可能性はかなり低いと思います。
事実認定と評価の問題になるため、確実である
とまでは言えませんが、例外の要件としては、
実務上は請求する側にとって厳しめになります。