いつもお世話になりありがとうございます。
●●と申します。
本当に基本的なところかと思いますが質問をさせて下さい。
(前提)
○ 書面による贈与の場合は撤回が出来ない
○ 書面によらない贈与の場合、既に履行した部分を除き、いつでも撤回することが
可能(民法550条)
(質問)
○ 書面により贈与契約書を作成した場合の贈与は、絶対に撤回ができないのでしょ
うか。
贈与者、受贈者とも取り消すこと(撤回)に納得(承諾)をしていたとしても、贈与
契約は 有効に成立しているとして、民法549条の贈与の効力が継続すると考えられるので しょうか。
今回、R3年の本年において父から子へ資金の贈与を実行しましたが、ある理由から
贈与契約を取りやめることになりました。
子から父へはお金を返金しています。
国税庁の通達で「合意解除等による贈与の取消しがあった場合の特例(4)」によ
り、
申告期限前で財産の名義を戻しているなどの場合は、贈与税は課税しないという
考え方がありますが、書面の贈与でも法的に撤回することが認められる、若しくは
認められる方法があれば、この通達の解釈でなくても、撤回できているので贈与税は
課税されないと考えています。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640704/01.htm
贈与契約書を破棄してしまえばいいのかもしれませんが、
確定日付を取っていたりと、一応、作成をしていたという履歴が残っています。
確定日付の件など、契約書があった事が見つかる可能性は低いのですが、
そもそもの考え方を整理したいと思っています。
また、今回は現金でしたが、不動産を贈与した場合は、普通は贈与契約書を作成し、
そして登記すると考えられますが、書面でも撤回できる方法があれば、申告期限前に
撤回をして登記を戻すことで贈与税の回避をすることができると考えています。
よろしくお願いいたします。
ご質問、あリガとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>(前提)
>○ 書面による贈与の場合は撤回が出来ない
>○ 書面によらない贈与の場合、既に履行した部分を除き、いつでも
>撤回することが
>可能(民法550条)
>(質問)
>○ 書面により贈与契約書を作成した場合の贈与は、絶対に撤回ができない
>のでしょうか。
>贈与者、受贈者とも取り消すこと(撤回)に納得(承諾)をしていたとして
>も、贈与契約は
>有効に成立しているとして、民法549条の贈与の効力が継続すると考えられる>のでしょうか。
>今回、R3年の本年において父から子へ資金の贈与を実行しましたが、ある>理由から贈与契約を取りやめることになりました。
2 回答
(1)「撤回」の場面と贈与税との関係
まず、ご指摘いただいた書面によらない贈与の「撤回」
(民法改正で、「解除」という言葉に改められましたが、
法的意味は同様と解されています。)については、
安易な口頭での贈与については、
本当に贈与の意思があったのか等贈与契約の有無を巡って
紛争が多発することが想定されるためこのような規定となっています。
これを相続税法の視点から見ると、
どの時点で、贈与税の課税対象となる行為が
あったかという意味で、
書面によるものはその契約の効力が発生した時とし、
一方で、書面によらない贈与は、その履行がされるまで、
撤回が可能であり、不確定なものとして、実際の履行の時期に
「取得した」と評価され、贈与税の対象となる行為とされるわけです。
(相基通1の3・1の4共-8)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/01.htm#a-1_1_2_7
つまり、上記の「撤回」ができる状況の場合は、
そもそも贈与税の課税要件事実を満たしていない状態という
ケースになります。
今回は、ご質問では、
>今回、R3年の本年において父から子へ資金の贈与を実行しましたが、
>ある理由から
>贈与契約を取りやめることになりました。
とのことで、贈与の履行が実際に終わっているので、
書面によるものであっても、書面によらなくとも、
ここでいう「撤回」ができるということにはなりません。
なお、以下のサイトでも私が記事にしてますので、
ご参考になさってください。
https://zeirishi-law.com/minpou/zouyo/1#i-2
(2)事後的な合意による解除について
>一方で、
>贈与者、受贈者とも取り消すこと(撤回)に納得(承諾)をしていたとし
>ても、贈与
>契約は有効に成立しているとして、
>民法549条の贈与の効力が継続すると考えられるのでしょうか。
こちらは、お互いが合意により、
契約を解除することは当然可能です。
(贈与契約とは別途の合意ということになります。)
ただし、この合意解除は、上記の「撤回」と異なり、
贈与税の課税要件事実が発生した後に、契約が解消
された場合の課税関係の問題であり、上記の問題とは
別の税法上の論点になります
(ここは民事上の合意解除に遡及効が認められるのかとも別の問題です。)
厳密に理論を追求すると、
①贈与者→受贈者への贈与がなされ
さらにその後、本来返還する必要のないものを、
② 「①の受贈者」→「①の贈与者」に戻している
点で、
①及び②について、贈与税が課税されるという結論も
ないわけではないところです。
ただし、②については実務上も贈与税対象と
しないことで一致してます(以下の「12」参照)。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640523/01.htm
一方、①については、純理論的には、
一度充足された課税要件事実が、単に当事者の合意に
よってなくすことができるという積極的な理由はありません。
(申告期限後の合意解除である場合は、更正の請求の
「やむを得ない事情」により解除されたといえるのかという
問題となります(国通法施行令6条1項2号))。
ただ、国民感情などやも考慮した上で、
先生ご指摘の通達のように、
申告期限前の贈与の合意解除の場合で、
かつ経済的利益が完全に戻っているといえる
ようなケースでは、
「税務署長において〜取り扱うことができる」
という税務署長の判断次第ではという何とも言えない規定と
されているわけです。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640704/01.htm
なお、金子宏先生は、確定申告期限前の
合意解除であれば、申告をする必要はないという
ように解しています。ただ、その明確な理論的根拠は
不明です(贈与税は期間税でもないため)。
長くなりましたが、先生のご指摘の「撤回」の場面と、
合意解除の場面は異なるということです。
>また、今回は現金でしたが、不動産を贈与した場合は、普通は
>贈与契約書を作成し、そして登記すると考えられますが、
>書面でも撤回できる方法があれば、申告期限前に撤回をして
>登記を戻すことで贈与税の回避をすることができると考えています
こちらも撤回の問題ではなく、
上記通達上の合意解除の問題となります。
よろしくお願い申し上げます。