お世話になります。
税理士の●●です。
表題の件につき、以下よろしくお願いいたします。
Q1.退職金規程において、死亡退職金を第三者(親族外役員)に支給するという内容は法的には問題ないでしょうか。
Q2.問題ない場合、遺族からの特別受益や遺留分侵害額請求の対象となりえますか?
Q3.退職金規程がない場合、遺言で死亡退職金の支給を第三者(親族外役員)へ支給することは可能なのでしょうか。
個人的には厳しいのかなと思っているのですが。
よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①
>Q1.退職金規程において、死亡退職金を第三者(親族外役員)に支給するという内
>容は法的には問題ないでしょうか。
取締役の死亡退職金についての前提だと
思いますので、その前提で回答します。
株主総会で決議しているのであれば、
会社法の理論上は、問題はないことになります。
ただし、死亡退職金については、
相続財産となるものと受取人の固有財産となるものが、
事実認定と評価によりますので、
仮に相続財産であると認定されるものであれば、
相続人から第三者または会社が請求を受けることはあり得ます。
(この点は、繰り返し解説しておりますし、本質問とは
ずれると思いますので、詳細は文末の私のメルマガをご参照ください。)
なお、法人税法上の損金算入可否は
別の議論があると思います。
(親族外役員への役員賞与される可能性自体はあるのでは
ないかと思います。)
2 ご質問②
>Q2.問題ない場合、遺族からの特別受益や遺留分侵害額請求の対象となりえますか?
相続財産にならない前提ですと、
遺産分割における特別受益の問題はでてきません。
(あくまでも相続人の遺産分割における持分計算のための問題だからです。)
ただし、遺留分の場合には、持ち戻し対象にはなるという
解釈となる可能性はあると思います。
この部分について、明確な見解はないのですが、
理論的には、
○第三者への遺贈と同視する考え方(つまり無条件で遺留分算定基礎財産算入)
○共同相続人への死亡退職金と同様に、生命保険のように例外的に特別受益に準じる
という考え方
の2つがあると思われますが、
共同相続人の例である生命保険や退職金の特別受益の判例が、
第三者への支給にまで及ぶとは考え難いことから、
前者になるおそれがあることを前提に検討すべきでしょう。
(もちろん、そもそも相続財産となるものであれば、
特別受益該当性等は関係なく、算定基礎財産に含まれます。)
3 ご質問③
>退職金規程がない場合、遺言で死亡退職金の支給を第三者(親族外役員)へ支給することは可能なのでしょうか。
>個人的には厳しいのかなと思っているのですが。
こちらも相続財産か、固有財産かに依存するところで、
固有財産に属するのであれば、
遺贈の対象とはなりません(大阪高判昭和57年11月28日等)。
ただ、最近の裁判例では、役員死亡退職金は、
相続財産と固有財産の半分ずつのものである等の判断も
でていますので、相続財産部分は遺贈の対象となることと
なるとは思います。
しかし、この辺りを事前対策で行うことは
リスクが高いと思います。
どちらかというと原則として、
固有財産となる前提で考え、相続財産に含まれる
という認定リスクを避けるために、「その他の財産」について
遺言で定めておくというリスク管理は重要ですが、
今回のケースのように第三者への支給する
という場面で遺言を利用することは適切ではないと思われます。
よろしくお願い申し上げます。
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【役員死亡退職金は相続財産になる場合がある?】
税理士のための法律メールマガジン
2018年8月24日(金)
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●●●●さま
おはようございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
死亡役員退職金については、
相続税法上は「みなし相続財産」に
なるとされており、
民法上は、相続財産にはならない
というように考えられている方が
多いと思います。
これは、役員死亡退職金の場合、
死亡後の株主総会決議に基づいて、
会社が指定した受給者に支払われる
ため、
「死亡後に」権利が確定する以上、
相続財産ではないというのが理論的には
しっくりくるからです。
しかし、裁判例などでは必ずしも、
そのようには考えられていません。
もし仮に、死亡退職金が相続財産にあたる
ということであると、
実務上、遺産分割における交渉や
遺留分の算定に影響を及ぼすところですので、
今回はこの点について解説したいと思います。
一般的に最近の裁判例などを見ていると、
死亡退職金が相続財産に当たるか受給者の固有財産に
当たるかという点は、
「死亡退職金の支給の根拠や経緯、
支給基準の内容等の事情を総合考慮して判断する」
としているものが多いです。
具体的には、
支給を受ける者の生活保障などために固有の権利として支出される
ものなのか、
それとも、給与の後払的性質を有するか
(被相続人の功績に報いるためのものであり、
被相続人の勤続年数や功績等を考慮して算定されている
か)
により前者であれば「固有財産」
後者であれば「相続財産」というような方向性になっています。
裁判例によっては、
その金額算定の性質から
半分は固有財産、半分は相続財産としたものまで、
最近はでています(東京地裁平成26年5月22日)。
もちろん、役員の生前に退職金規定などが整備され、
死亡の場合の受給者が具体的に定められているの
であれば、その者の「固有財産」と認定されやすく
なりますので、そのようにしたいのであれば、
必ず作成しておくことが、法務の面からもとても重要です。
ただし、「配偶者」が受給者になっている
場合は、生活保障の側面が強くなり、「固有財産」
とされる可能性が高くなりますが、
例えば、「配偶者」がいるにも関わらず、「子」を指定
しているようなケースですと、生活保障という意味では
固有財産と認定される可能性が「配偶者」への指定よりも
低くなるでしょう。
あくまでも、事実認定と評価の問題であるため
相続対策を考えるにあたって、
退職金規定での対策も、実は万全ではないという点は、
知っておいても良いポイントかと思います。