不動産 民法

ローン特約に伴う白紙解除の覚書について

永吉先生

いつもお世話になっております。
税理士の●●です。

不動産売買におけるローン特約に伴う白紙解除をした場合の覚書についてご教示お願い
します。

【時系列など】
1.当方は買主で売主は宅建業者(外国人)。
2.売買契約は締結済で融資承認直前の状況であった。
3.融資承認直前に売主である宅建業者から重要事項説明書において、
告知すべき事項を告知するのを忘れていたと連絡があった。(排水施設に越境があ
るとのこと)
4.「3」の連絡があった後に売主の顧問弁護士から連絡があり、
売主は難しい日本語は分からないので以後は自分が対応するとのこと。
5.買主は越境に伴い融資審査をし直すなどの必要があるため結果的に融資は非承認に
なった。
6.売主の弁護士に買主の仲介業者からローン特約に伴う白紙解除の連絡をした。
7.買主の仲介業者から売主の弁護士に業界所定用紙の白紙解除の覚書を送付。
8.売主の弁護士から上記「7」に修正を加えた覚書が戻ってくる。

【ご質問】
売主側弁護士からの上記「8」の覚書には以下の内容が追加されていました。

・売主と買主は、誹謗中傷その他相手方の名誉を侵害する言動を行わないことを相互に
確約する。
・売主と買主は、原契約の紛争の内容、本覚書締結に至る経緯及び本覚書の内容を、正
当な理由なく第三者に口外しないことを相互に確約する。

1.上記覚書の追加事項は売主にしかメリットがなく、今回白紙解除になった原因は売
主の告知義務違反によるものなので、この文章を入れることに買主は難色を示していま
す。白紙解除の場合、この文章を入れる買主のメリットはあるのでしょうか。
2.買主は今回の告知義務違反について納得がいかなく、売主が誠意ある態度を示さな
い場合、免許権者(東京都など)や弁護士に相談したいと考えていますが、この文章を
覚書に入れると免許権者や弁護士に相談するのは難しいでしょうか。
3.この一連の流れは宅建業者の通常の業務範囲内で弁護士が対応する話ではないと思
うのですが、なぜ弁護士がここまで介入してくるのでしょうか。(白紙解約だから手付
金を返金するだけで良いのでは?)
4.売主も弁護士が介入してきているので、こちらも白紙解約とはいえ弁護士に依頼を
した方が良いでしょうか。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜買主のメリットについて

>売主側弁護士からの上記「8」の覚書には以下の内容が追加されていました。
>・売主と買主は、誹謗中傷その他相手方の名誉を侵害する言動を行わないことを相互に
>確約する。
>・売主と買主は、原契約の紛争の内容、本覚書締結に至る経緯及び本覚書の内容を、正
>当な理由なく第三者に口外しないことを相互に確約する。

>1.上記覚書の追加事項は売主にしかメリットがなく、今回白紙解除になった原因は売
>主の告知義務違反によるものなので、この文章を入れることに買主は難色を示していま
>す。白紙解除の場合、この文章を入れる買主のメリットはあるのでしょうか。

そうですね。
いただいた状況ですと、基本的に買主にメリットが
あるわけではないと思います。

先方の弁護士が
これがないと覚書を締結しない趣旨なのかは不明なので、
端的にことの経緯から入れたくない旨伝えてみては
いかがでしょうか。

内容的に、弁護士としては、
一応、依頼を受けたため、何か修正要望を
だしておくかなという程度の認識の可能性もあります。

2 ご質問②〜弁護士等への相談について

>2.買主は今回の告知義務違反について納得がいかなく、売主が誠意ある態度を示さな
>い場合、免許権者(東京都など)や弁護士に相談したいと考えていますが、この文章を
>覚書に入れると免許権者や弁護士に相談するのは難しいでしょうか。

基本的に弁護士への相談は、問題がないでしょう。
また、免許権者は法的には微妙な問題では
ありますが、結局のところ、買主が免許権者に相談して、
実際に処分等を受ける事案であれば、結果的に特段問題は
生じないと思います。

免許権者や弁護士に何を求めて、相談したいご趣旨なのか
によりますが、

免許権者に処分等を要請したいという場合、
このような覚書を締結しているということですと、
事実上、当事者間で済んだ問題とされる可能性は高まります。

一方、弁護士に損害賠償等を相談したいという趣旨ですと、
上記条項でそれが封じられるわけではないですが、
覚書の他の条項から難しくなる可能性もあると思いますので、
仲介業者の覚書の内容自体も確認した方が良いでしょう。

3 ご質問③〜弁護士介入の理由について

>3.この一連の流れは宅建業者の通常の業務範囲内で弁護士が対応する話ではないと思
>うのですが、なぜ弁護士がここまで介入してくるのでしょうか。(白紙解約だから手付
>金を返金するだけで良いのでは?)

その辺りは、個別的な理由になるでしょうね。

日本語に自信のない方ですと、紛争化するおそれが
ある場合には、一律に弁護士に頼む方もいらっしゃいますね。
(それで宅建業者をしていて良いのかという問題はありますが。)

あとは、紛争になるそうな案件は、ストレスになるので、
弁護士にお願いするという人もいるかと思います。

4 ご質問④〜こちらが弁護士を介入させるかについて〜

>4.売主も弁護士が介入してきているので、こちらも白紙解約とはいえ弁護士に依頼を
>した方が良いでしょうか。

先方の弁護士の修正要望が、そこまでのものでもないですし、
内容的にも、
売主も弁護士が介入しているからといって、買主も弁護士に依頼した方が
良いというわけではないと思います。

もちろん、覚書の内容を理解できているのが前提となりますが、
今後、損害賠償を考えている等の、白紙解除を超えた
何かを請求したい等があるのであれば、覚書締結前に
弁護士に相談することは意味があると思います。

よろしくお願い申し上げます。