医療法

医療法人の理事の辞任?解任?手続きの件

永吉先生、お世話になっております。

医療法人のお客様における理事(役員)の解任?辞任?手続等
についてお伺いします。

【概要】
医療法人の付帯業務として老人ホームも行っております。
3年前に老人ホームの運営経験のある方を医療法人の理事
として迎え入れ、その運営を任せていました。
(この方を以下「A」とします)

数ヶ月前に老人ホームの従業員の方々が連名で、Aの解任
要求が出されました。
調べたところAの従業員に対するセクハラ、パワハラ等が
明るみになり、しかも老人ホームの入居者様に対しても
暴言や悪態等があることが分りました。

それを知った理事長先生は、Aに対して辞任の勧告を
行い、Aは辞任することになっております。
(前年改選が行われており、あと1年任期が残っております)

ただ、Aは申し訳なかったというような態度ではなく、
なぜ?といった感じの対応でしたので、今後、どのような
対応をしてくるのか、理事長先生は心配されています。

【ご相談】
①このような状況で医療法人としてベストな対応はどの
ようなものなのか?
(例えば、可能であるならば辞任届を出してもらう等?)
②①のベストな対応が取れない場合、最低限、どのような
対応をしておいた方がよいのか?

もし解任ということになった場合、解任について正当な
理由がなければ、損害賠償請求されると本には書いて
おります。

そこで、
③従業員に対するセクハラ、パワハラ等が正当な理由に
なりうるのか?
④③が正当な理由にならないのであれば、どのように
すれば、正当な理由になり得るのか?

⑤これだけは留意しておいた方がよい点等があれば
お教えください。

長くなりましたが、
ご教示いただければ幸いです。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜医療法人としてベストな対応について

>①このような状況で医療法人としてベストな対応はどの
>ようなものなのか?
>(例えば、可能であるならば辞任届を出してもらう等?)

そうですね。Aを辞めさせると決めている前提であれば、
Aから辞任してもらうのが良いでしょう(辞任届等の提出含む)。

一方で、セクハラ・パワハラを今後しないのであれば、
残って欲しいということであれば、
セクハラ・パワハラがあった事実及び今後行わないという
誓約書等をもらうということもあるかと思います。
(今後、損害賠償のリスクを低減した上で、解任を
する根拠にもなりますので)

2 ご質問②〜その他の対応

>②①のベストな対応が取れない場合、最低限、どのような
>対応をしておいた方がよいのか?

辞任をしてくれないという場合には、
解任を除くと、上記の誓約書等をもらっておいたり、

パワハラ・セクハラの有無や程度が分かる
証拠を残しておいた方が良いでしょう。

3 ご質問③及び④〜解任の場合の正当な理由

>③従業員に対するセクハラ、パワハラ等が正当な理由に
>なりうるのか?
>④③が正当な理由にならないのであれば、どのように
>すれば、正当な理由になり得るのか?

実際にセクハラやパワハラ等が解任の「正当な理由」に当たる
と判断された例もあります(大阪地判令和2年1月24日等)。

>調べたところAの従業員に対するセクハラ、パワハラ等が
>明るみになり、しかも老人ホームの入居者様に対しても
>暴言や悪態等があることが分りました。

とのことですが、これがどの程度のものなのか
等はこちらでもわかりかねますが、

>数ヶ月前に老人ホームの従業員の方々が連名で、Aの解任
>要求が出されました。

という事情からは、
社会通念を逸脱した行為として、正当な理由に
当たる可能性が高いのではないかと思います。

4 ご質問⑤〜その他留意点

医療法人には、理事を3人以上置くことが
義務付けられています(医療法46条の5第1項)。
辞任の場合、理事の人数が3人
(定款等で3人以上の理事の最低員数を定めた場合はその人数)
を割った場合、以前として、Aが理事としての地位(権利義務理事)を有すること
になります(医療法46条の5の3第1項)。

また、解任の場合には、権利義務理事にはなりませんが、
医療法の場合には、定数の1/5を超えた欠員がでた
場合には、1ヶ月以内に補充しなければなりません(医療法46条の5の3第3項)。

したがって、Aを除くと最低数を割ってしまう場合には、
次の候補も探しておく必要があるでしょう。

よろしくお願い申し上げます。