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遺言執行者に税理士がなるかどうかと仕事に内容について

永吉先生、いつもありがとうございます。
●●です。

遺言執行者に自分がなるかどうかと仕事に内容について教えてください。

1.遺言執行者に自分がなるかどうか

私は今まで遺言書の証人にはなったことはありますが、
遺言執行者になったことはないです。
税理士が遺言執行者になることは実務的に多いのでしょうか?
私の経験上、相続人か司法書士か弁護士さんでした。
遺言執行者になったときのリスクを教えてください。

2.遺言執行者の主な仕事を教えてください。

①遺言執行者に就任したことを相続人、受遺者に通知する必要は必ずある
のでしょうか?その方法は書面などでする必要はあるのでしょうか?

②相続人全員に財産目録を作成し、開示する義務があるのでしょうか?
つまり、遺言執行者は解約手続きや名義変更の手続きをすることであって
遺言書通り執行すればことは足りると思いますが、
仮に遺言書に財産を取得する旨のない相続人にもすべての財産目録と遺言書の開示、
仮にA預金のみ相続する旨の相続人にもA預金のみでなく、すべての財産目録と
遺言書の開示が必要であって、
もめたり、遺留分減殺請求をするかどうかの判断をするため、どのみち全財産の
開示を求められることはあるので、一部開示ではことは足りないかもしれませんが、
自分が取得する部分のみ開示ではだめだということでしょうか?
もめていても遺言執行者は財産目録を作成し、相手に開示する必要があるのでしょうか?
開示しないことによるリスクはありますでしょうか?
業務報告の任務が完了したら、相続人と受遺者全員に完了報告を行うとありますが、
もめているところは実務的には省略しているということでしょうか?
下記に参考資料を記載しましたが、2019年以降の改正後は、
通知が義務化されたのでしなければならないことになったということでしょうか?

③相続税がかかる場合は、相続税の申告をすることになり、
すべてを見ることは相続人や受遺者の権利ということになりますでしょうか?
つまり相続税申告書のすべてをすべての相続人、受遺者に見せる必要はあるのでしょうか?
例えば、生命保険をもらっていた場合の9表や死亡退職金をもらっていた場合の10表
や3年以内贈与加算14表など一部を見せないということは不可能でしょうか?

改正ポイント

2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(以下「改正相続法」)が公布され、
2019年7月より施行されています。
高齢化社会の中における相続時のトラブル増加を背景に、改正相続法には「遺言制度の利用促進」や
「紛争を防止」といったねらいがあります。
遺言執行者についても改正されている点がありますのでご紹介します。

7-1 遺言執行者の法的地位が明確に
遺言執行者の法的地位が明確になりました。
改正前は、遺言執行者の法的地位は明確に条文に記載がなかったため、
相続人とのトラブルに発展するケースがありました。
改正相続法では条文に“遺言の内容を実現するため”の文言が追加され、
遺言執行者は遺言内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有することが明確になりました(民法第1012条)。
つまり、遺言執行者は相続人の利益のためではなく、遺言内容の実現のための任務を行うこととなります。

7-2 遺言の執行の妨害行為があった場合
遺言執行者がある場合には、
相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法第1013条)。
改正相続法には、この規定に違反した行為を無効とするという項目が追加されました。

7-3 通知が義務に
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならないことが明記されました(民法1007条)。
改正前は、この通知義務がなかったため、
相続人に知らされずに遺言の執行が行われるといったことがあり、トラブルに発展するケースがありました。

7-4 特定財産継承遺言がされた場合の遺言執行者の権限が明確に
「特定財産継承遺言」とは、いわゆる遺言者が「相続させる」旨を明示した遺言のことです。
改正相続法では、この特定財産承継遺言がされた場合の遺言執行者の権限について明確にしました。(民法1014条)
●不動産を相続人に相続させる旨の遺言あった場合
不動産を目的とした特定財産継承遺言があった場合、
遺言執行者は相続による登記申請を単独で申請できるようになりました。
●預貯金の払い戻し・解約について
被相続人の預金の払い戻しや解約手続きについて、
遺言執行者が執行できる旨の権限が明記されました。

8 遺言内容と相続人の意思とが異なる場合
遺言内容と相続人等の意思や利害が対立するケースがあります。このようなケースはどうしたらよいでしょうか?
遺言と異なる遺産分割を希望する場合、相続人や受遺者の全員が合意を行えば可能です。
ただし、遺言執行者がある場合は、その合意だけでは実行することはできません。
さらに遺言執行者の同意が必要となります。
なお、遺言内容の有効無効の判断は、遺言執行者に権限と義務があります。
改正ポイントでも触れたとおり、遺言執行者がある場合、
相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができないことになっていますので注意が必要です。
遺言内容と相続人等の意思や利害が対立するような場合は、
相続人と受遺者の全員が合意をした上で、最終的に遺言執行者に同意をしてもらえるよう話し合いを行いましょう。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜税理士が遺言執行者になること

>1.遺言執行者に自分がなるかどうか
>私は今まで遺言書の証人にはなったことはありますが、
>遺言執行者になったことはないです。
>税理士が遺言執行者になることは実務的に多いのでしょうか?
>私の経験上、相続人か司法書士か弁護士さんでした。
>遺言執行者になったときのリスクを教えてください。

確かに司法書士さんや弁護士が多いようには
思いますが、税理士さんがなられているケースもありますね。

遺言執行者のリスクとしては、しっかりと業務を執行しない
と善管注意義務違反等を問われることでしょうか。

遺言の内容にもよりますが、複雑なものですと
単純に執行に手間がかかるので、慣れていないのに
行うとコストが高いということはあるかもしれませんね。

2 ご質問②〜遺言執行者の仕事について

>①遺言執行者に就任したことを相続人、受遺者に通知する必要は必ずある
>のでしょうか?その方法は書面などでする必要はあるのでしょうか?

そうですね。民法1007条2項で通知する義務があります。
その場合、専門家が行う場合には証拠を残すために書面で行います。

なお、相続人の誰かが執行者となる場合には、
これをしないで進めてしまうケースも多いです。

ただ、専門家として携わる以上、しないことはないかと思います。

>②相続人全員に財産目録を作成し、開示する義務があるのでしょうか?
>つまり、遺言執行者は解約手続きや名義変更の手続きをすることであって
>遺言書通り執行すればことは足りると思いますが、
>仮に遺言書に財産を取得する旨のない相続人にもすべての財産目録と遺言書の開示、
>仮にA預金のみ相続する旨の相続人にもA預金のみでなく、すべての財産目録と
>遺言書の開示が必要であって、
>もめたり、遺留分減殺請求をするかどうかの判断をするため、どのみち全財産の
>開示を求められることはあるので、一部開示ではことは足りないかもしれませんが、
>自分が取得する部分のみ開示ではだめだということでしょうか?

>もめていても遺言執行者は財産目録を作成し、相手に開示する必要があるのでしょうか?
>開示しないことによるリスクはありますでしょうか?
>業務報告の任務が完了したら、相続人と受遺者全員に完了報告を行うとありますが、
>もめているところは実務的には省略しているということでしょうか?
>下記に参考資料を記載しましたが、2019年以降の改正後は、
>通知が義務化されたのでしなければならないことになったということでしょうか?

そうですね。
遺言執行者は、全相続人の代理人的な立ち位置になりますので、
中立に義務を履行する必要があります。
相続人全員に対して、基本的に遺言の対象となっている全財産について目録を作成し、
開示する義務がありますね。
(例えば、遺言の内容が「A不動産を遺贈する」だけで他の財産については
一切書かれていない場合には、A不動産だけで足りますが、専門家を遺言執行者
にするケースではまずないでしょう。)

例えば、弁護士であれば、遺言執行者でありながら、特定の
相続人に紛争等のアドバイスをすれば利益相反で弁護士法違反となります。

ですので、遺言者の遺言が遺留分を害する内容で、遺言者が生前から
特定の相続人を守ってほしいという意向があるならば、遺言執行者にはなりません。
(遺言執行者になると紛争対応は一切できないことを説明します。)

つまりは、遺言執行者になった以上は、中立性を害することは
できないので、紛争には介入せず、淡々と遺言の内容を執行するだけです。
(遺留分は遺言の執行自体には関係ありませんので)

ですので、

>業務報告の任務が完了したら、相続人と受遺者全員に完了報告を行うとありますが、
>もめているところは実務的には省略しているということでしょうか?

専門家が入る場合には、実務上も省略しません。
中立性が 求められる遺言執行者の義務ですので。
特に揉めているケースなどはそこをしっかりやっていないと
遺言執行者もまず紛争に巻き込まれます。

なお、相続法改正で通知義務が明文化されましたが、少なくとも
弁護士が執行者となる場合には、従前から中立性及び善管注意義務の
観点から、通知するのが通例でした。
専門家である第三者が携わる場合、財産の漏れや横領などを疑われるのも
問題なので、従前よりしっかりと報告するのが実務だったと思います。

なお、 特定の相続人が遺言執行者なっている場合は、あまり知られてもいないので、
報告などはちゃんとしていないケースが多いかと思います。

3 ご質問③〜相続税申告書について

>③相続税がかかる場合は、相続税の申告をすることになり、
>すべてを見ることは相続人や受遺者の権利ということになりますでしょうか?
>つまり相続税申告書のすべてをすべての相続人、受遺者に見せる必要はあるのでしょうか?
>例えば、生命保険をもらっていた場合の9表や死亡退職金をもらっていた場合の10表
>や3年以内贈与加算14表など一部を見せないということは不可能でしょうか?

まず、そもそも遺言執行者の職務の中に、
相続税申告は含まれません。

行うとすれば、別途税理士として、各相続人から依頼を
受けるということになります。

なので、依頼を受けた相続人の申告書を、
依頼を受けていない相続人に見せれば、
むしろ税理士法上の守秘義務違反となります。

特定の相続人から遺言執行者でもある税理士が、
申告の依頼を受けることが中立性の観点からどうなのか
というのはありますが、弁護士ではないですし、

遺言執行者の義務を果たしていれば、税理士さんの
場合は、特段問題はないでしょう。

多くの場合、税理士さんが遺言執行者になれば、
相続財産もわかっているから、申告も早いよねという
ような趣旨で、税理士さんを遺言執行者とするケースが
多いと思いますし。

なので、裏を返せば、一部の相続人に申告書を
見せたくないというケースでは、あまり税理士さんが
就任することのメリットはないのかもしれません。
(特定の相続人に遺言執行者となってもらった上で、
その特定の相続人から申告を受ける方が良いかもしれません)

よろしくお願い申し上げます。