相続 贈与 遺産分割

推定相続人以外の者に対する贈与の特別受益性について

吉永先生

お世話になっております。
●●と申します。

特別受益について質問です。

被相続人:父

相続人:4名
母、二男(相談者)、長男の代襲相続人の孫2人(16歳と20歳)

相続財産:マンション約4000万円、現預金約2000万円

父は、10年前に長男が死亡した後、総額で約2000万円以上を長男の妻に養育費、生活費等として渡していたと思われます。
父は以前は事業を行っていたためそれなりの収入がありました。(ただし、何年か前に事業はやめています。)また、マンションを約2000万円くらいで売却しており、それで得たお金も渡す原資となったようです。

数万~数十万円ずつ渡すときもあれば、父名義の口座を新規に開き500万円を入金し、その口座のカードを長男の妻に渡して好きなときに引き出すことができるようにしていたこともあったとのことです。
また、車の購入やマンションの固定資産税なども父が支払っていたようです。

二男は、長男の死亡後しばらくの間、長男の妻を雇用し、生活に困らない給与を払っていたそうです。また、二男の会社を退職した後も他社で事務職として一定の収入を得ているようです。

このような場合、今回の相続で「特別受益」をどのように考えればよいでしょうか?

長男の妻は推定相続人ではないので、そもそも「特別受益」とはならないのでしょうか?

もらったお金の一部は、当然子供たちの生活費、学費に充てられていると思いますが、祖父の「扶養の範囲」として「特別受益」にはならないと考えられますか?

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>被相続人:父
>相続人:4名
>母、二男(相談者)、長男の代襲相続人の孫2人(16歳と20歳)
>相続財産:マンション約4000万円、現預金約2000万円
>父は、10年前に長男が死亡した後、総額で約2000万円以上を長男の妻に養育費、生活費等
>として渡していたと思われます。
>二男は、長男の死亡後しばらくの間、長男の妻を雇用し、生活に困らない給与を払っていた
>そうです。また、二男の会社を退職した後も他社で事務職として一定の収入を得ているようで>す。
>このような場合、今回の相続で「特別受益」をどのように考えればよいでしょうか?

2 回答

まず、前提として、
仮に今回が、長男の代襲相続人に直接支払われていたというケース
であれば、考え方は別れるところですが、通説的な見解を前提とすると
長男の死後に支払われていたということであれば、特別受益に該当します。

一方で、今回は、直接的には相続人ではない長男の配偶者に
渡していたというケースですと、原則的には特別受益に該当しません。

ただし、
「通常配偶者の一方に贈与がなされれば、他の配偶者もこれにより
多かれ少なかれ利益を受けるのであり、場合によつては、
直接の贈与を受けたのと異ならないこともありうる。
・・・省略・・・遺産分割にあたつては、当事者の実質的な公平を
図ることが重要であることは言うまでもないところ右のような場合、
形式的に贈与の当事者でないという理由で、相続人のうちある者が
受けている利益を無視して遺産の分割を行うことは、
相続人間の実質的な公平を害することになる・・・・贈与の経緯、
贈与された物の価値、性質これにより相続人の受けている利益など
を考慮し、実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと
認められる場合には、たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与で
あつてもこれを相続人の特別受益とみて、遺産の分割をすべきである。」

として、相続人以外の者に対する贈与であっても、
特別受益であることを認めた裁判例が存在します。
(福島地裁白河支部昭和55年5月24日審判)

実際に紛争となり、
特別受益に含まれると主張する側であれば、
この裁判例を引用の上、争うこととなります。

>二男は、長男の死亡後しばらくの間、長男の妻を雇用し、生活に困らない給与を払っていた
>そうです。また、二男の会社を退職した後も他社で事務職として一定の収入を得ているようで
>す。

とのことで、生活に困らない給与が
あったということであれば、扶養の範囲とは認定
されにくいと思いますし、

>もらったお金の一部は、当然子供たちの生活費、学費に充てられている

という事情もあり、このあたりが立証できれば、
実質的に判断して、「特別受益」として認定される
可能性も高いところかと存じます。

よろしくお願い申し上げます。