いつも大変お世話になりありがとうございます。
●●と申します。
以下、質問をさせて頂きます。
(前提)
<相続人関係について>
○ ㈱A社の代表取締役甲(80歳:資産家)は最近、体調不良となり容態が思わしく
ありません。
○ 甲が死亡した場合、おそらく3億円ほどの死亡退職金(退職金規程による計算)
が支給されます。
○ 甲の相続人は、配偶者乙、子供3人(乙との子供)、そして先妻との子供(丙:
50歳)1名の合計5名となります。
○ 甲と先妻との子供(丙)との関係は良好ではありません。
○ 甲は、配偶者乙及び子供3名(乙との子)に殆どの財産を相続させる遺言書を作
成し、
かつ、子丙については、遺留分を侵害しない遺産を丙に相続させる内容の遺言書
を作成しました。
<死亡退職金について>
○ 役員退職金規程では、死亡退職金の受給者は遺族となっていて、特に第一順位、
第二順位などの記載はありません。
(質問)
① このまま甲に相続が開始されると、死亡退職金の受給者は遺族となり、遺産分割
の対象となるのでしょうか。
質問1519、1425を拝見すると、株主総会において決定する事で受給者を指定でき
るように思いましたが、
例えば受給者を乙と子供3名の4人に支給し、支給金額は当該4名で協議する、つ
まり
子丙を除外する方法を株主総会によって決議することは可能でしょうか。
② ①の方法にて、子丙から異議(訴訟など)が生じる可能性が考えられるのであれ
ば、退職金規約を変更しようとも考えましたが、
例えば、甲の希望を今から確認し、丙以外の子供だけを受贈者と規定したりすると、
今後において、他の役員の死亡退職金との統一性が保てないため、例えば規定では遺族となっているが、
死亡退職金については、遺言で子丙以外の相続人が協議して受け取ると記載し、
そして株主総会でも、その遺言内容によって死亡退職金の受給者を決議するという方法は質問①と比べて、より有効になるでしょうか。
③ 漠然とした質問ですが、子丙を死亡退職金から排除する方法がありますでしょうか。
生前に退職金を支給すると所得税と住民税が発生するため、死亡退職金により支給したいと考えています。
宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜遺族の定めについて
>このまま甲に相続が開始されると、死亡退職金の受給者は遺族となり、遺産分割
>の対象となるのでしょうか。
>質問1519、1425を拝見すると、株主総会において決定する事で受給者を指定でき
>るように思いましたが、
>例えば受給者を乙と子供3名の4人に支給し、支給金額は当該4名で協議する、つ
>まり子丙を除外する方法を株主総会によって決議することは可能でしょうか。
そうですね。
まず、会社の立場からすると、受給者が「遺族」とされている場合に、
実務上は、支給相手を株主総会で決定すれば、その後遺族から損害賠償請求等含めて
その請求が認められる可能性が低いのは、質問:1425のとおりです。
ただ、会社と受給者の問題と、相続人間の問題は別で、
仮にこの退職金が「相続財産」と判断されれば、
遺言内容に「その他の財産は、〜に相続させる」等の規定があればその者に、
帰属することとなります。
一方で、
遺言の対象となっておらず、かつ遺産分割なく特定の者が退職金を受け取った
場合には、その他の相続人から法定相続分等の請求を受けることになります。
(遺産分割の請求または不当利得(または不法行為)の返還請求の対象となるのかは、
その金銭の管理方法や支給方法によります。いずれにしても、形式上の違いで
本質的な議論は、「相続財産」にあたるか否かということとなります。)
>○ 役員退職金規程では、死亡退職金の受給者は遺族となっていて、特に第一順位、
>第二順位などの記載はありません。
この「遺族」というだけの定めにより、
相続財産になるか否かは、認定と評価の問題となり、なんとも言えません。
「相続人」という言葉を利用していない点では有利かとは思いますが、
遺族という言葉は、多義的であり、結局のところ、
先の質問での回答にもあるとおり
「死亡退職金の支給の根拠や経緯、
支給基準の内容等の事情を総合考慮して判断する」
ということとなってしまいます。
ですので、株主総会で支給者を決定すれば、
会社の立場としては、良いのですが、
相続人間の問題がなくなるというわけではありませんので、
注意が必要です。
2 ご質問②〜遺言に基づく支給決議について
>①の方法にて、子丙から異議(訴訟など)が生じる可能性が考えられるのであれ
>ば、退職金規約を変更しようとも考えましたが、例えば、甲の希望を今から確認
>し、丙以外
>の子供だけを受贈者と規定したりすると、今後において、他の役員の死亡退職金と>の統一性が保てないため、例えば規定では遺族となっているが、
>死亡退職金については、遺言で子丙以外の相続人が協議して受け取ると記載し、そ>して株主総会でもその遺言内容によって死亡退職金の受給者を決議するという方法
>は質問①と比べて、より有効になるでしょうか。
遺言について、死亡退職金が相続財産とされないケースでは、
遺言の対象となりませんので、法的な意味はないのですが、
「仮に、死亡退職金が相続財産と評価された場合には、その全額を〜に相続させる」
等の記載は有効な対策だと考えます。
しかし、
>死亡退職金については、遺言で子丙以外の相続人が協議して受け取ると記載し、
>そして株主総
>会でもその遺言内容によって死亡退職金の受給者を決議するという方法は質問①と
>比べて、より有効になるでしょうか。
この方法をとると、むしろ、支給の経緯からすると、
遺言が前提となっている点で、相続財産であると認定される
可能性をとても高めてしまう行為だと思います。
もちろん、上記の「仮に〜」の対策をしておけば、
仮に相続財産だとしても、誰に帰属するかを確定できますが、
遺留分の算定基礎財産には、含まれることとなりますので、
丙には有利になってしまう可能性が高いでしょう。
3 ご質問③〜その他〜
>漠然とした質問ですが、子丙を死亡退職金から排除する方法がありますでしょう
>か。
>生前に退職金を支給すると所得税と住民税が発生するため、死亡退職金により支
>給したいと考えています。
そうですね。やはりリスクを極力少なくしたいということですと、
~~~~~~~~~~~~~~~~~
第1順位・・・配偶者
第2順位・・・子で役員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していたもの。なお、同順位の者が複数いる場合には、人数に応じて按分する
・・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~
等の一般的な支給基準を事案に応じてうまく利用することだと思います。
「ご相談:1425」にも記載がある通り、
配偶者が受給者となる場合は、老後の生活の糧として、固有財産と
される可能性が極めて高いため、
例えば、配偶者が遺言で取得することとなっていた現預金を他の子に
書き換え、死亡退職金の受給者は配偶者となるが、全体財産から見ると
分配は異ならないようにする等の対策です。
この辺りは、財産の個別状況、多寡や甲のご意向などもあるところですので、
一般論としては回答しにくいところがありますが、法務と税務両者を
考慮した上の全体の中で判断が必要かと思います
(コスト等を含めてどこまでの対策するかを含みます)。
なお、
>子丙については、遺留分を侵害しない遺産を丙に相続させる内容の遺言書
>を作成しました。
とのことですが、死亡退職金が相続財産とならない場合でも、
生命保険金同様に、その金額の多寡や相続財産との割合等との
関係で、総合考慮の上、特別受益に準じる扱いをして、
遺留分の算定基礎財産に含まれる可能性もありますので、
上記とは別の問題ではありますが、この点も対策の際には、
考慮する必要があります。
よろしくお願い申し上げます。