民法 その他

コンサル契約書の作成時の注意点

永吉先生

いつも大変お世話になっております。
●●と申します。

コンサルティング及びコーディネート業務委託契約における
注意点についてご質問をさせて頂きます。

(前提)
○ 法人Aは宿泊業を新規に行う計画があり、宿泊施設開業までの
コンサル及びコーディネートについて法人B社と業務委託契約を
締結する予定をしています。

法人Bに委託する業務の内容は、
・ 宿泊施設の企画、金融機関向けの事業計画書の作成
・ 設計業者、施工業者の選定、サポート
・ 宿泊施設の備品等の選定、提案、調達サポート
・ 各種申請業務手配のサポート

となっており、宿泊施設の企画からコンセプト作りなどの
サポートを法人Aは受けます。

○ 契約内容について、秘密保持や契約解除事項(契約違反、破産など)、
有効期間や紛争の合意所轄など、一般的な内容以外について、以下の
内容が記載されています。

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甲は法人A、乙は法人Bです。

第3条(対価)
甲は第2条(業務委託の内容)の対価として乙に対し本契約締結後、
速やか乙の指定する口座に下記の費用を支払うものとする。

総額 金1 5 0 万円(税別)

第6条(決定権)
甲は、本宿泊施設の開発業務に関し、仕様等の選択、判断についての決定権を
原則、有している。それらに関して、乙より質問、提示、提案があった場合は、速や

に判断または、乙または甲の指定する第3 者に委任する旨を乙に告知する。乙は甲
への事前の相談・告知なしに判断、または決定を行わない。
2 外観や機能に影響しない建築等に関する専門的な判断、決定に関しては、甲は
乙に、これを委任する。

第1 0 条(譲渡の禁止)
甲および乙は、本契約上の地位、本契約にもとづく権利義務の全部または一部を、
相手方の書面による事前の同意がない限り、第三者に譲渡、貸与もしくは担保の目
的に供してはならない。

第1 1 条(権利放棄)
甲および乙の一方が、相手方の特定の契約違反を許容し、その違反により発生す
る損害賠償請求権等の放棄をしても、その後の違反に対する権利を放棄するもので
はないことを、甲乙双方は確認する。
2 特定の条項の権利放棄を契約期限まで認める場合は、権利をもつ契約当事者が、
書面にて放棄する旨を承諾しなければならない。

第1 3 条(不可抗力)
本契約上の義務が、以下に定める不可抗力に起因して遅滞もしくは不履行となっ
たときは、甲乙双方本契約の違反とせず、その責を負わないものとする。
①自然災害
②戦争、内乱、暴動、革命および国家の分裂
③ストライキおよび労働争議
④火災および爆発
⑤伝染病
⑥政府機関による法改正
⑦その他前各号に準ずる非常事態
2 前項の事態が発生したときは、被害に遭った当事者は、相手方にただちに不可
抗力の発生の旨を伝え、予想される継続期間を通知しなければならない。
3 不可抗力が9 0 日以上継続した場合は、甲および乙は、相手方に対する書面

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(質問)
① 法人Aから質問があり、法人Aサイドにおいて、上記記載の契約内容にて、
注意すべきところはございますでしょうか。

② この様な業務委託契約を締結するにおいて、法人A側にて上記の契約に謳われて
いない事項で、注意すべき内容や、入れておいた方が適当な契約内容などは
ございますでしょうか。

私としては、上記の内容(3,6,10,11、13条)にて特に注意すべきところは
特にないのではと考えていますが、正直、法務的なレビューについては専門外の
ため質問をさせて頂きました。

抽象的なご質問になっているかと存じますが、
何卒ご容赦ください。

宜しくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜契約内容の注意点について

>法人Aから質問があり、法人Aサイドにおいて、上記記載の契約内容にて、
>注意すべきところはございますでしょうか。

基本的に契約書の全体的なリーガルチェックは、
背景事情、業務実態、関係性等も含めて、お客様から
直接のヒアリング等の上でなければ、
対応することができないので、法律相談会の対象では
ありませんが、今回は一般的な事項として回答します。

(1)第3条について

>第3条(対価)
>甲は第2条(業務委託の内容)の対価として乙に対し本契約締結後、
>速やか乙の指定する口座に下記の費用を支払うものとする。
>総額 金1 5 0 万円(税別)

まず業務委託料の支払いについてですが、
このような契約締結時の支払いは
一般的に受託者(今回ですと法人B)に有利です。

業務の具体的な内容や状況にもよりますが、
月額等とすることも検討の余地があるかと思います。

また、一括で契約時に支払う場合、
途中で契約が終了した場合に、
支払った金額についてどうなるのかも
定めた方が良いでしょう。

(2)第6条について
>第6条(決定権)
>甲は、本宿泊施設の開発業務に関し、仕様等の選択、判断についての決定権を
>原則、有している。それらに関して、乙より質問、提示、提案があった場合は、
>速やか
>に判断または、乙または甲の指定する第3 者に委任する旨を乙に告知する。乙は甲
>への事前の相談・告知なしに判断、または決定を行わない。
>2 外観や機能に影響しない建築等に関する専門的な判断、決定に関しては、甲は
>乙に、これを委任する。

「仕様等の・・判断」「建築等に関する専門的な判断」等の記載ですと、
両者の境が曖昧です。
また、「外観や機能に影響しない」かどうかも
判断者によってその基準が異なるため、後のトラブルに
なりやすいかなというのはあります。

そのため、甲が決定権をもつものと乙が決定権をもつものに
ついてもう少し細かく規定するか、
契約上は原則的に甲がすべての決定権をもつものとし、
専門事項についての決定は事実上乙に委ねるに止める方法も
あるかと存じます。

乙が甲に説明の上、甲が意思決定する等、その都度、
事項ごとに対応するのが一般的かとは思います。
(もちろん、個別事項について、甲の判断で、
乙に任せるというのも可能です。)

(3)第10条について
>第1 0 条(譲渡の禁止)
>甲および乙は、本契約上の地位、本契約にもとづく権利義務の全部または一部を、
>相手方の書面による事前の同意がない限り、第三者に譲渡、貸与もしくは担保の目
>的に供してはならない。

一般的な規定です。甲・乙の認識がこれで問題
なければこのままで良いでしょう。

(4)第11条について
>第1 1 条(権利放棄)
>甲および乙の一方が、相手方の特定の契約違反を許容し、その違反により発生す
>る損害賠償請求権等の放棄をしても、その後の違反に対する権利を放棄するもので
>はないことを、甲乙双方は確認する。
>2 特定の条項の権利放棄を契約期限まで認める場合は、権利をもつ契約当事者が、
>書面にて放棄する旨を承諾しなければならない。

日本の契約書ではあまり利用されないものですが、
英文契約書などでは利用されることがある条項です。

特定の契約違反があったことを
指摘などせず、放置していた場合や、
一部の違反を認めたらからといって、他の違反まで
許容したわけではないということを明確にするために
用いられます。

注意規定に過ぎないため、どちらに有利・不利というものでは
ないかと思います。

(5)第13条について

>第1 3 条(不可抗力)
>本契約上の義務が、以下に定める不可抗力に起因して遅滞もしくは不履行となっ
>たときは、甲乙双方本契約の違反とせず、その責を負わないものとする。
>㈰自然災害
>㈪戦争、内乱、暴動、革命および国家の分裂
>㈫ストライキおよび労働争議
>㈬火災および爆発
>㈭伝染病
>㈮政府機関による法改正
>㈯その他前各号に準ずる非常事態
>2 前項の事態が発生したときは、被害に遭った当事者は、相手方にただちに不可
>抗力の発生の旨を伝え、予想される継続期間を通知しなければならない。
>3 不可抗力が9 0 日以上継続した場合は、甲および乙は、相手方に対する書面

3項が途中で切れてしまっておりますので、
その点について申し上げられません(おそらく解除条項かと
思いますが)。

今回の契約では、
基本的に不可抗力により遅滞が生じ得るのは主に法人Bと考えられます。

この条項を残すのか、残すとしても、
これで解除する場合には、一部の対価の返金等を
受けられるのかを定めておく方法もあるかと思います。

つまり、不可抗力のリスクを誰かどれだけ負担するのかという
点です。

2 ご質問②〜その他の規定等について

>この様な業務委託契約を締結するにおいて、法人A側にて上記の契約に謳われて
>いない事項で、注意すべき内容や、入れておいた方が適当な契約内容などは
>ございますでしょうか。

こちらも個別事情によりますが、

・コンサル業務の再委託を禁じるのであればその旨の条項
・定期的に特定の方法で報告をBに求めたいということならその方法などについての条項
・知的財産権等の帰属・利用について

・上記のとおり、契約の途中終了の場合の対価の取り扱い等

あたりでしょうか。

上記はあくまでもお客様のご要望や個別事情などの
ヒアリングをしていないものとなりますので、
その点はご了承ください。

よろしくお願い申し上げます。