役員報酬 株式 会社法

役員報酬及び賞与の支給決定決議について、総額決議は毎期必要なのか?

永吉先生

いつもお世話になりありがとうございます。
●●と申します。

以下、質問をさせて頂きます。

(前提)
○ 法人Aは株主に従業員持株会があります。

○ 従業員持株会を設立し、持株会が株主になったのは平成28年からとなります。

○ 法人Aの社長はとても気にする性格で、自身の役員報酬について
株主総会の議題に出来れば挙げたくないと考えています。

○ 法人Aは平成26年の従業員持株会が株主になる前の定時株主総会において、
役員報酬の支給総額について総額(枠取り)の決議をしています。

○ 法人Aは令和3年の7月及び12月において事前確定届出による役員賞与の
支給を検討しています。

(質問)
○ ネットなどの情報を確認すると、過去の株主総会において役員報酬の
総額について決議をしていれば、その後に毎年総額の決議をする必要はないと
説明があります。

その場合、平成26年の定時総会にて総額の決議をしていますので、平成28年に
新たに株主となった従業員持株会が参加する株主総会においても、報酬の総額を
超える役員報酬を支給しない限り、株主総会にて報酬の決議をする必要はない
という事になるのでしょうか。

○ 次に、会社法の361条においては、「取締役の報酬、賞与その他の~」と、
賞与について報酬とは別に賞与という言葉を用いて条文に記載があります。

ある司法書士に確認したところ、報酬と賞与は別の区分となるので、株主総会で
総額の枠取りの決議をするときは、報酬及び賞与という文言で支給額の総額を
決定する必要があると説明されました。

私は、361条に記載がある、報酬等として会社から役員に支給する財産上の利益
は報酬も賞与及び退職金も報酬等として含まれているので、今回、事前確定届出
により役員賞与を支給しますが、平成26年の定時総会で報酬及び賞与(事前確定)
の合計を上回る報酬総額を決議しているので、賞与部分としての総額決議(枠取り)
について、令和3年の定時株主総会で改めて決議する必要はないと理解していま
すが,間違っていますでしょうか。

○ 最後の質問です。法人Aは役員報酬の総額決議を平成26年の定時株主総会にて
決議していますが、その際に各人への月額報酬の決定は取締役会へ一任して
います。

この取締役会への一任決議も、平成26年の総会で決定をしていると、
総額を超える役員報酬を支給しない限りは、取締役会に一任する事自体の
決議も毎期必要ないことになるのでしょうか。

ちなみに、総額については株主総会にて決定しているが、取締役会へ一任すると
いう記載が議事録にない場合、総額だけを決議していれば、一般的には取締役会へ
一任する事が多いため、一任するという文言が議事録になくても、株主は各人への
報酬額の決定は取締役会へ一任していると評価することはできますでしょうか。

※ 他社の議事録では、総額だけを決定し、取締役会に一任するという文言が
議事録にない場合もありました。この場合は、やはり株主総会で各人の支給
額を決定しなければいけない事になるのかを疑問に思いました。

お手数をお掛けいたしますが
宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜役員報酬の総額決議について

>ネットなどの情報を確認すると、過去の株主総会において役員報酬の
>総額について決議をしていれば、その後に毎年総額の決議をする必要はないと
>説明があります。
>その場合、平成26年の定時総会にて総額の決議をしていますので、平成28年に
>新たに株主となった従業員持株会が参加する株主総会においても、報酬の総額を
>超える役員報酬を支給しない限り、株主総会にて報酬の決議をする必要はない
>という事になるのでしょうか。

そうですね。基本的には総額(枠取り)の決議後に
新たな人物が株主となったからとって、改めて
総額について決議する必要があるわけではありません。

例外があるとすれば、
当時の総額株主総会決議の趣旨が、
「新たな株主が追加されるまでは」や「その期については」
等の限定が付されたものであるとの立証がされる場合
となりますが、通常はそのような立証はできないでしょう。

2 ご質問②〜報酬と賞与の違い〜

>次に、会社法の361条においては、「取締役の報酬、賞与その他の~」と、
>賞与について報酬とは別に賞与という言葉を用いて条文に記載があります。
>ある司法書士に確認したところ、報酬と賞与は別の区分となるので、株主総会で
>総額の枠取りの決議をするときは、報酬及び賞与という文言で支給額の総額を
>決定する必要があると説明されました。

>私は、361条に記載がある、報酬等として会社から役員に支給する財産上の利益
>は報酬も賞与及び退職金も報酬等として含まれているので、今回、事前確定届出
>により役員賞与を支給しますが、平成26年の定時総会で報酬及び賞与(事前確定)
>の合計を上回る報酬総額を決議しているので、賞与部分としての総額決議(枠取り)
>について、令和3年の定時株主総会で改めて決議する必要はないと理解していま
>すが,間違っていますでしょうか。

そうですね。これも当時の個別の株主総会の趣旨
解釈の問題となりますが、

会社法361条の趣旨がお手盛りの防止にあり、
総額の枠内で支給がされている以上、
その金額(報酬であろうが、賞与であろうが)に
株主は納得していたというわけですから、

形式的に「報酬」と「賞与」と表現が異なるからといって、
裁判所がその支給を無効とするかというと、先生のご見解のとおり、
しないものと考えます。

もちろん、極論すれば、個別の株主総会決議の趣旨解釈の問題
となるので、司法書士さんのご見解も「完全に」安全
なアドバイスをするという趣旨であればこのようなアドバイスを
する意味はわかります。

3 ご質問③〜決議の委任について

>最後の質問です。法人Aは役員報酬の総額決議を平成26年の定時株主総会にて
>決議していますが、その際に各人への月額報酬の決定は取締役会へ一任して
>います。
>この取締役会への一任決議も、平成26年の総会で決定をしていると、
>総額を超える役員報酬を支給しない限りは、取締役会に一任する事自体の
>決議も毎期必要ないことになるのでしょうか。

そうですね。「4 その他」とも関連しますが、
会社法上、本来は各人の役員報酬については、株主総会で
決定することとされていますが、総額(枠取り)を株主総会で
決定した上で、他の機関に委任することができるかという点が
法律上の問題であり、判例により是認されているものとなります。

ですので、この点については、ご質問①と同様になります。

4 その他

>ちなみに、総額については株主総会にて決定しているが、取締役会へ一任すると
>いう記載が議事録にない場合、総額だけを決議していれば、一般的には取締役会へ
>一任する事が多いため、一任するという文言が議事録になくても、株主は各人への
>報酬額の決定は取締役会へ一任していると評価することはできますでしょうか。

>※ 他社の議事録では、総額だけを決定し、取締役会に一任するという文言が
>議事録にない場合もありました。この場合は、やはり株主総会で各人の支給
>額を決定しなければいけない事になるのかを疑問に思いました。

上述の通りですので、総額(枠取り)を定める場合には、
各人の報酬額の決定をどの機関に委ねるのかまで記載することが必要になります。

ただ、議事録はあくまでも総会後の記録に過ぎず、単なる記載もれ
である場合もありますし、その当時の株主の想定が総額を定めたという
ことは各人の報酬額の決定を取締役会に委任した趣旨であると認定される
可能性は比較的高いでしょうね。その後、毎期そのような運用がなされて
いる等の事情があれば尚更です。

この辺りは、個別事情からの推認となるので、はっきりとどちらが
という問題ではないので、その後の紛争を防ぐために
しっかりと議事録に残すことが重要ではあります。

5 まとめ

以上の通りですので、いただいた事情から判断すると、
先生のご想定とおり、平成26年の定時総会にて総額(枠取り)
の決議でこと足りるものと思います。

ただ、あくまでも個別の株主総会の趣旨解釈の問題
となり、純粋な論理だけではない部分も残りますから、

実際の対応としては、

>○ 法人Aの社長はとても気にする性格で、自身の役員報酬について
>株主総会の議題に出来れば挙げたくないと考えています。

この社長の気持ちをどこまで考慮するかでしょう。

他に株主がいるということはその株主が役員報酬を知る
方法自体はありますし、そもそも従業員持株会を設立するという
意思決定をした時点で、このような不利益?が伴うことは
当然といえば当然のことではありますので、
どこまで重視したいのかという点に依存するかと思います。

よろしくお願い申し上げます。