相続 遺言 遺産分割 株式

相続人の一人が特別障害者で意思判断ができない場合の相続について

永吉先生

いつもお世話にありがとうございます。
●●と申します。

以下、ご質問をさせて頂きます。

(前提)
○ クライアントA社の会長甲に余命宣告がされました。

○ 相続が開始された場合、相続人は配偶者乙、長男丙(A社の社長)、
次男丁(特別障害者:医師判断能力無し)、長女戊の4名です。

○ 次男丁の介護はずっと、家族全員で資金面を含めて協力して
療養介護をしており、相続人間の関係は良好です。

○ 会長甲は現在、遺言の作成がないため、相続が開始されると
遺産分割協議が必要となり、次男丁に後見人などの代理人を
専任する必要があるかと思います。

○ 法定相続分通りの相続になると、多くの遺産が次男丁に相続されますが、
介護費用以外に使う事がなく、丁の死亡にて相続が発生すると、また
相続税が課税される可能性がありますので、丁に財産が相続されない方法を
考えたいと検討しています。

○ 次男丁の介護は、仮に父甲の遺産が相続されなくても、今まで通り
介護をする事になります。

(質問)
○ 仮に遺言を作成し、次男丁の相続分をなくした場合、遺留分の侵害請求が
される可能性やタイミングはあるのでしょうか。

事後に丁に後見人を選任した場合には、後見人が後から主張したりしますでしょ
うか。

○ 過去の同様な質問メールを拝見し、一つの検討方法として、相続人間の関係は良
好で、
今後も係争になる可能性は低いため、次男丁は意思能力があったとした前提で
遺産分割協議をし、丁以外の相続人で財産を相続することも、本来は無効ですが
誰も異議をいってこないと考えられるため、方法の一つかと考えています。

問題ないですという回答を先生に求めることはありませんが、留意点など、
実務的に留意すべき事はありますでしょうか。

もし、税務署から指摘されると実質未分割となり小規模宅地を否認される可能性が
あるかと考えています。また、法人Aの株式は長男丙がすべて所有し株式の承継
は 完了しているので、会社の運営上に支障はないかと考えます。

○ また、上記のリスクなどを回避するため、遺言書の作成を検討した場合、特定遺
贈 及び包括遺贈を含め、誰に何を、誰に何分の何という特定の遺産や割合を決める
ことが現時点では難しい状況です。

そこで、甲は丁以外の相続人に全ての財産を相続させ、特定の財産債務につい
て、 配偶者乙、長男丙、長女戊の3名だけで遺産分割協議をしなさいという遺言書の
作成は可能なのでしょうか。

可能であれば、そのような形での遺言書の作成ができればと思っています。

お手数をお掛けいたしますが
宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜遺留分について

>○ 仮に遺言を作成し、次男丁の相続分をなくした場合、
>遺留分の侵害請求がされる可能性やタイミングはあるのでしょうか。
>事後に丁に後見人を選任した場合には、後見人が後から主張したりします
>でしょうか。

ありうるとすれば、後見人に専門家がついた場合でしょうかね。
実際にあったりはします。

ただ、そもそもそこまで調査するかという問題や
相続開始からしばらく年月が経っているということである場合、

次男丁に対して、家族全員がしっかりと療養介護をしている
状況において、後見人があえて過去を引っ張り出して
主張してくるかというと、状況的に可能性が高いとは言えないかと思われます。

2 ご質問②〜遺産分割について

>今後も係争になる可能性は低いため、次男丁は意思能力があったとした前
>提で
>遺産分割協議をし、丁以外の相続人で財産を相続することも、本来は無効で>すが誰も異議をいってこないと考えられるため、
>方法の一つかと考えています。
>問題ないですという回答を先生に求めることはありませんが、留意点など、
>実務的に留意すべき事はありますでしょうか。
>もし、税務署から指摘されると実質未分割となり小規模宅地を否認される可
>能性があるかと考えています。また、法人Aの株式は長男丙がすべて所有し
>株式の承継は完了しているので、会社の運営上に支障はないかと考えます。

そうですね。
一般的にもおすすめできる方法ではありませんが、

特に今回のケースですと、徐々に判断能力が衰えていく
認知症等とは異なり、恒常的な特別障害者である
ということであるとすると、明らかに無効なものと
評価される可能性が高いので、通常のケースよりもおすすめ
できません。
(特に専門家が関わった際に、見解の相違ですむ問題
なのか?というところもあります。)

3 ご質問③〜遺言について

>また、上記のリスクなどを回避するため、遺言書の作成を検討した場合、
>特定遺贈及び包括遺贈を含め、誰に何を、
>誰に何分の何という特定の遺産や割合を決めることが現時点では難しい状況です。
>そこで、甲は丁以外の相続人に全ての財産を相続させ、特定の財産債務について、
>配偶者乙、長男丙、長女戊の3名だけで遺産分割協議をしなさいという
>遺言書の作成は可能なのでしょうか。

遺言としては、丁以外の相続人にすべての財産を相続させる
という遺言は可能ではあります。

つまりは、丁の相続分を0とする遺言としての意味を
有するいわゆる相続分の指定となります。

ただ、
それ以外の相続人が何割の相続分をもつのかは明らかではありません。

裁判所まで行けば、合理的意思解釈から丁を除いたと仮定した
法定相続分の比率とされるのか、等分とされるのかは疑義があります。
(おそらく遺産分割でまとめてしまうのでそこまでいく問題では
ないように思いますが。)

また、個別財産について、誰に相続させるのかということが
できないということですと、

相続分の指定とまりですので、未分割状態を解消するには、
遺産分割をする必要があります。

この場合に、相続分を0とされた
丁が遺産分割に参加する必要があるのか
という点については、以前●●先生から
いただいたご質問の回答でも記載がありますとおり、定説はありません。

相続分の指定(相続させる遺言)による遺産分割協議の方法及び可否について

(必要と解すると、丁に特別代理人を選定して
遺産分割をしなければ未分割状態のままということと
なります。)

ただ、相続分譲渡をした場合には、譲渡をした
相続人が遺産分割手続きから離脱するとされている
こととのバランスで、指定相続分「0」とされた
相続人が参加しない遺産分割協議も有効と
解すべきであるという見解が有力です(潮見ー詳解相続法P261等)。

本来は、このような状況になる前に対策をしておく必要が
ありますが、今の状況ということですと、
先生のご指摘のとおり、遺言で丁の相続分を0とすることをしておかれる
ということになるかとは思います。

もちろん、緊急処置になりますので、
遺言についての意思能力の問題もありますし、
その他、遺留分リスクや未分割とされるリスクも含めて、
完全にリスクを回避できるものではありませんが。

よろしくお願い申し上げます。