貸倒損失につき、9-6-1(4)を適用する場合、
その書面による意思表示は到達主義が採用されています。
これにつき、顧問先の社長から質問を受けました。
相手先の不在、不明、受取拒否などの場合で、
内容証明郵便が戻ってきてしまった場合でも、
取引開始時の基本契約書に下記の条項を入れておけば、
到達という要件が満たされるか?、という点です。
乙の不在その他の理由により、甲から送付された本取引に関する通知が保管期間満了により返送された場合、
当該通知は内容に関わらず、当該保管期間満了時に乙に到達したものとみなす。
よろしくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>相手先の不在、不明、受取拒否などの場合で、
>内容証明郵便が戻ってきてしまった場合でも、
>取引開始時の基本契約書に下記の条項を入れておけば、
>到達という要件が満たされるか?、という点です。
>乙の不在その他の理由により、甲から送付された本取引に関する通知が保管期間満了により
>返送された場合、
>当該通知は内容に関わらず、当該保管期間満了時に乙に到達したものとみなす。
意思表示の到達擬制の定めについてですが、
民事上は解除の意思表示の到達等で有効であると
解されています(東京地裁平成23年12月1日判決等)。
ただ、上記の規定の仕方の場合、不在や受取拒否ではなく、
所在不明の場合には、保管期間なく返送されると思いますし、
その場合には、適用がないものとされる可能性が高いです。
(債権放棄なので民事上は問題が生じることがないですが、
法律上の貸倒れの時期を確定するという意味では、この条項を
直接の根拠とはできない可能性が高いです。)
貸倒れの対策を契約書で行うということであれば、
例えば、
「甲が、乙に対して本契約に関し、
契約書記載の住所または乙が通知した住所宛てに書面が差し出されたにも
かかわらず所在不明等で到達しないときは、発信後1週間で到達したものとみなす。」
などの規定も併せてご検討された方が良いでしょう。
なお、私が書いた古い記事となりますが、
実際に貸倒のための債権放棄(債務免除)についての
「相手先の不在、受取拒否」と「所在不明」の対応については
以下もご参考になさってください。
○不在・受取拒否の場合
https://www.tabisland.ne.jp/pct/column/column_05.htm
(古い他社での記事ですが、ここにいう普通郵便は
普通郵便のうち、特定記録郵便として到達日がわかる
ものを利用してください。内容証明郵便との併せ
技により、その文書の内容と到達時期が証明できます。)
○所在不明の場合
以下の私のメルマガをご参照ください。
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貸倒損失と公示による意思表示制度
税理士のための法律メールマガジン
2018年6月8日(金)
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●● さま
今日は、貸倒れについての
否認リスクについて、よく税理士の先生から
ご相談いただく下記の事項を解説します。
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◯関与先X社は、Y社に対して、高額の債権を有している。
◯数年前から支払が滞っている。
◯貸倒れ計上のため、債務免除の内容証明郵便などを送っても、
宛先不明で返送されてしまう。
◯登記情報を確認したところ、破産や清算された
旨の記載はない。
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債権放棄(債務免除)は、債権者(X社)
の債権を放棄する意思表示が、債務者に
「到達」しなければ、効力が発生しません
ので、このようなケースですと、
債権放棄の効力は発生しません。
理論的には、
事実上の貸倒れ(法人税法基本通達9-6ー2)
として、損失計上をすれば良いケースかと
思いますが、
債権額が高額ですと、税理士の先生から、
「事実上の貸倒れ」とすることに対して、
債権が法的に存在していることから、
期ずれ指摘などを含めて、否認リスクが
があるため、できる限りリスクを低減する
何か良い方法はないか?
とご相談いただくことがあります。
今回のような債務者行方不明の
事案で、債権放棄を行い「法律上の貸倒れ」
とする方法としては、
◯「公示による意思表示」
という制度があります。
1 公示による意思表示制度
公示による意思表示とは、
・相手方が誰かわからないこと
または
・相手方の所在がわからないこと
(相手方が法人の場合は、法人及び代表者の所在)
を要件として、意思表示の「相手方」に
意思表示が相手方に到達しなくても到達したものと
みなして意思表示の効力を発生させるために認めら
れている制度です。
この制度を利用すれば、今回のケースでも、
債権放棄の効力を生じさせることができ、
「法律上の貸倒れ」とすることができます。
具体的には、簡易裁判所に申立てを行い、
許可決定がでれば、書面が裁判所の掲示場に
掲示され、かつ、その掲示があったことを
相手方に通知する書面が市区町村役場の掲示場
に掲示されます。
そして、市区町村役場の掲示場での掲示を始めた日
から2週間を経過した時に、意思表示の効力が発生する
という扱いがなされます。
2 公示による意思表示の方法
具体的な提出書類や流れについては、
各簡易裁判所が比較的わかりやすく解説しています
ので、下記をご参考にしていただければと思います。
◯東京簡易裁判所
http://www.courts.go.jp/tokyo-s/vcms_lf/8-4-0-1setumei_all.pdf
以下、補足説明です。
(1)報告書について
書類としては、「相手の所在がわかないこと」の
報告書の提出をする必要があります。
具体的には、登記簿上の所在地の現地調査や、
相手方の電話番号を知っている場合、
電話をかけてもつながらなかった等
の事情を記載する必要がありますが、
内容証明が届かないという状況であれば、
おそらく上記の調査を行っても、
「所在がわからない」という要件を
満たすでしょうし(分かれば、回収をすることや
債権放棄をすれば良いだけ)、
各裁判所に問い合わせ
をすれば、比較的親切にどういうことを
記載すれば良いか指導してくれます。
(2)到達証明書
到達証明申請書を提出しておけば、
裁判書書記官により到達証明書が作成されます。
到達証明書の郵送を希望する場合には、
返送用の切手が必要になりますので、
申請時に提出しておくと良いでしょう。
これが、
◯行方不明であること
◯法律上の貸倒れであること
◯貸倒れの時期
についての重要な証拠となります。
(3)費用
費用としては、2,000円程度
です。
3 まとめ
もちろん、今回のケースでは、
上記の通り、
「事実上の貸倒れ」として、
損金計上するという方法が
理論的には可能です。
ただし、
「金額が高額で不安がある」
「調査で提出できる証拠が欲しい」
「法律上の貸倒れとしたい」
などを考慮して、リスクを
軽減する方法として、
今回は、「公示による意思表示」
という制度をご紹介させて
いただきました。
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