相続 遺産分割

相続人のうち一人が軽度の認知症である場合の遺産分割

永吉先生

軽度の認知症の方がいる場合の遺産分割協議についてご教授お願い致します。

<前提事実>
・父、母、長女、次女の4人家族で、父が亡くなりました
・母は認知症の疑いがあり、判断能力があるかどうかは不明確(まだ医師に診断して
もらっていません)
・父の財産は自宅(マンション)と預金口座のみです。
・自宅の売却等あるので、親族はなるべく後見人をいれないことを希望しておりま
す。

<質問事項>
・判断能力があるかどうか親族では判断できない場合、医師の診断は必ず必要となる
のでしょうか。
・仮に母の判断能力があるとして(医師の診断はなく親族が勝手に判断したとし
て)、遺産分割を進めた場合、遺産分割が無効となってしまうことがあるとすれば、
どのようなタイミングで無効となるのでしょうか。
・母の判断能力があると親族が勝手に判断した場合、相続時において、遺産分割が無
効になること以外にどのような不都合が想定されますでしょうか。
・上記前提の場合、後見人を入れないようにする方法はあるのでしょうか。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜医師の診断が必要か?〜

>・判断能力があるかどうか親族では判断できない場合、医師の診断は必ず必要と
>なるのでしょうか。

結局のところ、認知症で遺産分割が無効となる
ケースは、遺産分割があり、その後、誰かしらに
無効を主張され、意思能力があるかないかが判断されます。

ですので、医師の診断書が必要かというと、
なんと回答して良いのか難しいですが、

認知症ではない(または軽い)と診断されれば、
有効であることを基礎付ける証拠にはなりますが、
重度の認知症とされれば、無効を基礎付ける
証拠になってしまうというところです。

これは、私も直接お会いしもしていないですし、
判断できないので、申し上げにくいのですが、

>・母は認知症の疑いがあり、判断能力があるかどうかは不明確(まだ医師に診断
>してもらっていません)

というのが、軽く物忘れがあるな程度やたまにちゃんと話を
理解しているのか疑問がある程度の家族の認識であるので
あれば、意思能力までないとされる可能性は低いかと
思いますし、

>・父の財産は自宅(マンション)と預金口座のみです。

ということで、簡単な内容の遺産分割にすれば、より
有効と解される可能性は高くなります。

2 ご質問②〜無効になるタイミング

>・仮に母の判断能力があるとして(医師の診断はなく親族が勝手に判断したとし
>て)、遺産分割を進めた場合、遺産分割が無効となってしまうことがあるとすれば、
>どのようなタイミングで無効となるのでしょうか。

法的には遺産分割が無効ですので、遺産分割をした時点から無効です。

ただ、上記のとおり、意思能力の有無は、事実認定と評価の問題と
なるため、無効かどうかを最終的に確定させるには、裁判をしなれば、
明確にはなりません。

一般的には、他の相続人が全員同意しているという
ケースですと、その後、後見人がついた場合などが
想定されますが、後見人も被後見人に不利(法定相続分以下)
でなければ、何も言いませんし、軽度である場合や認知症である
との診断書がないケースだと、
証明が難しいと考えることが多いとは思います。

なお、法的な理論上は税務署も遺産分割の無効を主張することは
可能ではありますが、現実的にはないでしょう。

3 ご質問③〜勝手に判断し場合のリスク

>母の判断能力があると親族が勝手に判断した場合、相続時において、遺産分割が無
>効になること以外にどのような不都合が想定されますでしょうか。

基本的には、遺産分割との関係では、無効となる以外に不都合はないかと
思いますが、勝手に母の押印などをすると私文書偽造罪などに は該当します。

その他、

>自宅の売却等あるので、親族はなるべく後見人をいれないことを希望しておりま
>す。

とのことですと、売却先がそのことを知れば、売却先は
無効となるリスクを負うことから、売却が難しくなる
可能性も一応、あるにはありますね。

4 ご質問④〜後見人を入れないようにする方法

>・上記前提の場合、後見人を入れないようにする方法はあるのでしょうか。

ご質問の内容だと、意思能力がないとはいいきれないと思いますが、

完全に安全に行いたいということですと、既に認知症となっている
場合には、法定後見人を選任するしかありません。
(仮に、現時点で、信託契約や任意後見契約をしても、
これらの契約が有効か、無効かが同じように問題となります。)

よろしくお願い申し上げます。