お世話になります。
税理士の●●です。
新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
表題の件につき、以下よろしくお願いします。
■前提
1.金融機関からの融資につき、社長個人が保有する自社株に譲渡担保を設定した
2.株主名簿上の株主も金融機関に名義書換済み
3.譲渡担保契約において、議決権には何も制約なし
■質問
1.仮に社長に相続発生した場合(遺言なし)、相続税法上は課税されると理解しています(相基通11の2-6)が、遺産分割協議の対象となるという理解でよいでしょうか。
所有権が移転していることから、ふと疑問を生じました。
2.上記につき、相続税法上は本来財産という理解でよいでしょうか。
遺産分割協議の対象であれば本来財産と考えられそうなので、上記1.と連動するかもしれません。
みなし相続財産には規定されていないようなので、本来財産ではないかと考えています。
3.会社法上、株主名簿上の株主が金融機関である以上、金融機関が議決権行使をするという理解でよいでしょうか。
その場合、譲渡担保契約で議決権行使につき制限をすることは可能なのでしょうか。
4.上記全てにつき、譲渡担保を前提としましたが、質権であった場合には税務上は同様の扱いと考えていますが、法務面では何か違いがあるのでしょうか。
また、実務的には質権、譲渡担保どちらの方が使い勝手がよいのでしょうか。
以上、よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
>■前提
>1.金融機関からの融資につき、社長個人が保有する自社株に譲渡担保を設定した
>2.株主名簿上の株主も金融機関に名義書換済み
>3.譲渡担保契約において、議決権には何も制約なし
1 ご質問①〜譲渡担保と相続財産性
>仮に社長に相続発生した場合(遺言なし)、相続税法上は課税されると理解しています(相基通11の2-6)が、
>遺産分割協議の対象となるという理解でよいでしょうか。
>所有権が移転していることから、ふと疑問を生じました。
そうですね。譲渡担保に係る法律関係は、
従来から
○所有権的構成(所有権が担保権者(金融機関)に移転したという考え方)と
○担保的構成(担保のために形式上所有権の移転としているに過ぎず、
実質的に担保権の設定に過ぎないという考え方)
の争いがありますが、判例は、問題となる局面に応じて
利益考慮をして判断しており、必ずしも一律にどちらという立場を
明確にはしていません。
ただし、遺産分割の対象となるのかという点でいうと、
厳密には
○所有権的構成→譲渡担保設定権者の契約上の地位
○担保的構成→担保付き所有権(厳密には株式に所有権という概念ので株主権)
という形でいずれの立場であっても、
相続財産となりますので、遺産分割の対象とはなるでしょう。
(遺産分割の対象は、所有権等のみではなく、
契約上の地位も含まれます。借地権なども厳密には契約上の地位です。
財産的価値の乏しいものを実務上、あえて記載するのかどうかは別問題ですが。)
実務上は、対象株式自体を遺産分割協議書に記載していれば、
合理的意思解釈から、どちらの構成で考えても、
そのような意味で解釈されるものと考えます。
2 ご質問②〜相続税法上のみなし財産か否か〜
>2.上記につき、相続税法上は本来財産という理解でよいでしょうか。
>遺産分割協議の対象であれば本来財産と考えられそうなので、上記1.と連動するかもしれ>ません。
>みなし相続財産には規定されていないようなので、本来財産ではないかと考えています。
ご指摘のとおり、
上記のように、いずれの見解に立っても、
契約上の地位または所有権が相続財産となります。
つまり、みなし相続財産ではなく、本来の相続財産ということになります。
通達は、その点について明示していませんが、民事上の相続財産を
どのように税務上評価するのかという点について、記載されているに過ぎません。
(ですので、民事と税務で法的な構成が異なるという問題ではありません。)
3 ご質問③〜議決権行使等について
>3.会社法上、株主名簿上の株主が金融機関である以上、金融機関が議決権行使をする
>という理解でよいでしょうか。
>その場合、譲渡担保契約で議決権行使につき制限をすることは可能なのでしょうか。
ご質問①と関連しますが、担保的構成を取れば、設定者(社長)に、
所有権的構成を取れば、金融機関にということになります。
この点、最高裁平成17年11月15日は、
譲渡担保の設定された株式の議決権を含む共益権の
帰属について以下のようにしています。
「株式を譲渡担保に供した場合の株主共益権の帰属については,その株式
の内容,譲渡担保契約に至る経緯,契約の内容等諸般の事情を考慮して,契
約当事者の合理的な意思解釈によって決すべきである」
詳細は、以下からご参照ください。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/044/050044_hanrei.pdf
結論として、譲渡担保権者に共益権を認めていますが、
「単に株式の交換価値の把握を目的にしたものにとどまらず〜
経営権を確保しようとしたものであるということができ」という
箇所が判断のポイントとなるかと思います。
なお、
株券発行会社の場合は特に
>2.株主名簿上の株主も金融機関に名義書換済み
いわゆる略式ではなく、登録譲渡担保としている点は、
金融機関に共益権もあるとする方向に働く事実かとは思います。
>その場合、譲渡担保契約で議決権行使につき制限をすることは可能なのでしょうか。
この契約があるからといって、共益権のうち議決権のみ
制限するというのは理論上は難しいと思います(もちろん、株主間合意
としての効力はあるとは思いますが)が、
この条項が入っていれば、上記の合理的意思解釈の認定の問題
として、社長が議決権が行使できる可能性は高くなるでしょう。
4 ご質問④〜質権との違い〜
>4.上記全てにつき、譲渡担保を前提としましたが、質権であった場合には税務上は同様の
>扱いと考えていますが、法務面では何か違いがあるのでしょうか。
>また、実務的には質権、譲渡担保どちらの方が使い勝手がよいのでしょうか。
法務面での細かい違いというと論文になってしまいますので、
詳細は割愛しますが、
今回のご質問の関係でいうと、質権であれば、
典型担保権として、担保権であることが明確になりますので、
共益権である
議決権は社長に留保されることとなります。
上記の譲渡担保に関する所有権的構成と担保権的構成は、
つまりは、質権等の担保権に近づけて考えるのか、それとも、
「譲渡」という形式を重視し、所有権自体の移転と考えるのか
に発するものとなるからです。
一方、債権者(金融機関)の立場からすると、
その執行方法等から一般的には譲渡担保の方が有利とされています。
本件とは関係ないかと思いますが、
実務上は、略式質と略式譲渡担保を設定する場合、
いずれとするかを曖昧なものとする金融機関も存在します。
その場合、一般的に債権者有利に譲渡担保と認定される
可能性が高いとされますので、この点も注意が必要です。
よろしくお願い申し上げます。