(前提)
・個人甲は、個人乙に対して不動産を売却する契約をした。
・手付金、中間金支払い後、最終決済前に乙が脳梗塞で倒れて意思能力のない状態になった。
・時系列は以下の通り。
R02.10.20 契約手付金受領
R02.11.10 中間金受領
R02.11.17 買主の親族から仲介業者経由で、買主が入院して決済日に決済できない旨の連絡あり。
R02.11.20 決済予定が決済されず。
その後有耶無耶なまま時間が経過し、
R03.2.10 司法書士が買主の入院先を訪問し、脳梗塞で倒れて回復の見込みがないことを把握。
・契約書上は違約金の項目に以下の文言あり。
1.売主または買主は、相手方がこの契約に定める債務を履行しないとき、自己の債務の履行を提供し、かつ、相当の期間を定めて催告したうえ、この契約を解除することができる。
2.前項の契約解除がなされた場合、売主または買主は、相手方に標記の違約金(売買代金の10%)を請求することができる。
ただし、債務の不履行がこの契約及び取引上の社会通念に照らして相手方の責に帰することができない事由によるものであるときは、違約金の請求はできないものとする。
・個人甲は、売買代金の10%の違約金を受け取って終了したいと考えている。
(質問)
・個人甲は、契約解除に向けて、どのような手続きをするべきでしょうか。
・違約金について、脳梗塞で倒れたことは、相手方の責に帰することができない事由に該当しますでしょうか。
宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜解除について〜
>・個人甲は、契約解除に向けて、どのような手続きをするべきでしょうか。
どこまで厳密に行うかは別として、
法的な話をすると、2週間程度以内に決済をする旨の催告をして、それが
ない場合には、解除する旨の意思表示をすることが必要となります。
ただし、今回のケースでは、
>脳梗塞で倒れて回復の見込みがない
とのことですので、乙に意思能力が認められず、
甲の解除の意思表示の受領能力がない状態にあるものと思料します。
その場合、厳密には、乙の親族が後見人の選任をしてくれない
限り、訴訟提起を行い、裁判所において特別代理人の選任の申立てをして、
その特別代理人に対して、解除の意思表示を行う必要があります。
仮に、解除のみで良いとする場合、ここまでするかは
微妙な判断が必要ですが、ただ、通知を送っても、
法的には解除はできていない状態となってしまっていますので
注意が必要です。
2 ご質問②〜違約金について〜
>違約金について、脳梗塞で倒れたことは、相手方の責に帰することができない
>事由に該当しますでしょうか。
契約の違約金についてですが、
今回の乙の債務は単なる金銭支払債務かと思います。
もちろん、契約書上で定められた合意ですので、
その意思解釈としてブレが多少は生じますが、
金銭の支払債務で、債務者が病気等になったという事情で、
「相手方の責に帰することができない事由」とされるか
というと、されない可能性が高いです。
ただし、違約金を請求するというのであれば、
法的には、上記の特別代理人を相手方として、請求をし、
その際に、合わせて解除の意思表示も行うという
こととなろうかと存じます。
なお、特別代理人が金銭を支払ってくるということであれば、
解除ではなく、売買を履行しなければならなくなります。
この辺りの手続きを弁護士を立てずに行う
ことは、少々無理があると思われます。
3 その他
上記が法的な解決方法ですが、
乙の親族等が解除を認め、違約金も支払ってくれる
ということであれば、事実上それで終了とするということも
現実論としては、あり得るところです。
(事実上、後で問題にならないであろうという意味で)
ただ、法的には実は、上記のとおり、
契約が残っている状態になりえますので、
その辺りを説明しつつ、どのように進めるのか
ご意思決定をいただく必要があるかと存じます。
よろしくお願い申し上げます。