相続 民法

売掛債権を相続人の一部に振り込むことについて

永吉先生

いつもお世話になりありがとうございます。
税理士の●●と申します。

外注先の代表者が亡くなった場合の売掛債権の
振り込みについて質問をさせて頂きます。

(前提)
○ 法人A(建設業)は外注先として個人Bに対して
建設業務の一部を外注していた。

○ 個人Bは個人事業主として、法人Aから仕事を受注し、
月200万円ほどの取り引きがあります。

個人B(売掛金) → 法人A(買掛金)

○ 個人Bは十年ほど前から無申告の状態で、数年前に
税務調査が入り多額の追徴がされました。

そして、税務署と個人Bとの話し合いで、法人Aに対する
売掛債権の1割は税務署、9割は個人Bに振り分けて入金する
という合意をし、法人Aはその通り毎月振り込みをしています。

税務署から1割部分の入金に係る領収書は受け取っています。

○ 今回、個人Bは滞納している税金を完納しないまま、死亡してしまいました。

○ 法人AはR3年1月と2月分の個人Bに対する買掛金の支払いが未済の状態です。
そんな中、故個人Bの長男Cから連絡があり、個人Bの預金が凍結されているの
で、 長男であるCの個人口座に入金をして欲しいという依頼があり、その入金から
個人Bの業務に係る材料費や経費の未払債務を支払いたいと思っているという
連絡がありました。

○ 法人Aは、相続人である長男に買掛金である債務を支払ってもいいかと考えまし
たが、他にも相続人がいる場合も想定されますし、1割部分を支払っている税務署にも
何らかの連絡をした方がいいのかと判断に困っております。

(質問)

○ 亡くなった個人Bへの債務の支払いは、Bの相続開始により相続財産となり、
相続人間の共有状態となるかと思います。この場合、個人Bの未払債務の
支払いをするという理由があったとしても、長男Cにだけ債務の振り込みをする
ことは、他の相続人から問題視される可能性があると考えていますが間違って
いませんでしょうか。

○ また、個人Bの相続財産となった売掛債権は、可分債権と考えて、長男Cに
法定相続分だけを支払うことは問題ないのか、若しくは支払わなければ損害賠償
されるなどの注意点はありますでしょうか。

○ 税務署もいずれは判明する事なのですが、相続人から税務署に連絡をするまで
は、法人Aとしては特に税務署に連絡をせずに、買掛金の1割相当を税務署に支払う
ことで 個人Bと税務署との合意を継続することになるため、特に問題ないと理解してい
ますが、 間違っていませんでしょうか。
若しくは、法人Aから税務署に死亡の事実を伝えて対応を税務署と協議しても
相続人に対して法的な問題は発生しませんでしょうか。

○ 最後に、個人Bの凍結されていない預金があった場合に、その預金通帳に9割部
分の 債務を支払い、1割を税務署に支払うことで、あとは勝手に相続人間で話し合っ
て、 調整して下さいというスタンスをとっても問題はないでしょうか。

以上です。

お手数をお掛けいたしますが
宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜売掛金の相続について

>○ 亡くなった個人Bへの債務の支払いは、Bの相続開始により相続財産と
>なり、相続人間の共有状態となるかと思います。この場合、個人Bの未払債
>務の支払いをするという理由があったとしても、長男Cにだけ債務の振り込
>みをすることは、他の相続人から問題視される可能性があると考えています
>が間違っていませんでしょうか。
>○ また、個人Bの相続財産となった売掛債権は、可分債権と考えて、
>長男Cに法定相続分だけを支払うことは問題ないのか、
>若しくは支払わなければ損害賠償されるなどの注意点はありますでしょうか。

売掛金債権は、預金等と異なり純粋な金銭債権ですから、
遺言ない限り、相続開始と同時に、遺産共有とはならず、
法定相続分で分割されます。

ですので、厳密には遺産分割の対象とはなりません。
実務上は、遺産分割の対象に相続人全員の同意があれば
入れることが可能ですが(厳密には債権譲渡合意となります。)、

遺産分割もまとまっていない状態
ということですと、法人Aが全額Cに支払ってしまうと、
他の相続人から法定相続分の請求を受けた場合に、
法人Aは支払う義務を負うことになります。
(もちろん、その場合、Bに同額の返還請求は可能ですが、回収リスクを負います。)

現実的には、相続人間で揉め事に発生しなければ、
Cへ支払っても問題とならないことも多いと思いますが、
仮に揉めた場合等には上記のようなリスクがあります。

Cへの単独支払いをする場合には、
遺産分割協議書等の提出やCの口座に支払うことについて、
相続人全員の印鑑のある同意書を求めることになると思います。
(さらに厳密にということですと、印影の正確性を担保するため、
各相続人に印鑑証明もつけてもらうこととなります。)

なお、遺言がある場合であっても、その旨の通知がAに対して
あるまでは、遺言はない前提で考えていただいて構いません。

2 ご質問②〜税務署との関係について〜

>○ 税務署もいずれは判明する事なのですが、
>相続人から税務署に連絡をするまで
>は、法人Aとしては特に税務署に連絡をせずに、
>買掛金の1割相当を税務署に支払うことで個人Bと税務署との合意を
>継続することになるため、特に問題ないと理解していますが、
>間違っていませんでしょうか。
>若しくは、法人Aから税務署に死亡の事実を伝えて対応を税務署と協議しても
>相続人に対して法的な問題は発生しませんでしょうか。

まず、前提ですが、
この合意の当事者ですが、個人Bと税務署との間に合意書などが
あるということなのでしょうか。

どのような合意書なのか分かりかねるので、その合意がAに対して
どのような法的拘束力を有しているものなのかが不明です(将来債権譲渡構成の合意書などが予想されますが)。

いずれにしても、A自身が誰に支払いをすべきかという問題についてなので、
Bが死亡したことを税務署に伝えたとしても、特段問題ありません。
むしろ、協議した方が良いようにも思います。

3 ご質問③〜Bの凍結されていない預金があった場合について

>○ 最後に、個人Bの凍結されていない預金があった場合に、
>その預金通帳に9割部分の債務を支払い、1割を税務署に支払うことで、
>あとは勝手に相続人間で話し合って、調整して下さいという
>スタンスをとっても問題はないでしょうか。

対税務署の問題はご質問②の通りとして、
死亡したBの口座に振込むことについてですが、

厳密にはBの死亡を知った上でBの口座に支払う場合、
弁済としての有効性自体には、法的に問題があります。
(既に分割されている金銭債権に対して、権利者(各相続人)
以外に支払うわけですので)

ただ、現実論としては、このような対応をしておけば
問題が生じることは実務上はあまり考えられないとは思います。

よろしくお願い申し上げます。