不動産 民法 所得税

不動産の譲渡の日の判定

永吉先生

●●です。
財産分与によるマンションの譲渡日がいつになるか意見をいただきたく
お願いします。

【前提】
夫と妻は、平成30年11月に公正人役場にて協議離婚証書を作成した。

第1条に協議離婚したこと、届出を速やかに行なうこと、離婚に伴う給付
等について以下の通り合意したことが記されており、以下不動産に関連
する内容は第2条に記載されています。

第2条
(1)夫は妻に対し、本件離婚に伴う財産分与として本件不動産(マン
ション)を給付することとし、同不動産について財産分与を原因とする
所有権移転登記手続をする義務のあることを認める。
(2)夫は本件不動産にかかる住宅ローンが完済された時又は夫がその債
務について免責された時(妻による免責的債務引受等による)に、本件
不動産について、上記財産分与を原因とする所有権移転手続きをする。
(3)本件不動産に係る固定資産税等や維持管理に要する費用は妻の負担
とする。
(4)夫は本件不動産を譲渡し又は担保に供するなど、第1項記載の義務
の完全かつ誠実な履行を妨げることをしないことを確約した。
(5)夫は、妻が第1項記載の条件付き所有権移転登記請求権を保全する
ための仮登記手続きをすることを承諾し、これに協力する。
(6)夫は、妻に対し、本件不動産に係る住宅ローン債務にについては夫
が返済を続けることを確約した。

第3条以下は、車や年金分割についての記載があります。

【ご相談】
2020年5月22日に夫は相続で取得した不動産を売却した。その売却額から
上記ローンを完済し、財産分与を原因とする妻名義へ不動産登記を行っ
た(登記簿に記載された財産分与日は2020年5月22日)。

夫は財産分与をしたことによりマンションの譲渡所得も発生することに
なるが、マンションの時価(隣戸の実際の売出価格)は購入時より大幅
に下落し、約10,000千円の譲渡損となる。
相続物件の譲渡益は約15,000千円のため、財産分与の日(不動産の引渡
し日)が2020年5月22日と判断できる場合は分離譲渡内での通算ができる
が、公正証書を作成した日が財産分与の日ともとれる。

本人は事前に所轄の税務署へ相談に行っており、通算できるという回答
を得ています。
また、仮登記もしておりませんでした。
私自身は、登記をしない限り不動産の処分権はないので、登記を完了し
た時点が(完全な)財産分与時と判断しています。

永吉先生のご意見を頂けたらと思います。

よろしくお願いします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>2020年5月22日に夫は相続で取得した不動産を売却した。その売却額から
>上記ローンを完済し、財産分与を原因とする妻名義へ不動産登記を行っ
>た(登記簿に記載された財産分与日は2020年5月22日)。

>夫は財産分与をしたことによりマンションの譲渡所得も発生することに
>なるが、マンションの時価(隣戸の実際の売出価格)は購入時より大幅
>に下落し、約10,000千円の譲渡損となる。
>相続物件の譲渡益は約15,000千円のため、財産分与の日(不動産の引渡
>し日)が2020年5月22日と判断できる場合は分離譲渡内での通算ができる
>が、公正証書を作成した日が財産分与の日ともとれる。
>本人は事前に所轄の税務署へ相談に行っており、通算できるという回答
>を得ています。
>また、仮登記もしておりませんでした。
>私自身は、登記をしない限り不動産の処分権はないので、登記を完了し
>た時点が(完全な)財産分与時と判断しています。
>永吉先生のご意見を頂けたらと思います。

2 回答

(1)意見について

おっしゃるとおり、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第2条
(1)夫は妻に対し、本件離婚に伴う財産分与として本件不動産(マン
ション)を給付することとし、同不動産について財産分与を原因とする
所有権移転登記手続をする義務のあることを認める。
(2)夫は本件不動産にかかる住宅ローンが完済された時又は夫がその債
務について免責された時(妻による免責的債務引受等による)に、本件
不動産について、上記財産分与を原因とする所有権移転手続きをする。
(3)本件不動産に係る固定資産税等や維持管理に要する費用は妻の負担
とする。
(4)夫は本件不動産を譲渡し又は担保に供するなど、第1項記載の義務
の完全かつ誠実な履行を妨げることをしないことを確約した。
(5)夫は、妻が第1項記載の条件付き所有権移転登記請求権を保全する
ための仮登記手続きをすることを承諾し、これに協力する。
(6)夫は、妻に対し、本件不動産に係る住宅ローン債務にについては夫
が返済を続けることを確約した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

確かになかなか判断が難しい形にされていますね。

(5)の条件が
所有権の移転の条件なのか、登記請求権の条件を定めた
ものなのかは必ずしも明確ではありませんが、
(2)の文言からは公正証書作成時に所有権は移転している
が、登記請求権に条件がついてるとされる可能性が比較的
高いのではないかと思います。

また、実際の占有関係(事実上の支配)は、
財産分与ということからすると、
既に妻が公正証書作成時(というよりもそれ以前)から
妻が占有していた可能性が高いと思われますが、

そうすると、事実上の支配という観点からは、
公正証書作成時を譲渡日と考えるのが自然です。

一方で、むしろ、財産分与の合意前後で、
占有関係が異ならないとすると、明確に引き渡し
(変化)が生じた時点をもって、譲渡日(引渡し時)
と評価するという考え方がないわけではないと思います。
そうなると、登記基準で考えるという考え方も
あり得るものと思います。

この辺りの問題は、財産分与義務の消滅を観念して、
財産分与財産が譲渡所得の対象となるという最高裁が判断
したのは良いとしても、その譲渡時期については議論されて
おらず、厳密には確定的な判断ができるわけではないものと
思われます。

ただし、本契約書を、住宅ローンの完済までは、所有権を
移転せず、住宅ローン完済の時点で所有権自体を移転する
条件だったと解釈すれば、所有権の移転という視点から
登記時点と評価されるという主張もあり得るところでしょう。
(文言からは少々厳しいと思いますが、登記資料として、
何を提出したのかは不明ですが、法務局も2020年5月22日
財産分与の日としているということもあります。)

なお、
>私自身は、登記をしない限り不動産の処分権はないので、登記を完了し
>た時点が(完全な)財産分与時と判断しています。

法的には、登記をしなくても所有権が移転して
いれば、処分権は生じています。
事実上は、登記されていない不動産の所有者
からはは誰も買わないということです。
つまり、法的な「処分権」という視点からですと、
そもそも、引き渡し前でも所有権さえ移転していれば、
生じているので、直接的な根拠にはならないものと
思います(もちろん、事実認定と評価の中では、法的な
主張ではなく、事実レベルのものとして考慮される事由とは思いますが)。

(2)現実の対応について

>本人は事前に所轄の税務署へ相談に行っており、通算できるという回答
>を得ています。
>また、仮登記もしておりませんでした。
>私自身は、登記をしない限り不動産の処分権はないので、登記を完了し
>た時点が(完全な)財産分与時と判断しています。

いただいたご質問のような合意書を作成
されてしまうと、正直なところ税理士の先生のお立場としても、
明確に判断ができないというのは、やむをえないと思います。
(最終的には裁判をやってみなければわからないという領域)

実際には、税務署で通算できるという回答を
得ていることや上記のように複雑な認定と評価が
求めれることから、更正などをされる可能性自体は
そこまで高くないとも考えられます。

税理士の先生のお立場としては、一定程度否認リスクが
あり、加算税等が生じる可能性の説明をした上で、
最終的には依頼者様に意思決定を仰ぐ他ない領域では
ないでしょうか。

そのような協議書を作成した責任まで税理士の先生が
負担させられるような対応は控えられた方が良いように
個人的には思います。