不動産 民法 贈与税

使用貸借による付合と贈与税

永吉先生

お世話になります。税理士の●●です。

民法242条に、以下の定めがあります。

ーーー
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
ーーー

このため、以下の通り増改築した場合、持分を取得する等しなければ、贈与税の課税問題が生じると言われています。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4557.htm

ここで質問ですが、

・ 上記ただし書の権原には、使用借権は含まれるのでしょうか?
含まれるなら、使用貸借で建物貸して、使用貸借に基づき増改築
すれば付合は成立しないことになるのかと疑問に思っています。

補足ですが、賃借権はこの権原に含まれるとしながら、以下のような
ブログもあり、判断に迷っています。

このブログの指摘の通りなら、賃借権に基づいて建物に設備を附属しているのに、
付合が成り立つ?という結論になるかと思ってますが。

https://www.vbest-tax.jp/blog/ryo_sawada/2018/06/blog-pos.html

・ 有益費償還との関係

使用貸借の場合、有益費は償還請求を貸主に行うことができると目にしました。
となった場合、増改築も有益費に含まれる?とすれば、使用貸借契約が終了
すれば償還請求ができるため、敢えて贈与と捉える必要もないかと思うのですが。

この点、どう考えればよろしいでしょうか?

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜付合の理解について

>民法242条に、以下の定めがあります。
>ーーー
>不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。
>ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
>ーーー
>このため、以下の通り増改築した場合、持分を取得する等しなければ、
>贈与税の課税問題が生じると言われています。
>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4557.htm

>・上記ただし書の権原には、使用借権は含まれるのでしょうか?
>含まれるなら、使用貸借で建物貸して、使用貸借に基づき増改築
>すれば付合は成立しないことになるのかと疑問に思っています。
>補足ですが、賃借権はこの権原に含まれるとしながら、以下のような
>ブログもあり、判断に迷っています。
>このブログの指摘の通りなら、賃借権に基づいて建物に設備を附属
>しているのに、付合が成り立つ?という結論になるかと思ってますが。

まず、そもそもの付合についてのご理解について、齟齬があるかも
しれません。

民法242条の解釈ですが、
「不動産に従として付合した」とは、
分離復旧させることが事実上不可能となるか、
または社会経済上著しく不利益な程度に至る
ことをいいます。

この付合した物ですが、
完全に不動産との独立性を失うもの(「第一種付合物」などと呼ばれます)
と不動産とは一応別個に存在する(付合した物単体で所有権を観念しうる)もの(「第二種付合物」などと呼ばれます)があると解されています。

そして、民法424条但書の
「権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない」とされて
いますが、「第一種付合物」の場合は、独立した所有権の対象とならない以上、
権限によって附属させたとしても、附属させた者に所有権が留保される
わけではないと解されています(大判昭和6年4月15日等)。
つまり、権限によったとしても、付合は自体は生じます。

おそらく先生がご想定されている
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4557.htm
の事案は、
第一種付合物を前提にしているのではないかと
思いますので、使用貸借が「権限」に含まれるのか
否かというのは、関係ないのではないかと思われます。

この場合、付合させた者の「損失」については、
不当利得返還請求等で金額調整されることが、
民法248条で確認的に定められています。

2 ご質問②〜償還等(不当利得)請求との関係

>使用貸借の場合、有益費は償還請求を貸主に行うことができると目に
>しました。
>となった場合、増改築も有益費に含まれる?とすれば、使用貸借契約が終了
>すれば償還請求ができるため、敢えて贈与と捉える必要もないかと
>思うのですが。
>この点、どう考えればよろしいでしょうか?

タックスアンサーの表現的に
先生のご指摘はごもっともかと思います。

この場合、有益費の償還と構成するのか、上記の不当利得として
構成するのかは別として、
「対価の支払い」があるのであれば、
一応、以下のタックスアンサーでも贈与税が課税されるとはされていません。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4557.htm

ただ、この問題は、
親・子を想定しており、通常の合理的意思解釈として、
このような状況で、子供が親に対して、その金額を請求しない
前提での増築であるとの社会通念的な行為の評価と判断を含んでいる
ように思いますね。

例えば、親の債務を子供が代わりに払ったが、
その状況から、それを贈与と評価するのか、貸付(求償権あり)と
評価するのかというような事実認定と評価の問題に近い問題
かと思います。

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生

ご回答ありがとうございます。
追加で教えてください。

> まず、そもそもの付合についてのご理解について、齟齬があるかも
> しれません。
>
> 民法242条の解釈ですが、
> 「不動産に従として付合した」とは、
> 分離復旧させることが事実上不可能となるか、
> または社会経済上著しく不利益な程度に至る
> ことをいいます。
>
> この付合した物ですが、
> 完全に不動産との独立性を失うもの(「第一種付合物」などと呼ばれます)
> と不動産とは一応別個に存在する(付合した物単体で所有権を観念しうる)もの(「第二種付合物」などと呼ばれます)があると解されています。
>
> そして、民法424条但書の
> 「権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない」とされて
> いますが、「第一種付合物」の場合は、独立した所有権の対象とならない以上、
> 権限によって附属させたとしても、附属させた者に所有権が留保される
> わけではないと解されています(大判昭和6年4月15日等)。
> つまり、権限によったとしても、付合は自体は生じます。
>

となると、

第一種付合物⇒権限に関係なく付合が成立する
第二種付合物⇒賃借権等の権限があれば付合が成立しない

で整理は合ってますか?

加えまして、第一種と第二種の区分は実務的には難しいと思いますが、
何か基準はありますか。造作などは一般的に後者ですよね?

なお、現状問題になっているのは、改装費用(居宅を店舗にするもの)です。
これは第一種でいいですよね?

よろしくお願いいたします。

●●先生

追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜整理について

>第一種付合物⇒権限に関係なく付合が成立する
>第二種付合物⇒賃借権等の権限があれば付合が成立しない
>で整理は合ってますか?

はい。その整理になります。

2 ご質問②〜実務的な区分等

>加えまして、第一種と第二種の区分は実務的には難しいと思いますが、
>何か基準はありますか。造作などは一般的に後者ですよね?

おっしゃるとおり、個別財産から所有権の
対象となりうるだけの独立性があるのかという議論になりますので、
明確さに欠けますね。この辺りは、判例・裁判例の事案を前提に
当該事案ではどうかという点を判断していくしかないかと
思います。

第二種で想定されるのは、土地における樹木や建物の造作などです。

>なお、現状問題になっているのは、改装費用(居宅を店舗にするもの)です。
>これは第一種でいいですよね?

不動産の同一性を失うようなものはそもそも別として、

家屋の床の張り替えや増改築などは、判例上
第一種の整理になります。

厳密な意味では、費用の名目ではなく、
工事の内容等を見なければわかりませんが、
基本的にその理解で良いと思います。