税理士法 税理士賠償責任 その他

一方的な顧問契約解除(終了)において注意すること

永吉先生

いつもお世話になりありがとうございます。
税理士の●●です。

遅くなりましたが、本年も宜しく
お願い申し上げます。

顧問契約解除において注意することについて
質問をさせて頂きます。

(前提)
○ 法人Aと税務顧問契約を締結(3年ほど前)

○ 法人Aの代表者甲(社長)は、かなり性格がズボラで
月次資料の提供がかなり遅く、現在もコロナを理由として
昨年(令和2年)の3月期の決算をまだ申告していない状態です。

○ また、月次の顧問料も1年ほど未払であり、前々期の決算報酬は
業績も悪いため、債務免除、月額の顧問料も半額にするなど、
法人Aの業績に応じて対応もしてきました。

○ 昨年の10月に会社に訪問し、このままでは顧問契約を継続することは
難しいので、いままでの未払金も免除するので、顧問契約を解除したい
旨を伝えたところ、継続したいことを懇願され、未払の報酬もなんとか
します、月次資料も郵送しますと約束をしましたが、現時点で何も
進捗はしていません。

○ 法人Aは2名の従業員がおり、簡単なので給与計算の事務は毎月
サービス状態で継続し処理をしています。

○ 上記のような状態なので、解除通知を送り顧問契約を解除したいと
考えております。

○ 今までの月次資料は返却しています。

(質問)
○ 法人Aとの顧問契約では、
① 法人税の申告作業(決算作業)
② 給与計算(年末調整業務を含む)
③ 試算表(総勘定元帳を含む)の作成
④ 会計、税務の相談

以上の契約をしていますが、特に解除などの条件については
契約書には謳っていません。

唯一、資料の提供と責任という条項により、請求書や領収書などの
委任業務遂行に必要な書類の提供が遅れた場合の不利益は、法人Aに
あるとする条項をいれています。

○ 現在、報酬が1年ほど未払の状況にあり、債務不履行状態ですが、
この様な場合でも、顧問契約の解除を通知した場合、
現時点までの試算表の作成義務や、仮に無申告状態から税務調査に
より更正処分をされた場合、こちら(税理士事務所)サイドに
損害賠償などの不利益が発生することはありますでしょうか。

法人は経常的な赤字状態なので、消費税の納税だけが発生します。
消費税は50万円ほどの税額の予想です。

○ 永吉先生の業務ひな形を参考にさせて頂き、契約終了時の通知書を作成したいと
考えていますが、合意書ではなく、一方的な解除通知にしたいと思っておりま
す。

その際に、税務処理の説明は終了済みであること、お互いの債権債務は
存在しないことを、一方的な解除通知に織り込んでも意味はない事に
なりますでしょうか。

例えば、税務処理の説明等は現時点で終了しており、お互いに債権債務は
ないものとすると記載し、この解除通知書の内容に異議があるときは
2週間以内に連絡をすること。連絡がない場合は、合意したものとします。
というような文言を入れることで対応できますでしょうか。

○ 他に一般的な注意点があれば、お教え頂ければ幸いです。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①

>報酬が1年ほど未払の状況にあり、債務不履行状態ですが、
>この様な場合でも、顧問契約の解除を通知した場合、
>現時点までの試算表の作成義務や、仮に無申告状態から税務調査に
>より更正処分をされた場合、こちら(税理士事務所)サイドに
>損害賠償などの不利益が発生することはありますでしょうか。

(1)試算表の作成義務について

今回のような事案で、債務不履行に基づく契約の解除をする場合には、
試算表の作成義務も合わせて消滅させることが可能です。

通常、報酬の未払いを理由に履行遅滞に基づく
解除をする場合には、一旦、債務を履行することを
催告し、相当期間経過時に解除することが必要ですので、

「1週間以内に支払いがない場合には、
債務不履行により契約を解除させていただきます」という
解除通知を送ることが一般的です。

ただ、履行されてしまうと契約が継続するという点があります。

この点が気になるようであれば、今回は1年にわたり未払いで
あることや

>昨年の10月に会社に訪問し、このままでは顧問契約を継続することは
>難しいので、いままでの未払金も免除するので、顧問契約を解除したい
>旨を伝えたところ、継続したいことを懇願され、未払の報酬もなんとか
>します、月次資料も郵送しますと約束をしましたが、現時点で何も
>進捗はしていません。

という経緯があることから、

「2020年10月●日に顧問料のお支払い及び月次資料のご提供
をお願いしたにも関わらず、未だに顧問料のお支払い及び月次資料のご提供もされて
いないことから、本通知を持って、●●年●月●日締結の税務顧問契約を解除させていただきます。」

という通知をするという対応でも問題ないでしょう。

(2)無申告状態から税務調査により更正処分をされた場合について

>仮に無申告状態から税務調査に
>より更正処分をされた場合、こちら(税理士事務所)サイドに
>損害賠償などの不利益が発生することはありますでしょうか。

基本的には、資料の提供が行われていない
ということですので、責任自体が生じることはない
ものと思われますが、資料の提供を急ぐように催促していた
のか、説明義務を果たしたか等が証拠からの認定上は
一応問題となります。

したがって、上記通知の解除の旨の記載の後半に、

「現在、貴社の令和2年3月期の法人税・消費税等の確定申告もなされていない状況です。
当社としては、再三の催促にも関わらず、貴社から必要資料のご提供等もいただけて
おりませんので、この点についても責任を負いかねますのでご了承ください。
なお、現在、新型コロナウイルス感染症対策として、期限延長措置等もございますので、詳しくは、国税庁HP「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」をご確認ください。」

という趣旨の文章も記載しておくことをお勧めします。

2 ご質問②〜合意書と同様の効力を生じさせることができるか

>永吉先生の業務ひな形を参考にさせて頂き、契約終了時の通知書を作成したいと
>考えていますが、合意書ではなく、一方的な解除通知にしたいと思っておりま
>す。
>その際に、税務処理の説明は終了済みであること、お互いの債権債務は
>存在しないことを、一方的な解除通知に織り込んでも意味はない事に
>なりますでしょうか。
>例えば、税務処理の説明等は現時点で終了しており、お互いに債権債務は
>ないものとすると記載し、この解除通知書の内容に異議があるときは
>2週間以内に連絡をすること。連絡がない場合は、合意したものとします。
>というような文言を入れることで対応できますでしょうか。

そうですね。説明義務の履行の確認や債権債務なしという清算条項は、
当事者の合意があって効果があるものです。

一方的な通知で、上記の文言を入れたとしても、
あまり意味はないでしょう(間接事実としての意味合いは
多少ありますが)。

それよりも、一方的な解約にしたいということでしたら、
ご質問①の内容をしっかりと記載する方が意味があるでしょう。

よろしくお願い申し上げます。