不動産 民法 借地借家法

賃貸物件の引き渡し遅延について

永吉先生

お世話になります。
大阪の●●と申します。

以下の案件についてご教授ください。

【前提】
①近々引き渡し予定の物件(店舗)があり、
一部解体工事を貸主負担で行っていた。

②解体工事をする中でアスベストがあることが分かり
引き渡しが2,3か月は遅れる旨の連絡あり。

③7月オープン予定で人員確保をすでに行っていた。

④7月オープンに向けて、6月末で既存店舗を1店舗解約の連絡を済ませていた。

⑤こちら側の工事業者から工事の延期による損害を求められる可能性あり。

【質問】
引き渡し遅延による損害はどの程度求めることができるのか。
(④については、9月末まで解約を伸ばすことで承諾を得ることができている)

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>【前提】
>①近々引き渡し予定の物件(店舗)があり、
>一部解体工事を貸主負担で行っていた。
>②解体工事をする中でアスベストがあることが分かり
>引き渡しが2,3か月は遅れる旨の連絡あり。
>③7月オープン予定で人員確保をすでに行っていた。
>④7月オープンに向けて、6月末で既存店舗を1店舗解約の連絡を済ませていた。
>⑤こちら側の工事業者から工事の延期による損害を求められる可能性あり。
>【質問】
>引き渡し遅延による損害はどの程度求めることができるのか。
>(④については、9月末まで解約を伸ばすことで承諾を得ることができている)

2 回答

法的な話をした後に、現実的な対応について回答します。
少々、長文となりますがご容赦ください。

(1)法的な損害賠償請求について

まず、貸主との契約について特殊な契約が
(引き渡し遅延による賠償責任を負わない。その他金額を制限する等)
ない限り、いただいた事情から想定できるものとして、以下の「損害」が想定されます。

①新規店舗を予定通りにオープンできないことの逸失利益(営業利益相当額)
②新規店舗の人員確保による損害(人件費相当額)
③工事業者からの工事延期による損害賠償請求相当額

ただし、厳密に裁判等で損害賠償請求が認められるためには、
これらの損害と貸主の引き渡し遅延の間に法的に「因果関係」がある
評価される必要があります。

例えば、交通事故により怪我を負った等であるといわゆる通常損害
として、明確に因果関係が認められますが、上記の損害は、一定程度
間接的な損害であるため、特別損害として、
貸主が予見していたまたはすべき損害と評価できる必要があります。

① 新規店舗を予定通りオープンできないことの逸失利益(営業利益相当額)

こちらについては、貸主が店舗として利用すること
を知っていたでしょうから、貸主が予見すべき損害と評価できるでしょう。

一方で、解約予定だった
>9月末まで解約を伸ばすことで承諾を得ることができている

ということで、厳密には、新規店舗と解約店舗の営業利益の「差」
が損害とされることもなります。

ただ、解約店舗の延長があったことなどについては、
実際に先方が現在知っているのか
裁判などになった場合に貸主に開示せざるを得ない状況などになるか等
裁判官の性格や弁護士の訴訟技術的な要素が絡んでくるところになりますね。

② 新規店舗の人員確保による損害(人件費相当額)

こちらについても、店舗利用のために人員確保をしていること
自体は、貸主が予見すべき損害と評価できる可能性は高いです。

一方で、上記とも関連しますが、解約店舗の延長ができたことで、
その人材を解約店舗の要員として利用することで人件費が無駄に
ならない場合や他の店舗の要員として人件費が無駄にならなかった
というような個別事情により、その全額が損害として認められるかの
判断は変わってきます。

③ 工事業者からの工事延期による損害賠償請求相当額

こちらについては、こちら側の工事業者の工事遅延の
損害賠償が、借主が法的に負うものなのかによることになります。

仮に、工事業者に工事遅延による「損害」が実際にあっても、
なくても、借主と工事業者の契約内容で損害額が決められている等の
場合、それをこちらの工事業者と直接の契約関係にない貸主が
予見できたか否かが争点になります。

この辺りは、何を根拠にこちら側の工事業者が損害賠償をしてくるのか、
その根拠に法的な理由があるものなのかなどに依存する問題となります。

(2)現実的な対応

上記のとおり、損害賠償というのは、
実際の裁判等では一律に決まるようなものではなく、
個別事情にも依存する上、やってみなければわからない部分が
多く含まれるものです。
(なので、裁判等までして争いになるわけですが)

裁判になっても、多くのケースでは、判決までいかず和解で
終わるケースが多いです。

現状の対応としては、

①、②及び③について、予測計算をした上で、
(この場合、一旦は、上記の解約予定の店舗が延長できたこと
や人材を転用できるのか等細かい部分は無視して良いと思います。)

その数字を前提に貸主と交渉することになるかと思います。

貸主との交渉を経て、貸主が負担するという金額が、お客様に
とって、満足できる金額なのか等によって、

コストなども勘案した上で、
次のステージ(法的な裁判手続きなど)に移行するかを
意思決定していくことになるでしょう。

よろしくお願い申し上げます。