相続 株式 会社法 その他

上場会社株式の自己株式取得手続きについて

永吉先生

【前提】
・当該上場会社オーナー(現社長)が亡くなった時に、相続人の方が当該上場会社に
自己株式を取得してもらう予定
・自己株式を取得してもらう意図は相続税の納税資金が足りなかったときのためなの
で、何株取得してもらいたいかは相続時に決める
・当該上場会社定款に「会社法第165条2項の規定により、取締役会の決議をもって、
自己株式を取得することができる旨」が記載されている
・相続人の方は現役員と会社に関係ない方(役員でも従業員でもない)の2名

【質問】
会社法第165条2項の規定により取締役会の決議をもって自己株式を取得することがで
きる旨が定款に記載されていれば、
特定の株主から当該上場会社が買い取ることについて、取締役会のみで完結するので
しょうか。(例外なく株主総会は必要ないのでしょうか)

また、取締役会で完結する場合、当該上場会社の取締役の過半数が出席し、その出席
取締役の過半数で決議されるのでしょうか。

よろしくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜会社法165条第2項による自己株式の取得について

>会社法第165条2項の規定により取締役会の決議をもって自己株式を取得することがで
>きる旨が定款に記載されていれば、
>特定の株主から当該上場会社が買い取ることについて、
>取締役会のみで完結するのでしょうか。(例外なく株主総会は必要ないのでしょうか)

そうですね。財源規制(分配可能額の範囲)等は当然ありますが、
株主総会ではなく取締役会の決定で株式を買い取ることができます。

ただし、会社法165条第2項による取得は、
「市場において行う取引または金融商品取引法第27条の2第6項に規定する
公開買付けに方法」(「市場取引等」)による取得の場合に限定されます。

基本的には「市場において行う取引」として、取得することに
なるでしょうが、この取引は抽象的には
「特定の取引システムにより、すべての株主に売却の機会があり、
取得価格も公正に形成されている方法」である必要があると言われています。

実務的な例としては、疑義があると言われるものも
ありますが、オークション市場による単純買付けによる方法,
事前公表型による方法(オークション市場における買付け,
終値取引(ToSTNeT-2)による買付け,自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による
買付け)が挙げられます。

https://www.jpx.co.jp/equities/trading/tostnet/01.html

単なる特定株主との個別合意で可能という認識だとすると
少々違うかと思います。

つまりは、特定の株主を指定するというよりは、
会社としては、自己株式を取得する機会を
株主に与えて、その申込者の1人として、
相続人が申し込んだというだけというイメージになります。

2 ご質問②〜取締役会について

>また、取締役会で完結する場合、当該上場会社の取締役の過半数が出席し、その出席
>取締役の過半数で決議されるのでしょうか。

そうですね。決議要件自体は、
定款の別段の定めがあれば別ですが、通常の取締役会と同様になります。

なお、
>・当該上場会社オーナー(現社長)が亡くなった時に、相続人の方が当該上場会社に
>自己株式を取得してもらう予定
>・自己株式を取得してもらう意図は相続税の納税資金が足りなかったときのためなの
>で、何株取得してもらいたいかは相続時に決める

とのことですが、あくまでも、
上記制度は、
会社の取締役会の決定に依存するものですので、
相続人から請求できるものではない点はご留意
された方が良いかと存じます。
(上場企業の場合、株価への影響等を考慮して、
この決定が事実上できないという場合もあります。)

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生

下記の件、恐縮ですが追加で質問させて頂ければと思います。

質問1
特定株主の株式のみを上場会社に自己株取得してもらう場合、株主総会の特別決議以外に方法はございませんでしょうか。
(上場会社の種類株式導入はハードルが高いとお聞きしたので、種類株式以外で何か方法があればご教示いただきたく)

質問2
上場会社が、特定株主の株式のみ自己株式を取得する際、その価格はどのように決定されるのでしょうか。

●●先生

追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜上場会社において特定の株主から自己株式を取得する方法

>特定株主の株式のみを上場会社に自己株取得してもらう場合、株主総会の特
>別決議以外に方法はございませんでしょうか。
>(上場会社の種類株式導入はハードルが高いとお聞きしたので、
>種類株式以外で何か方法があればご教示いただきたく)

そうですね。前回のご質問から上場企業で
「市場取引等」を利用しないということですと、株主総会の特別決議が
必要となります(160条第1項)。

なお、市場価格を超えない取得の場合は、他の株主に売主追加
請求権を認める必要はありません(会社法161条)。
(市場価格を超える取得の場合には、他の株主にも売却の機会を与える
必要があります。)

2 ご質問②〜価格について

>上場会社が、特定株主の株式のみ自己株式を取得する際、その価格は
>どのように決定されるのでしょうか。

先生のご指摘のような他の株主に売却の機会を与えない方法
ということですと、「市場価格」を超えない必要があります。
具体的に市場価格は、以下のいずれか高い額となります。

・株主総会決議の前日における市場に最終価格
・公開買付けの対象であるときは、その日における当該公開買付けに係る契約における当該株式の価格

3 その他

そもそも論で恐縮ですが

>・自己株式を取得してもらう意図は相続税の納税資金が
>足りなかったときのためなので、何株取得してもらいたいかは
>相続時に決める

という納税資金対策ということで、
上場企業ということですと、普通に市場で取引する方法
ではまずいのでしょうか?

確かに自己株式の取得の方が、薄まる議決権等は相対的に
低くすみますが、このあたりを気にしているということであれば、
会社の法務周りとの調整は欠かせません。

上場企業であれば顧問弁護士等いらっしゃるでしょうから、
具体的な会社側の状況を踏まえた上で、協議の上、対策を
進められた方が良いと存じます。

上場企業の場合、
証券取引所対応や金商法対応などが特殊な対応が
必要になることもあるかと存じますので、具体的にその企業を
把握している法律家と連携も踏まえて行う必要があるかと存じます。

よろしくお願い申し上げます。