創業者が所有する上場会社株式(以下「本件株式」)の譲渡、議決権について質問です。
前提
・創業者が代表取締役であり、本件株式を16%所有
・創業者が認知症になりかけているかもしれない
・創業者は現在代表取締役で、取締役は代表含めて合計7名
質問
・認知症になった判断は、どのような客観的判断によって、どのようなタイミングで行われるのでしょうか。(法律行為が一切できないタイミングの判断)
・創業者が保有する上場株式を、本件上場会社自身へ譲渡する際、又は後継者のプライベートカンパニーへ譲渡する際、法律的な規制はあるのでしょうか。
・創業者が認知症になった場合という条件付きで、創業者が保有する本件株式の議決権や、代表取締役の取締役会の定足数をあらかじめ無効にするような手段はあるのでしょうか。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜認知症の判断について
>・認知症になった判断は、どのような客観的判断によって、どのようなタイミングで
>行われるのでしょうか。(法律行為が一切できないタイミングの判断)
基本的には、認知症の判断自体は医師の診断書
でしょうが、結局のところ、
認知症=法律行為が一切できない(意思能力がない)
というのは、医師の判断も多分に影響しますが、
その法律行為の内容、前後の言動等の経緯から、
総合的に判断されます。
極論すれば、無効かもしれないし、有効かもしれないし
という状態で、紛争が起こった場合に、裁判所が
最終的に判断するまで、どの時点でどうだったのかは、
確定的にはわかならいものです。
(なので、事前対策しましょうということになるのですが)
2 ご質問②〜法律上の規制等
>・創業者が保有する上場株式を、本件上場会社自身へ譲渡する際、又は後継者のプラ
>イベートカンパニーへ譲渡する際、法律的な規制はあるのでしょうか。
合意ができれば、譲渡自体が制限される等の規制はありませんが、
上場企業の情報開示との関係や自己株式取得の手続きが
どこまで必要かは会社の状況によります。
会社への譲渡ではない場合、創業者が
譲渡すること自体について会社がとやかく
いえるわけではありませんが、会社側で準備や調査等は必要
でしょうから、上場企業の創業者であれば、
会社の情報提供の上、上場企業の法務や弁護士も含めて、
進めるのが一般的です。
(いずれにしても、最終的に伝えないということは法的にあり得ないので)
3 ご質問③〜認知症になった場合の対応
>・創業者が認知症になった場合という条件付きで、創業者が保有する本件株式の議決
>権や、代表取締役の取締役会の定足数をあらかじめ無効にするような手段はあるので
>しょうか。
(1)議決権を無効にする方法について
ここも紛争になる場面ですが、上場企業において、
認知症になったからといって、明確に無効とするという
適切な方法はありません。
つまりは、認知症社の議決権の行使があった場合に、
株主総会が不存在かどうか等が
議決権の行使が有効なのか、どうかが後々問題となる
ということです。
上場企業の場合、問題が顕在化するとかなり大きな問題
となってしまうので、信託や任意後見などを利用して、
議決権の行使者を定める等の対応が必要でしょう
(もしくは、上記のように譲渡等する対応)。
理論上は、創業者の保有株式のみ条件付無議決権
株式(種類株式)に変更するという方法もありますが、
正直申し上げて、上場企業で実行するのは、
株主や取引所の関係で、かなりの困難を伴い
現実的ではないように思います。
(2)代表取締役の取締役会の定足数をあらかじめ無効にするような手段
こちらについても、認知症になったから
といって、明確に定足数等から外すという方法論はありません。
従来は取締役が成年被後見人などとなった場合には、
取締役の欠落事由されていましたが、令和元年の会社法改正で、
就任には、成年後見人の同意が必要等に改正されました。
いずれにしても、上場企業のケースでは、
株主の関係で、認知症である者(またはその疑いがある者)
が経営決定などに参加する権限を有する取締役にとどまること
を他の役員が許容したなどだけでも株主代表訴訟の対象と
なりかねません。
認知症になってしまえば、辞任の効果自体が不明確な
となるため、成年後見人を選任して、辞任をする他
なくなってしまうかと思います。
もしくは、判断能力に疑いがあるということですと、
明確に認知症と診断される前に、
辞任をしておくという対応も必要なのではないかと思います。
よろしくお願い申し上げます。