民法 その他

金消契約書をペーパーレス(印紙税不課税文書)で作成したい

永吉先生

いつも大変お世話になっております。
表題の件、ご教示頂ければ幸いです。

<前提>
代表取締役が100%株主の同族会社です。

このたび、税務調査の決着に伴って、法人で経費計上したものが否認され、
代表取締役への貸付金として留保処理することとなりました。
この場合、税務署からは所謂3点セット(金消契約書・議事録・振替伝票)を
要求されますが、このうち金銭消費貸借契約書は印紙税の課税文書に該当します。

そこで、金銭消費貸借契約書をペーパーレス(印紙税不課税文書)で作成し、
その控えを税務署へ提出したいと思っています。

<質問1>
PDF文書にタッチペン等で署名(押印は省略)する簡便な方法を検討していますが、
この方式は有効でしょうか。

ペーパーレスの金消契約書を、なるべく費用をかけずに作成したいのですが、
他にどのような方法がありますか?

<質問2>
今回は、同族会社において契約当事者が「貸主:法人」「借主:代表取締役個人」
であることから契約上のトラブルになることは考えられませんが、
もし、ペーパーレスの金銭消費貸借契約書が第三者との契約であった場合、
証拠能力として劣るのでしょうか。また、証拠能力を高める方法はありますか?

以上です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜ペーバレス契約書〜

>PDF文書にタッチペン等で署名(押印は省略)する簡便な方法を
>検討していますが、この方式は有効でしょうか。
>ペーパーレスの金消契約書を、なるべく費用をかけずに
>作成したいのですが、他にどのような方法がありますか?

消費貸借契約自体は、契約書がなくても成立しますので、
当事者間で争いがなければ、上記のような方法でも、
問題はありません。

ただ、今回は、税務署が貸付金として留保処理
を認める条件として、必要ということで、
結局のところ、税務署が納得するかというだけの問題
ではあるので、税務署の判断に依存する話ではあるでしょう。
(何か指摘を受けた際に、契約書の形式で契約内容が変わるわけではないと
主張すれば良いとは思いますが。)

なお、他の方法でいうと、
ご質問②とも関連しますが、
クラウドサイン などを活用すると、
税務署が文句をいう可能性は著しく低いかなと思います。

https://www.cloudsign.jp/

2 ご質問②〜証明力等について〜

>今回は、同族会社において契約当事者が「貸主:法人」
>「借主:代表取締役個人」
>であることから契約上のトラブルになることは考えられませんが、
>もし、ペーパーレスの金銭消費貸借契約書が第三者との契約であった場合、
>証拠能力として劣るのでしょうか。また、証拠能力を高める方法はありま
>すか?

「証拠能力」という言葉は、法的にいうと
別の意味合い(形式的な証拠としての資格)になりますので、
証拠力や証明力等の言葉を利用します。

結局のところ、契約書は、契約の存在(と内容)を証明する
ものとなります。

日本の裁判制度では、

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
①本人の印影がある→その印影は本人の意思に基づいたものと
事実上推定される(一段目の推定)
②本人の署名または押印がある→文書全体の成立の真正が法律上
推定される(二段目の推定・民訴法228条4項)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

といういわゆる「2段の推定」というものがあります。

この場合、推定が及びますので、それに反対の主張をする
者が、例えば、印影が本人以外の者によること(一段目の推定への反証)
や押印をした後に本文が変造されたこと(二段目の推定への反証)などを
立証する必要があることになり、
契約書と異なる事実認定をするというのは非常にハードルが高い
ということとなります(つまりは「明確に」立証できなければ、
契約書の内容が契約内容とされる)。

この点、印影がないということですと
この2段の推定自体は及びませんので、そういう意味では、
通常の契約書に比較すると証拠力が弱いということにもなります。

一方で、上記の2段の推定が働かなくとも、
その他の事情などから契約が締結された事実を証明することは
可能です。

例えば、PDFでの契約書の締結について、
メール等でやりとりをしており、
そのメールアドレスが本人が使用しているものであること
やPDFの内容で成立したことについて合意されていること
が明らかであれば、契約の存在と内容を立証することは
できます。

実務的には多くのケースでは問題ないですが、
争われた場合には、2段の推定が及ばないので、
そこを丁寧に立証していく必要があるという
部分は残ります。

ここの立証ができるような形で、メールでのやりとり等を
残しておくと良いでしょう。

法的な議論は様々あるのですが、
上記のクラウドサインなどの電子契約ツールは、
この点などを考慮して、
作成されているということとなります。
https://www.cloudsign.jp/media/20200827-nidannosuitei/

よろしくお願い申し上げます。