平素より大変お世話になっております。
税理士の●●でございます。
質問事項1:
被雇用者からの退職の申し出時期は、民法上、
退職日の2週間前となっていると見聞きしたことがありますが、
正しいでしょうか。
質問事項2:
相当の理由と、従業員の同意の両方があれば上記の限りではないと理解しておりますが、
従業員の同意は年に2回程度確認しておけばよいという解釈は成り立つでしょうか。
(平時においては2か月前に申し出ることに同意しており、
退職の意思を固めた後に従業員本人がもっと短い期間を主張するケース)
質問事項3:
会計事務所など顧客との継続的なやり取りを前提とする職種においては、
一般的にどのように予防線を張るのがよいものか、
何かお知恵を拝借できれば幸いです。
有給取得を含めれば、ほとんど引継ぎに協力しないような日程を組んだり、
繁忙期に配慮しないことも、理論上は可能なのでしょうか。
その場合に抗弁する方法があればご教示をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
ご質問の趣旨としては、いわゆる「正社員」
(期限の定めのない雇用)を前提としているかと
思いますので、その前提で回答します。
1 ご質問①〜退職申し出の時期
>被雇用者からの退職の申し出時期は、民法上、
>退職日の2週間前となっていると見聞きしたことがありますが、
>正しいでしょうか。
法律的いうと、「合意退職」と「辞職」は意味が
異なるもので、
前者は、経営側と従業員の合意による退職で、
後者は、従業員からの一方的な解約のことをいいます。
民法が期間を定めているのでは、「辞職」についてです。
辞職の場合は、従業員が解約の申入れをすると、申入れ日
より2週間を経過することに雇用契約が終了すると
されています(民法627条1項)。
なお、一般的な退職届は、合意退職の申込みなのか、
解約の通知なのかは、具体的な状況によって判断
されるものですが、このあたりは、日本の裁判所では、
労働者有利に判断されることが一般的です。
例えば、退職の意思を撤回可能かという局面では、
合意退職の申込とされるケースが多いですし、
従業員有利に退職の効力が生じているかという局面では、
解約の申入れとされるケースが多いです。
2 ご質問②〜「辞職」に対する特約について
>相当の理由と、従業員の同意の両方があれば上記の限りではないと理解しておりますが、
>従業員の同意は年に2回程度確認しておけばよいという解釈は成り立つでしょうか。
>(平時においては2か月前に申し出ることに同意しており、
>退職の意思を固めた後に従業員本人がもっと短い期間を主張するケース)
民法の特別法である労働基準法では、従業員からの「辞職」の
時期については、何ら定めがありません。
したがって、就業規則や合意により、
修正することができると考えるのが理論的なようには思います。
ただし、日本の裁判所は労働基準法の趣旨から、
基本的に労働者有利な判断をしますし、従業員の職業選択の自由
などにも影響する問題ですので、就業規則や合意があれば、
確実に2ヶ月前に申し込みをしなければならないと判断されるか
というと、個別事情によりますが、難しいように思います。
一般的には、就業規則などの定めでも、14日は経営に厳しすぎる
ため、1ヶ月程度で定めを置いているものが多いですが、この辺りが
予防という意味では限界なようにも思います。
もちろん、従業員の同意を年に2回程度とっていた等の事実は、
経営側に有利な事情とはなると思うので、
2ヶ月前の申込みを求めるということであれば、行った方が
よいとは思います。
基本的には残念ながら、2週間でいなくなることも
想定をしつつ(もちろん可能性含めて)、
事業体制でどこでリスクをとるのかを検討していかな
ければなりません。
3 ご質問③〜会計事務所における対策〜
>会計事務所など顧客との継続的なやり取りを前提とする職種においては、
>一般的にどのように予防線を張るのがよいものか、
>何かお知恵を拝借できれば幸いです。
結局のところ、従業員が2週間で退職し、その後
の業務を行わなったとしても、法治国家では、
その人を無理やり働かせることはできません。
2ヶ月との合意が有効である前提であっても、
実際の紛争になれば、2ヶ月ではなく、2週間で
いなくなってしまったことにより、具体的な損害
が発生し、損害賠償をするということになるだけです。
その場合、1人の従業員がいなくなっただけで、
具体的な損害が発生するという経営方針や体制に
についても問題があるのか等になりますので、
一般的な会計事務所の職員さんを想定すると損害賠償を
するというのはあまり現実的ではない場合が多いと思われます。
したがって、紛争になった際に勝訴するということ
よりも、日頃から退職の際には引継ぎが必要であることや
それがなければ他の従業員さんに迷惑がかかる等を
理解してもらうことに努める方が現実的な対応となります。
就業規則や合意をすることで、このルールを周知することも
重要でしょう。人は、事前に認識していたことを前提に
将来のプランなどを考えますので、所与のルールとして
印象づけることが重要かと思います。
>有給取得を含めれば、ほとんど引継ぎに協力しないような日程を組んだり、
>繁忙期に配慮しないことも、理論上は可能なのでしょうか。
>その場合に抗弁する方法があればご教示をお願いいたします。
そうですね。有給取得は法的に認められる権利にも
なりますし、従業員から申し出があれば、
話し合いで調整してもらうことは可能ですが、強制的に
認めないとすることは困難です。
最終的な有効性は別としても、会計事務所様であれば、
繁忙期は事前に想定できることが多いでしょうから、
就業規則に時期を特定して退職の申込時期について定める
など、所与のルールとして認識してもらうことが重要かと思います。
ただ、開き直られてしまうと法的には上記の通り、
有効とされるかは疑いが残りますし、無理やり働かせる
ことはできませんので、日頃から関係性などを
考慮することや、1名いなくなっても業務がなんとか回る状態を
できる限り作っておくということも併せて考える必要があります。
士業などの小規模事業者ですと、なかなか難しいところも
ありますが、どこでリスクをとるのか、そのリスクが顕在化
する可能性はどこまであるのか等を考慮して個別に経営判断
することとなるでしょう。
余剰人員を抱えることで
固定費の関係や各従業員が日頃の業務量に慣れて
しまって全体の業務効率性が損なわれてしまうことなどと、
突然退職されてしまうリスク(顕在化した際に所長が
無理をすれば、一時的になんとかなる問題なのか等含む)や
繁忙期におけるパートタイマーとの繋がりなども
考慮の上、判断していくこととなります。