貸倒 所得税 法人税 消費税 その他

犯罪収益移転防止法により没収された収益の法的性質と課税関係

永吉先生

いつも大変お世話になっております。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」により
収益が没収された場合には、その没収された収入について
法人税・所得税・消費税の課税関係において「最初から存在しなかった」
という取扱いをすることは出来ないものと考えますが、この没収金額について
どのような法的性質と捉えるのが適切か、ご教示頂ければ幸いです。

なお、没収された金額は「罰金等」に近い性質と考えるところですが、
「回収不能債権等」と考えることはできるのでしょうか。

没収された収益に対しては、既に担税力がないことが明らかですが、
追い打ちをかけるように法人税又は所得税及び消費税の納税義務が
発生してしまうことに違和感を感じております。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>「犯罪による収益の移転防止に関する法律」により
>収益が没収された場合には、その没収された収入について
>法人税・所得税・消費税の課税関係において「最初から存在しなかった」
>という取扱いをすることは出来ないものと考えますが、この没収金額について
>どのような法的性質と捉えるのが適切か、ご教示頂ければ幸いです。

>なお、没収された金額は「罰金等」に近い性質と考えるところですが、
>「回収不能債権等」と考えることはできるのでしょうか。

>没収された収益に対しては、既に担税力がないことが明らかですが、
>追い打ちをかけるように法人税又は所得税及び消費税の納税義務が
>発生してしまうことに違和感を感じております。

2 回答

(1)没収の概要

まず、犯罪収益移転防止法自体は、没収自体の根拠になる法律
ではありませんが、刑法で没収される場合もありますし、
その他、犯罪収益移転防止法絡みで、犯罪が明らかになり、
その法律に没収規定がありなされる例もあります。

没収とは、所有権等を剥奪して国庫に帰属させる処分のことです。
没収の対象としては、主に以下のものがあります。

・犯罪行為を組成した物
・犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
・犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
・前号に掲げる物の対価として得た物

(2)税務上の話

まず、ご存知のとおり、収益計上について、
発生主義の内容として、権利確定基準及びそれを補完する意味での
管理支配基準が採用されており、
違法収入であったとしても、後者が適用され、収入金額等に算入
されることとなります。

>なお、没収された金額は「罰金等」に近い性質と考えるところですが、
>「回収不能債権等」と考えることはできるのでしょうか。

>没収された収益に対しては、既に担税力がないことが明らかですが、
>追い打ちをかけるように法人税又は所得税及び消費税の納税義務が
>発生してしまうことに違和感を感じております。

おっしゃるとおりですね。

没収の趣旨はいくつかありますが、権利等を奪われ、国庫に帰属
するのは、「罰金」のような制裁的な趣旨も強いものです。

ただ、例えば、所得税法を例にだすと、
罰金が明確に必要経費に算入されないのは、
所得税法45条1項7号に該当するからです。
そういう意味では、没収は、罰金、科料、過料と異なり規定されていません。
(その他、45条5項の特殊な犯罪類型の規定もあるのでその点は、
犯罪事実から条文該当性を判断することになります。)

趣旨解釈や没収が罰金や科料に付随してされるものである
ことから、同号にいう「罰金」や「科料」に没収が含まれるという
考えがないわけではないでしょうが、
私見では租税法律主義の観点からすると、このような罰金や科料に
没収も含めて解釈することはできないと思います(刑法上も
明確に区別されている概念ですので)。

あとは、一般論としての事業関連性等の問題となるものと思います。

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生

「没収」についてのご回答ありがとうございました。
先生の仰るとおり「没収」についての損金算入(必要経費算入)を
制限する直接的な規定が無いことを理解いたしました。

また、会社税務釈義(第一法規出版)の解説を見つけました。

<引用ここから>
3巻2017の7頁
また,刑法により物品を没収される場合又は没収することが不能であるためそれにかえ追徴金を徴収される場合があるが,
その追徴金は,罰金,科料又は過料に該当しない(旧昭25直法1―100「55」,旧昭40直審(法)59改正参照)。
これは,そもそも「没収」が,不当な利得(所得)を剥奪することとなる財産刑であり,「没収」により
その課税すべき不当な利得が消滅することから,この場合の消滅の原因である「没収」(=損失)のみを
制限する理由がないという考えによるものである。
__________
3巻2017の14頁
また,罰科金の損金不算入において,いわゆる「没収」に当たるものは,これに含まれないものとされている。
つまり,不当な利得が没収される場合におけるその没収による損失額は,損金の額に算入されることになる。
これは,そもそも「没収」が,不当な利得(所得)を剥奪することとなる財産刑であり,「没収」により
その課税すべき不当な利得が消滅することから,この場合の消滅の原因である「没収」(=損失)のみを
制限する理由がないという考えによるものである。

この点は,外国の「没収」についても同様に取り扱われており,裁判所以外の機関による没収(もつとも,
行政権による違法な利益の剥奪は「没取」と称される。)や競争法における「没収」に相当する制裁金であつても,
当然に同様の取扱いとなる。すなわち,競争法違反に基因して納付を命ぜられた金銭であつても,
それが競争法違反となる行為による不当な利得の「返還・剥奪・没収」のみを目的とする制裁金であるときは,
その損失額は損金の額に算入されることとなる。
<引用ここまで>

上記を前提に、消費税の課税関係について次のいずれの取扱いとするか疑問が生じました。
・「不課税取引」
・「売上げに係る対価の返還等」
・「貸倒れに係る税額の調整」
本件事例では、カード会社からの入金が没収される見込となっております。
「貸し倒れ」の事実には直接該当しないので、「売上の剥奪」という点で「売上げに係る対価の返還等」に
類似すると考えますが、先生のご見解をご教示頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

●●先生

追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
情報のご共有もありがとうございます。

1 ご質問

>上記を前提に、消費税の課税関係について次のいずれの取扱いとするか疑問が生じました。
> ・「不課税取引」
> ・「売上げに係る対価の返還等」
> ・「貸倒れに係る税額の調整」
>本件事例では、カード会社からの入金が没収される見込となっております。
>「貸し倒れ」の事実には直接該当しないので、「売上の剥奪」という点で「売上げに係る対>価の返還等」に類似すると考えますが、先生のご見解をご教示頂ければ幸いです。

2 回答

まず、「売上げに係る対価の返還等」への該当性については、
消費税法38条の定めから、「返品を受け、または値引き若しくは割戻し」に
該当するかという問題となります。

まず、返品には該当しないものと思います。
また、値引きについても、財務諸表等規則取扱要項148
等からすると、該当しないものと思います。
「割戻し」に該当するのかという点ですが、いわゆる飛越しリベート等も
含まれる(旧取扱通達11−5−1)ことから、第三者である国が没収した
場合も含まれそうにも思えますが、やはりその文言からして、難しいものと
思います。「貸倒れに係る税額の調整」も先生のご認識のとおり該当しないもの思います。

本件の前提となっている刑事上の「没収」ということですと、
それ自体は、不課税取引に該当するということになりそうです。

あるとすれば、基本通達14−1−11なお書きにより、
契約が無効であった場合または取消された場合でも、
「売上げに係る対価の返還等」の規定の適用を認めていますので、
そもそもその取引が無効であったとして、このような処理を認めるかです。
(なお、本来は、無効が判明した場合、期中であればその取引を課税売上にしない、期をまたぐ場合には更正の請求の処理等になります。)

ただ、事情にもよるでしょうが、おそらくこの事案は、
取引の相手方からしても、不法原因給付(民法708条)
として、返還の請求ができないものであったものである可能性も高く、
無効としてこのような処理が認められるのかは疑問があります。

実質論としては、相手方に返還するか、国が没収するかの問題
しかなく、同じでように認められても良いようにも思いますが、
法律の建付からすると難しいのではないかというところです。

一旦は、「売上げに係る対価の返還等」とせず、
更正の請求をしてみるというのも1つの対応策なようにも思いますが、
最終的には、説明義務履行の上、依頼者さまのご判断になるかとは思います。

よろしくお願い申し上げます。